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03 もう一度あの森へ
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無事入社式を終えた俺は、夕食を終えたあと、自分の部屋のベッドの上で今日のことを振り返っていた。
心臓が壊れてしまうんじゃないかと思うくらい緊張したけど、これから頑張っていこうと思えるような入社式だった。
「母さんに報告しよう」
俺たちは、毎日寝る前に仏壇に手を合わせる習慣がついている。ただ「おやすみ」と言う日もあれば、その日のことを報告したり、悩み事を相談したりする。
やっぱりそれぞれ話もあるだろうし、家族がお風呂に入るタイミングで母さんの部屋に行くことが多いんだ。
母さんの部屋に入ろうとしたとき、部屋から明かりが漏れていることに気づいた。
あれ? 双子のうちどちらかがいるのかな? じゃああとにしようか。
そう思ったとき、部屋の中から「お兄ちゃん」と呼ぶ声がした。
その声に導かれるようにドアを開けると、そこには奏音と初音の二人が立っていた。
「あれ……。二人一緒なんだね」
「うん。昨日のことが気になっちゃって」
初音の言葉に、奏音が黙って隣でうなずいた。
「奏音とも話したんだけどね、三人で、お母さんに話しかけてみようって思ったの」
「やっぱり、お前たちもか……」
昨日の出来事は、一回だけの不思議な体験。夢みたいなものだと思い込もうとしていた。
けど忘れようとしても、なぜあの体験をしたのか、なにか理由があるんじゃないか。そう考えてしまい、どうしても心のもやもやが晴れない。
ちょうど母さんの仏壇に報告しているときの出来事だったし、双子の頭の中に響いてきたのは母さんに似た声だったし、やっぱり母さんが関係しているのではないかと考えてしまうんだ。
「普通なら、もういないお母さんに話しかけて、理由を聞くなんておかしいのかもしれないけど、私たちが不思議な体験をしたのは本当でしょ? だから、お母さんなら応えてくれるかもしれないって思うんだ」
「俺も、それは思った。母さんが関係しているのかもしれないって」
俺たちの会話を黙って聞いていた奏音が、突然俺と初音の腕を引っ張った。そのまま手を引き、三人で仏壇の前に座った。
「昨日の声は、母さんなの?」
奏音が口火を切り、仏壇に置いてある母さんの写真に向かって言った。
俺は聞いていないけど、二人は母さんの声に似た声を聞いている。導いた声が母さんだというのなら、昨日の不思議な体験のことを教えてもらえるかもしれない。
俺と初音も奏音に続いて口を開いた。
「あの不思議な世界に私たちを導いたのは、お母さんなの?」
「母さん、俺たちが足を踏み入れたあの場所は、いったいどこなんだ? なぜ俺たちなんだ?」
母さん、お願いだから答えてくれないか……?
心のなかでそう訴えたとき、母さんの写真の隣に置いてある絵本が、かすかに光りだした。
「――!」
その光景に、俺たちは顔を見合わせた。
絵本が光った……?
「もしかして、私たちが行ったあの場所は、絵本の中の世界なの?」
「……そうだと思う」
「これはきっと、母さんが俺たちを呼んでいるんだ」
俺は光を放つ絵本を手に取り、テーブルの上に置いた。
奏音も初音も、息を呑んでその絵本が光るのをじっと見つめた。
俺は、右手は奏音の手を取り、左手は初音の手を取った。そして、あの森から帰ってきたときのように、三人で輪を作るようにしっかりと手を繋ぎ合った。
「よし、行こう。三人で強く祈るんだ」
「うん」
「了解」
握りしめる手にぎゅっと力を入れ、強く願った。
俺たちを、母さんが導く絵本の中の世界へ連れて行ってくれ――!
ほのかに光っていた絵本から、一気に眩しい光が放たれた。その光に俺たちは一気に包まれていく。
眩しさでとっさに目を瞑った瞬間、ふわりと体が宙を浮く感覚に襲われ、遠くの空に思い切り放り出されたような衝撃を受けた。
それも一瞬で、すぐ足が地面を踏みしめたのがわかった。
両手に感じる手の温もりを残したまま、俺はゆっくりと目を開けた。
「この前と、同じ場所だ」
「成功したね」
この前は余裕がなかったから気づかなかったけど、ゆっくりとあたりを見回すと、たしかに見覚えがあるような風景だ。
幼い頃から何度も読んだ絵本の、はじめのページがこの森の中だ。
「やっぱり、ここは絵本の中なんだね」
「見覚えがある……」
「この前は余裕がなかったからな。じっくり見渡すと、確かに見たことがある気がするな」
俺たちはそう言いながら、もう一度まわりを見渡した。
この前絵本の中に入ったときは、太陽が真上にあったけど、今日はおそらくもっと早い時間のような気がする。
それに、今いるのは森の出口あたり。……ということは、毎回同じ場所や同じ時間になるわけではないみたいだ。
「ここが絵本の中の世界というのは、ほぼ確定だな」
「でも、まだわからないことばかりだよね」
「人がいそうな場所、探す?」
「そうだな。この前煙が上がっていた場所の様子を見に行けるといいんだけど……」
そう言いながら、開けた丘の方を見ると、前と同じように煙が上がっているのが見えた。
「あそこだ。煙が見えるから、行ってみよう。今回も、俺が先頭で奏音が後ろな」
「わかった」
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
