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06 結界を張る
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エルディア村で、村長さんが話してくれた村の歴史を夢中で聞いていたら、奏音に「兄さん、そろそろ時間が……」と耳打ちをされた。
はっと気づいて窓の外を見ると、オレンジ色の夕焼け空が広がっていた。
「村長さん、今日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「それで、さきほどもお願いした件なんですけど……」
俺は、ある程度話を聞いたあと、村長さんに一つのお願いをした。
息子さんは、凶暴化した動物の処分を望むと声をあげていたけど、原因も突き止められないうちに処分されてしまうのは、動物たちがかわいそうだ。だから、俺たちが調査を進めるうちは、処分を待ってもらえないか? という提案だった。
「ああ、それは息子を始め村の者に伝えておきます。……そこで相談なのですが、村全体を守る結界を張るのを、手伝ってもらえないでしょうか?」
「結界を?」
「この村の古い書物に、結界について書かれているのです。あなたたちは自分たちの力の制御はできないと言っていましたが、何かの力を秘めているのは間違いないと思うのです。私を始め、村の者たちとあなたたち全員で祈りを捧げれば、防護結界を張ることも可能でしょう」
「全員で力を合わせるのですね。どの程度お役に立てるかはわかりませんが、お手伝いさせてください。……奏音、初音二人ともいいだろう?」
村長さんの提案を聞いて、俺は奏音と初音にも問いかけた。この村に来てからの二人の様子を見ていると、断る理由はないと思うけど、意志の確認はしっかりとしておきたい。
「もちろん、協力させてもらいます」
「俺も、手伝います」
二人は俺を見てうなずいたあと、村長さんの方を向き、力強く返事をした。
「急ぎになってしまいますが、今村にいる者たちに急いで声をかけてきます。簡易結界になってしまうと思いますが、もう外も暗くなってきました。夜になると活動が活発になる動物もいますし、儀式をすぐ決行したほうが良いと思います」
村長さんはそう言うと、急いでまわりの人たちに指示をし、慌ただしく外へ出ていった。
「お兄ちゃん、初対面の人と話しても、緊張しなくなったの?」
村長さんの後ろ姿を見送りながら、初音がポツリと言った。
たしかに俺は、人付き合いが苦手だ。けどそんな俺を変えてくれた人がいるんだ。
「まだ緊張はするけど、大丈夫だよ。ありがとな」
俺は、初音の頭を軽くポンポンと撫でながら、俺を支えてくれた親友の顔を思い出していた。
程なくして戻ってきた村長さんは、『ついてきてください』と言って、俺たちを広場に案内した。
「急な召集となりますので、村民全員というわけにはいきませんでしたが、たくさん集まっていただいたことに感謝します」
広場に集まったのは、三十人ほどだろうか。村の人口がどの程度かわからないからなんとも言えないが、この短時間でこれだけ集まれば十分だと思う。
「先ほど説明したように、これからエルディア村全体に防護結界を張る儀式を行います。書物に書いてあるので過去に行われていたとは思うのですが、私の知る限りはこの儀式を行ったという話は聞いていません。なので成功するかはわかりませんが、村を守りたいという気持ちがあれば必ずや成功すると信じています。皆さん、どうかお力添えをお願いいたします。……それでは、始めます」
村長さんの言葉が終わると、全員に緊張が走る。けど、きっと成功する。皆そう信じて祈り始めた。
集まった村人の中には、駆除賛成派の村長さんの息子さんも含まれていた。彼も村を守りたいという気持ちは一緒なんだと思う。
俺たちが儀式に加わっていることにまだ不満のようだったけど、村を守るための結界を張る儀式の成功率を上げるためだと、我慢しているように思えた。
しばらく祈っていると、集まった人々から淡い光が漏れ始めた。そしてその光は大きくなり、村を覆っていく。
その光はとても優しく温かいものだった。村を守りたいという純粋な心が、光の壁をゆっくりと形成していく。
徐々に広がった光は、まるでスノードームのようにキラキラと輝く結界となり、村全体を覆い尽くした。
「成功した……?」
「おおすごい、光り輝く膜で村全体が守られているぞ」
「キラキラ輝いて、キレイ……」
村人から口々に感嘆の声が漏れる。
「みなさん、結界を張ることに成功したようです。皆さんの村を守りたいという気持ちが届いたんです。本当にありがとうございます。……これで村は安全です」
あくまでも一時的なものだろうということを村長さんは伏せ、村人たちの祈りの力に感謝の言葉を届けた。
人々はしばらく結界を眺め、大きなため息をついたり、拍手しながら大喜びをしていた。
俺たちはそんな人々を横目に見ながら、再び村長さんの家に戻り、これからの話をした。
当面の間は、今日張った結界で凶暴化した動物の侵入は防げるだろうということ、村長さんの方でも、古い書物も探しながら原因の究明を進めるということ、息子さんのことも慎重に対応していくということ。
「では、用意していただいた宿で休ませていただきます。お気遣い本当にありがとうございます」
村長さんは、俺たちに調査の間不自由がないようにと、長期滞在できるように宿を用意してくれた。だから、お言葉に甘えて利用させてもらうことにしたんだ。
「滞在中、部屋には誰も立ち入らないようにします。調査で疲れたら、いつでもゆっくり休んでください」
村長さんの配慮に感謝し、俺たちは宿の部屋を拠点に、自分たちの家と絵本の中の世界を行き来することにした。
話も済んだし宿に行こうとした時、村長さんが帰り際に俺を呼び止めた。
「少しだけお話ししたいことがあるのです」
俺は双子に宿へ先に行くように伝えてから、村長さんのもとへと向かうと、村長さんは静かに言った。
