俺と双子と、絵本の秘密

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
7 / 11

06 結界を張る

しおりを挟む
 エルディア村で、村長さんが話してくれた村の歴史を夢中で聞いていたら、奏音かなとに「兄さん、そろそろ時間が……」と耳打ちをされた。
 はっと気づいて窓の外を見ると、オレンジ色の夕焼け空が広がっていた。

「村長さん、今日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「それで、さきほどもお願いした件なんですけど……」

 俺は、ある程度話を聞いたあと、村長さんに一つのお願いをした。
 息子さんは、凶暴化した動物の処分を望むと声をあげていたけど、原因も突き止められないうちに処分されてしまうのは、動物たちがかわいそうだ。だから、俺たちが調査を進めるうちは、処分を待ってもらえないか? という提案だった。

「ああ、それは息子を始め村の者に伝えておきます。……そこで相談なのですが、村全体を守る結界を張るのを、手伝ってもらえないでしょうか?」
「結界を?」
「この村の古い書物に、結界について書かれているのです。あなたたちは自分たちの力の制御はできないと言っていましたが、何かの力を秘めているのは間違いないと思うのです。私を始め、村の者たちとあなたたち全員で祈りを捧げれば、防護結界を張ることも可能でしょう」
「全員で力を合わせるのですね。どの程度お役に立てるかはわかりませんが、お手伝いさせてください。……奏音、初音はつね二人ともいいだろう?」

 村長さんの提案を聞いて、俺は奏音と初音にも問いかけた。この村に来てからの二人の様子を見ていると、断る理由はないと思うけど、意志の確認はしっかりとしておきたい。

「もちろん、協力させてもらいます」
「俺も、手伝います」

 二人は俺を見てうなずいたあと、村長さんの方を向き、力強く返事をした。

「急ぎになってしまいますが、今村にいる者たちに急いで声をかけてきます。簡易結界になってしまうと思いますが、もう外も暗くなってきました。夜になると活動が活発になる動物もいますし、儀式をすぐ決行したほうが良いと思います」

 村長さんはそう言うと、急いでまわりの人たちに指示をし、慌ただしく外へ出ていった。

「お兄ちゃん、初対面の人と話しても、緊張しなくなったの?」

 村長さんの後ろ姿を見送りながら、初音がポツリと言った。
 たしかに俺は、人付き合いが苦手だ。けどそんな俺を変えてくれた人がいるんだ。

「まだ緊張はするけど、大丈夫だよ。ありがとな」

 俺は、初音の頭を軽くポンポンと撫でながら、俺を支えてくれた親友の顔を思い出していた。

 程なくして戻ってきた村長さんは、『ついてきてください』と言って、俺たちを広場に案内した。

「急な召集となりますので、村民全員というわけにはいきませんでしたが、たくさん集まっていただいたことに感謝します」

 広場に集まったのは、三十人ほどだろうか。村の人口がどの程度かわからないからなんとも言えないが、この短時間でこれだけ集まれば十分だと思う。

「先ほど説明したように、これからエルディア村全体に防護結界を張る儀式を行います。書物に書いてあるので過去に行われていたとは思うのですが、私の知る限りはこの儀式を行ったという話は聞いていません。なので成功するかはわかりませんが、村を守りたいという気持ちがあれば必ずや成功すると信じています。皆さん、どうかお力添えをお願いいたします。……それでは、始めます」

 村長さんの言葉が終わると、全員に緊張が走る。けど、きっと成功する。皆そう信じて祈り始めた。
 集まった村人の中には、駆除賛成派の村長さんの息子さんも含まれていた。彼も村を守りたいという気持ちは一緒なんだと思う。
 俺たちが儀式に加わっていることにまだ不満のようだったけど、村を守るための結界を張る儀式の成功率を上げるためだと、我慢しているように思えた。

 しばらく祈っていると、集まった人々から淡い光が漏れ始めた。そしてその光は大きくなり、村を覆っていく。
 その光はとても優しく温かいものだった。村を守りたいという純粋な心が、光の壁をゆっくりと形成していく。
 徐々に広がった光は、まるでスノードームのようにキラキラと輝く結界となり、村全体を覆い尽くした。

「成功した……?」
「おおすごい、光り輝く膜で村全体が守られているぞ」
「キラキラ輝いて、キレイ……」

 村人から口々に感嘆の声が漏れる。

「みなさん、結界を張ることに成功したようです。皆さんの村を守りたいという気持ちが届いたんです。本当にありがとうございます。……これで村は安全です」

 あくまでも一時的なものだろうということを村長さんは伏せ、村人たちの祈りの力に感謝の言葉を届けた。
 人々はしばらく結界を眺め、大きなため息をついたり、拍手しながら大喜びをしていた。

 俺たちはそんな人々を横目に見ながら、再び村長さんの家に戻り、これからの話をした。
 当面の間は、今日張った結界で凶暴化した動物の侵入は防げるだろうということ、村長さんの方でも、古い書物も探しながら原因の究明を進めるということ、息子さんのことも慎重に対応していくということ。

「では、用意していただいた宿で休ませていただきます。お気遣い本当にありがとうございます」

 村長さんは、俺たちに調査の間不自由がないようにと、長期滞在できるように宿を用意してくれた。だから、お言葉に甘えて利用させてもらうことにしたんだ。

「滞在中、部屋には誰も立ち入らないようにします。調査で疲れたら、いつでもゆっくり休んでください」

 村長さんの配慮に感謝し、俺たちは宿の部屋を拠点に、自分たちの家と絵本の中の世界を行き来することにした。
 話も済んだし宿に行こうとした時、村長さんが帰り際に俺を呼び止めた。

「少しだけお話ししたいことがあるのです」

 俺は双子に宿へ先に行くように伝えてから、村長さんのもとへと向かうと、村長さんは静かに言った。

「もしかしたら、妹さんは、動物の心を感じ取れるのかもしれません」

 驚きと、やっぱりという気持ちが同時に湧き上がった。
 でもこのことは、もう少し確信が持てるまでは初音には言わないでおこうと思った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

魅了魔法の正しい使い方

章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のジュリエンヌは年の離れた妹を見て、自分との扱いの差に愕然とした。家族との交流も薄く、厳しい教育を課される自分。一方妹は我が儘を許され常に母の傍にいて甘やかされている。自分は愛されていないのではないか。そう不安に思うジュリエンヌ。そして、妹が溺愛されるのはもしかしたら魅了魔法が関係しているのではと思いついたジュリエンヌは筆頭魔術師に相談する。すると──。

処理中です...