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07 話をまとめる
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俺たちは、手配してもらった宿へ行き手続きだけ済ませると、そのまま自分たちの家に帰ってきた。
初めて不思議な世界に入り込んだときは、何もわからず戸惑いばかりだったけど、二回目は『絵本の中かもしれない』と想定して移動した。
実際に行ってみると、やっぱり『母さんの思い出の絵本の中』じゃないかという思いは強まった。
そして、不思議な体験をして再び家に帰ってきたのだけど……。
「やっぱり俺は、母さんとの思い出の絵本の中だと思うんだけど、二人はどう思う?」
「私もそう思う」
「俺も」
「だよなぁ……」
改めて三人で認識のすり合わせをしようとして、俺は二人に問いかけた。やっぱり、三人とも『絵本の中』という認識で間違いなかった。
「じゃあさ、あの不思議な力についてなんだけど……」
「あのね……。私、動物たちの声が聞こえてくるんだ」
「声が聞こえる?」
村長さんの認識では、動物たちの心を感じ取れるかもしれないということだったけど、まさか声までとは思わなくて、俺はびっくりして目を見開いて問い返してしまった。
「はじめは、なんとなくだったの。私じゃない何か別の感情が入り込んでくる感じ」
「うさぎが追いかけられていた時?」
「そう。うさぎの不安な感情と、殺気立ったクマの感情が同時に流れ込んできて、理由がわからなかった。でも実際逃げているうさぎと、追いかけるクマが現れたでしょ?」
「そうだな、初音が真っ先に気づいたもんな」
「でもあのときは、とにかく無我夢中で、うさぎを助けたいって思ったの。だからクマに落ち着いてほしくて、懸命にお願いしてたんだ。……そしたら急に静かになって、森に帰って行ったんだよ」
「初音の心が通じた?」
「そういうことだと思う」
うーん、と俺は腕組みをして考え込んだ。絵本の中に入るだけでもすごい不思議な体験なのに、絵本の中では能力まで与えられている? しかも、ぼんやりとしていた力が、徐々に覚醒しているように感じる。
考えをまとめるように唸っている俺の前で、初音は話を続けた。
「そして、今日また行ったじゃない? 今度は、ぼやっとした感情じゃなくて、カタコトな感じなんだけど、言葉が聞こえてきたの」
「はっきりと認識できるような?」
「うん。ほら、外人さんが単語で話すあんな感じ」
「なるほど」
初音の力は、なんとなくわかった。それじゃあ、奏音は? そう思って奏音の方を見ると、小さくうなずいて話し始めた。
「俺は多分、抑える力なんだと思う。クマが来たとき、止まるように強く祈ったら、クマがピタリと止まったんだ。だからその間に、初音が話しかけることができたんだ」
「奏音は、制御できる力ということか」
物理的に足止めしたり、心理的な制御もできてる感じだな。
「俺は、治癒とかそういうのかもしれない」
「うさぎの怪我ね?」
「傷が治ったのは、気のせいじゃないと思う」
「兄さんは、ヒーラーじゃないかな」
まだ自分の力がよくわかっていない俺に、奏音は断言するように言った。
「ヒーラー? ゲームとかファンタジーに出てくるようなやつか?」
「うん。心を落ち着かせたり保護する力。結界も兄さんの力が大きく影響したと思う」
「俺に、そんな力が……」
「たしかに、お兄ちゃんはいつも家族のことを最優先で考え、守ってきてくれたもんね。それが絵本の中の力そのままになったのかもしれないね!」
初音の言葉に、奏音はちょっと視線をそらしたまま、小さく頷いた。
そんなふうに言ってもらえると、照れるけど本当に嬉しい。
それに、奏音も最近素っ気無い感じだったけど、ちゃんと伝わっているのがわかって安心した。
「俺たちが行った場所は絵本の中の世界で、三人ともそれぞれ能力が付与されているらしいことはわかった。けど、なんで俺たちが絵本の中に入ることになったのかはわからないんだよなぁ」
「絵本の中の出来事を調べることで、きっと理由がわかるよ」
「それに、お前たちには母さんの声が聞こえてるんだろ? なんで俺だけ聞こえないのか……」
実はちょっと俺はすねているのかもしれない。俺はもう大人の仲間入りしている年齢とはいえ、息子であることは変わらないのに、なぜ双子だけ声が聞こえるのか。
「お兄ちゃんなら大丈夫って思ってるんじゃない? 私たちはまだ未熟だから、導いてくれてるんだよ」
「そうなのかなぁ」
とにかく絵本の中で起きている、動物たちの凶暴化事件の真相を探らないと、俺たちが絵本の中に入り込んだ真相はわからないのかもしれない。
今できることは、一つずつ調べていくことだけだ。
まだわからないことも多いとはいえ、三人の意見交換も終わったし、明日に備えて準備しないとな……そう思っている時、母さんの部屋の扉が開いた。
「ただいま。なんだ、お前たちここにいたのか」
「あ、お父さん! おかえりなさい」
「おかえり」
「おかえり、今から夕飯温め直すよ」
時計を確認して、俺は首を傾げた。
昨日より絵本の中で長く過ごしたり、帰ってきてからも三人で色々と話をしていたから、もっと遅い時間になっていると思っていた。けど思ったより時間は経過していなくて、やっぱりこちらの世界とは、時間の流れの違いがあるんだなとわかった。
「自分で温めるから大丈夫だよ。……それより、どうしたんだ? 母さんの部屋に三人で集まって」
不思議そうに言いながら部屋に入ってくると、父さんは仏壇の前に座り、母さんに手を合わせた。
「父さん、ちょっと話があるんだけど、今いいかな?」