「もしかしたら、妹さんは、動物の心を感じ取れるのかもしれません」
驚きと、やっぱりという気持ちが同時に湧き上がった。
でもこのことは、もう少し確信が持てるまでは初音には言わないでおこうと思った。
はっと気づいて窓の外を見ると、オレンジ色の夕焼け空が広がっていた。
「村長さん、今日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「それで、さきほどもお願いした件なんですけど……」
俺は、ある程度話を聞いたあと、村長さんに一つのお願いをした。
息子さんは、凶暴化した動物の処分を望むと声をあげていたけど、原因も突き止められないうちに処分されてしまうのは、動物たちがかわいそうだ。だから、俺たちが調査を進めるうちは、処分を待ってもらえないか? という提案だった。
「ああ、それは息子を始め村の者に伝えておきます。……そこで相談なのですが、村全体を守る結界を張るのを、手伝ってもらえないでしょうか?」
「結界を?」
「この村の古い書物に、結界について書かれているのです。あなたたちは自分たちの力の制御はできないと言っていましたが、何かの力を秘めているのは間違いないと思うのです。私を始め、村の者たちとあなたたち全員で祈りを捧げれば、防護結界を張ることも可能でしょう」
「全員で力を合わせるのですね。どの程度お役に立てるかはわかりませんが、お手伝いさせてください。……奏音、初音二人ともいいだろう?」
村長さんの提案を聞いて、俺は奏音と初音にも問いかけた。この村に来てからの二人の様子を見ていると、断る理由はないと思うけど、意志の確認はしっかりとしておきたい。
「もちろん、協力させてもらいます」
「俺も、手伝います」
二人は俺を見てうなずいたあと、村長さんの方を向き、力強く返事をした。
「急ぎになってしまいますが、今村にいる者たちに急いで声をかけてきます。簡易結界になってしまうと思いますが、もう外も暗くなってきました。夜になると活動が活発になる動物もいますし、儀式をすぐ決行したほうが良いと思います」
村長さんはそう言うと、急いでまわりの人たちに指示をし、慌ただしく外へ出ていった。
「お兄ちゃん、初対面の人と話しても、緊張しなくなったの?」
村長さんの後ろ姿を見送りながら、初音がポツリと言った。
たしかに俺は、人付き合いが苦手だ。けどそんな俺を変えてくれた人がいるんだ。
「まだ緊張はするけど、大丈夫だよ。ありがとな」
俺は、初音の頭を軽くポンポンと撫でながら、俺を支えてくれた親友の顔を思い出していた。
程なくして戻ってきた村長さんは、『ついてきてください』と言って、俺たちを広場に案内した。
「急な召集となりますので、村民全員というわけにはいきませんでしたが、たくさん集まっていただいたことに感謝します」
広場に集まったのは、三十人ほどだろうか。村の人口がどの程度かわからないからなんとも言えないが、この短時間でこれだけ集まれば十分だと思う。
「先ほど説明したように、これからエルディア村全体に防護結界を張る儀式を行います。書物に書いてあるので過去に行われていたとは思うのですが、私の知る限りはこの儀式を行ったという話は聞いていません。なので成功するかはわかりませんが、村を守りたいという気持ちがあれば必ずや成功すると信じています。皆さん、どうかお力添えをお願いいたします。……それでは、始めます」
村長さんの言葉が終わると、全員に緊張が走る。けど、きっと成功する。皆そう信じて祈り始めた。
集まった村人の中には、駆除賛成派の村長さんの息子さんも含まれていた。彼も村を守りたいという気持ちは一緒なんだと思う。
俺たちが儀式に加わっていることにまだ不満のようだったけど、村を守るための結界を張る儀式の成功率を上げるためだと、我慢しているように思えた。
しばらく祈っていると、集まった人々から淡い光が漏れ始めた。そしてその光は大きくなり、村を覆っていく。
その光はとても優しく温かいものだった。村を守りたいという純粋な心が、光の壁をゆっくりと形成していく。
徐々に広がった光は、まるでスノードームのようにキラキラと輝く結界となり、村全体を覆い尽くした。
「成功した……?」
「おおすごい、光り輝く膜で村全体が守られているぞ」
「キラキラ輝いて、キレイ……」
村人から口々に感嘆の声が漏れる。
「みなさん、結界を張ることに成功したようです。皆さんの村を守りたいという気持ちが届いたんです。本当にありがとうございます。……これで村は安全です」
あくまでも一時的なものだろうということを村長さんは伏せ、村人たちの祈りの力に感謝の言葉を届けた。
人々はしばらく結界を眺め、大きなため息をついたり、拍手しながら大喜びをしていた。
俺たちはそんな人々を横目に見ながら、再び村長さんの家に戻り、これからの話をした。
当面の間は、今日張った結界で凶暴化した動物の侵入は防げるだろうということ、村長さんの方でも、古い書物も探しながら原因の究明を進めるということ、息子さんのことも慎重に対応していくということ。
「では、用意していただいた宿で休ませていただきます。お気遣い本当にありがとうございます」
村長さんは、俺たちに調査の間不自由がないようにと、長期滞在できるように宿を用意してくれた。だから、お言葉に甘えて利用させてもらうことにしたんだ。
「滞在中、部屋には誰も立ち入らないようにします。調査で疲れたら、いつでもゆっくり休んでください」
村長さんの配慮に感謝し、俺たちは宿の部屋を拠点に、自分たちの家と絵本の中の世界を行き来することにした。
話も済んだし宿に行こうとした時、村長さんが帰り際に俺を呼び止めた。
「少しだけお話ししたいことがあるのです」
俺は双子に宿へ先に行くように伝えてから、村長さんのもとへと向かうと、村長さんは静かに言った。
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