まるで冒険の旅に出るように、腕を高く掲げると、初音は声高らかに出発の合図をした。
心臓が壊れてしまうんじゃないかと思うくらい緊張したけど、これから頑張っていこうと思えるような入社式だった。
「母さんに報告しよう」
俺たちは、毎日寝る前に仏壇に手を合わせる習慣がついている。ただ「おやすみ」と言う日もあれば、その日のことを報告したり、悩み事を相談したりする。
やっぱりそれぞれ話もあるだろうし、家族がお風呂に入るタイミングで母さんの部屋に行くことが多いんだ。
母さんの部屋に入ろうとしたとき、部屋から明かりが漏れていることに気づいた。
あれ? 双子のうちどちらかがいるのかな? じゃああとにしようか。
そう思ったとき、部屋の中から「お兄ちゃん」と呼ぶ声がした。
その声に導かれるようにドアを開けると、そこには奏音と初音の二人が立っていた。
「あれ……。二人一緒なんだね」
「うん。昨日のことが気になっちゃって」
初音の言葉に、奏音が黙って隣でうなずいた。
「奏音とも話したんだけどね、三人で、お母さんに話しかけてみようって思ったの」
「やっぱり、お前たちもか……」
昨日の出来事は、一回だけの不思議な体験。夢みたいなものだと思い込もうとしていた。
けど忘れようとしても、なぜあの体験をしたのか、なにか理由があるんじゃないか。そう考えてしまい、どうしても心のもやもやが晴れない。
ちょうど母さんの仏壇に報告しているときの出来事だったし、双子の頭の中に響いてきたのは母さんに似た声だったし、やっぱり母さんが関係しているのではないかと考えてしまうんだ。
「普通なら、もういないお母さんに話しかけて、理由を聞くなんておかしいのかもしれないけど、私たちが不思議な体験をしたのは本当でしょ? だから、お母さんなら応えてくれるかもしれないって思うんだ」
「俺も、それは思った。母さんが関係しているのかもしれないって」
俺たちの会話を黙って聞いていた奏音が、突然俺と初音の腕を引っ張った。そのまま手を引き、三人で仏壇の前に座った。
「昨日の声は、母さんなの?」
奏音が口火を切り、仏壇に置いてある母さんの写真に向かって言った。
俺は聞いていないけど、二人は母さんの声に似た声を聞いている。導いた声が母さんだというのなら、昨日の不思議な体験のことを教えてもらえるかもしれない。
俺と初音も奏音に続いて口を開いた。
「あの不思議な世界に私たちを導いたのは、お母さんなの?」
「母さん、俺たちが足を踏み入れたあの場所は、いったいどこなんだ? なぜ俺たちなんだ?」
母さん、お願いだから答えてくれないか……?
心のなかでそう訴えたとき、母さんの写真の隣に置いてある絵本が、かすかに光りだした。
「――!」
その光景に、俺たちは顔を見合わせた。
絵本が光った……?
「もしかして、私たちが行ったあの場所は、絵本の中の世界なの?」
「……そうだと思う」
「これはきっと、母さんが俺たちを呼んでいるんだ」
俺は光を放つ絵本を手に取り、テーブルの上に置いた。
奏音も初音も、息を呑んでその絵本が光るのをじっと見つめた。
俺は、右手は奏音の手を取り、左手は初音の手を取った。そして、あの森から帰ってきたときのように、三人で輪を作るようにしっかりと手を繋ぎ合った。
「よし、行こう。三人で強く祈るんだ」
「うん」
「了解」
握りしめる手にぎゅっと力を入れ、強く願った。
俺たちを、母さんが導く絵本の中の世界へ連れて行ってくれ――!
ほのかに光っていた絵本から、一気に眩しい光が放たれた。その光に俺たちは一気に包まれていく。
眩しさでとっさに目を瞑った瞬間、ふわりと体が宙を浮く感覚に襲われ、遠くの空に思い切り放り出されたような衝撃を受けた。
それも一瞬で、すぐ足が地面を踏みしめたのがわかった。
両手に感じる手の温もりを残したまま、俺はゆっくりと目を開けた。
「この前と、同じ場所だ」
「成功したね」
この前は余裕がなかったから気づかなかったけど、ゆっくりとあたりを見回すと、たしかに見覚えがあるような風景だ。
幼い頃から何度も読んだ絵本の、はじめのページがこの森の中だ。
「やっぱり、ここは絵本の中なんだね」
「見覚えがある……」
「この前は余裕がなかったからな。じっくり見渡すと、確かに見たことがある気がするな」
俺たちはそう言いながら、もう一度まわりを見渡した。
この前絵本の中に入ったときは、太陽が真上にあったけど、今日はおそらくもっと早い時間のような気がする。
それに、今いるのは森の出口あたり。……ということは、毎回同じ場所や同じ時間になるわけではないみたいだ。
「ここが絵本の中の世界というのは、ほぼ確定だな」
「でも、まだわからないことばかりだよね」
「人がいそうな場所、探す?」
「そうだな。この前煙が上がっていた場所の様子を見に行けるといいんだけど……」
そう言いながら、開けた丘の方を見ると、前と同じように煙が上がっているのが見えた。
「あそこだ。煙が見えるから、行ってみよう。今回も、俺が先頭で奏音が後ろな」
「わかった」
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
まるで冒険の旅に出るように、腕を高く掲げると、初音は声高らかに出発の合図をした。
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