父さんには早いうちに話そうと思っていたから、ちょうどよいタイミングだなと思った。
家族全員母さんの部屋に集まっているので、絵本の中に入るという不思議体験のことについて、この場で話そうと思った。
初めて不思議な世界に入り込んだときは、何もわからず戸惑いばかりだったけど、二回目は『絵本の中かもしれない』と想定して移動した。
実際に行ってみると、やっぱり『母さんの思い出の絵本の中』じゃないかという思いは強まった。
そして、不思議な体験をして再び家に帰ってきたのだけど……。
「やっぱり俺は、母さんとの思い出の絵本の中だと思うんだけど、二人はどう思う?」
「私もそう思う」
「俺も」
「だよなぁ……」
改めて三人で認識のすり合わせをしようとして、俺は二人に問いかけた。やっぱり、三人とも『絵本の中』という認識で間違いなかった。
「じゃあさ、あの不思議な力についてなんだけど……」
「あのね……。私、動物たちの声が聞こえてくるんだ」
「声が聞こえる?」
村長さんの認識では、動物たちの心を感じ取れるかもしれないということだったけど、まさか声までとは思わなくて、俺はびっくりして目を見開いて問い返してしまった。
「はじめは、なんとなくだったの。私じゃない何か別の感情が入り込んでくる感じ」
「うさぎが追いかけられていた時?」
「そう。うさぎの不安な感情と、殺気立ったクマの感情が同時に流れ込んできて、理由がわからなかった。でも実際逃げているうさぎと、追いかけるクマが現れたでしょ?」
「そうだな、初音が真っ先に気づいたもんな」
「でもあのときは、とにかく無我夢中で、うさぎを助けたいって思ったの。だからクマに落ち着いてほしくて、懸命にお願いしてたんだ。……そしたら急に静かになって、森に帰って行ったんだよ」
「初音の心が通じた?」
「そういうことだと思う」
うーん、と俺は腕組みをして考え込んだ。絵本の中に入るだけでもすごい不思議な体験なのに、絵本の中では能力まで与えられている? しかも、ぼんやりとしていた力が、徐々に覚醒しているように感じる。
考えをまとめるように唸っている俺の前で、初音は話を続けた。
「そして、今日また行ったじゃない? 今度は、ぼやっとした感情じゃなくて、カタコトな感じなんだけど、言葉が聞こえてきたの」
「はっきりと認識できるような?」
「うん。ほら、外人さんが単語で話すあんな感じ」
「なるほど」
初音の力は、なんとなくわかった。それじゃあ、奏音は? そう思って奏音の方を見ると、小さくうなずいて話し始めた。
「俺は多分、抑える力なんだと思う。クマが来たとき、止まるように強く祈ったら、クマがピタリと止まったんだ。だからその間に、初音が話しかけることができたんだ」
「奏音は、制御できる力ということか」
物理的に足止めしたり、心理的な制御もできてる感じだな。
「俺は、治癒とかそういうのかもしれない」
「うさぎの怪我ね?」
「傷が治ったのは、気のせいじゃないと思う」
「兄さんは、ヒーラーじゃないかな」
まだ自分の力がよくわかっていない俺に、奏音は断言するように言った。
「ヒーラー? ゲームとかファンタジーに出てくるようなやつか?」
「うん。心を落ち着かせたり保護する力。結界も兄さんの力が大きく影響したと思う」
「俺に、そんな力が……」
「たしかに、お兄ちゃんはいつも家族のことを最優先で考え、守ってきてくれたもんね。それが絵本の中の力そのままになったのかもしれないね!」
初音の言葉に、奏音はちょっと視線をそらしたまま、小さく頷いた。
そんなふうに言ってもらえると、照れるけど本当に嬉しい。
それに、奏音も最近素っ気無い感じだったけど、ちゃんと伝わっているのがわかって安心した。
「俺たちが行った場所は絵本の中の世界で、三人ともそれぞれ能力が付与されているらしいことはわかった。けど、なんで俺たちが絵本の中に入ることになったのかはわからないんだよなぁ」
「絵本の中の出来事を調べることで、きっと理由がわかるよ」
「それに、お前たちには母さんの声が聞こえてるんだろ? なんで俺だけ聞こえないのか……」
実はちょっと俺はすねているのかもしれない。俺はもう大人の仲間入りしている年齢とはいえ、息子であることは変わらないのに、なぜ双子だけ声が聞こえるのか。
「お兄ちゃんなら大丈夫って思ってるんじゃない? 私たちはまだ未熟だから、導いてくれてるんだよ」
「そうなのかなぁ」
とにかく絵本の中で起きている、動物たちの凶暴化事件の真相を探らないと、俺たちが絵本の中に入り込んだ真相はわからないのかもしれない。
今できることは、一つずつ調べていくことだけだ。
まだわからないことも多いとはいえ、三人の意見交換も終わったし、明日に備えて準備しないとな……そう思っている時、母さんの部屋の扉が開いた。
「ただいま。なんだ、お前たちここにいたのか」
「あ、お父さん! おかえりなさい」
「おかえり」
「おかえり、今から夕飯温め直すよ」
時計を確認して、俺は首を傾げた。
昨日より絵本の中で長く過ごしたり、帰ってきてからも三人で色々と話をしていたから、もっと遅い時間になっていると思っていた。けど思ったより時間は経過していなくて、やっぱりこちらの世界とは、時間の流れの違いがあるんだなとわかった。
「自分で温めるから大丈夫だよ。……それより、どうしたんだ? 母さんの部屋に三人で集まって」
不思議そうに言いながら部屋に入ってくると、父さんは仏壇の前に座り、母さんに手を合わせた。
「父さん、ちょっと話があるんだけど、今いいかな?」
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