俺と双子と、絵本の秘密

一ノ瀬麻紀

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08 唯一の親友

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 俺たちが経験したこと、三人で話し合ったこと、全てを父に話した。
 初めは驚いていたけど、父さんは真剣に俺たちの話に耳を傾けてくれた。
 父さんは話を聞き終えた後、仏壇の前の絵本を手に取り、『そうか。母さんが……』と小さくつぶやいて、ふっと優しく微笑んだ。
 父さんは俺たちに、『無理だけはするなよ』とだけ言って部屋を出て行った。俺たちの言うことを信じて、俺たちの意思を尊重してくれたんだろう。

 部屋に戻って、置きっぱなしにしていたスマホを確認したら、着信履歴とメッセージが入っていた。
 気付かなかったお詫びと、どうしたのかと問いかけるメッセージを送り返したところで、スマホが振動して着信の通知画面になった。
 一瞬ビクッとしてスマホを落としそうになったけど、画面の名前を見て思わず笑みが溢れた。

「もしもし……?」
『遅い時間にごめんな。今大丈夫?』
「うん、少しだけなら。……どうしたの?」

 こんな夜遅い時間にわざわざ電話をしてきたのは、大学時代に知り合った『久世理人くぜりひと』だ。
 普通ならこんな時間の電話? と思うかもしれないけど、俺はなんの不快感も持たずに……むしろ、喜んで電話に出た。 

『いや、入社式どうだったかなって思って』
「ああ……気にしてくれたんだ? ありがとう」
『うん……まぁな』

 スマホの向こうで少し照れたように返事をする理人は、人付き合いの苦手だった俺が、変わるきっかけをくれた人物だ。
 理人は俺のことをよく理解してくれているから、こうやって気にかけて連絡をくれる。俺にとって、唯一無二の親友なんだ。

「入社式だけだからまだわからないけど……頑張ろうって思えたよ」
『そっか。それならよかった』
「理人の方は?」
『ああ、俺は大丈夫。メインは叔父だから、精一杯サポートできればいいなって思ってるよ』

 理人は、叔父が起業するIT系会社の、起業メンバーとして頑張っている。
 すごいな、会社を一つ立ち上げてしまうんだから。……俺には絶対無理だから、本当に尊敬する。

「大変だろうけど、頑張って」
『音弥もな。無理するなよ』
「ありがとう」

 俺たちはお互いの頑張りを祈りつつ、電話を切った。
 スマホを手にしたまま、ベッドに仰向けに寝転んだ俺は、ぼーっと天井を見つめた。

 俺は母さんが亡くなってから、家のことを優先するために、高校は部活も入らずすぐ家に帰る日々が続いた。
 元々人付き合いの苦手だった俺は、結果的に友達ができずに、ぼっちな高校生活を送ることになった。
 それでも、家のことをするのも、双子の面倒を見るのも、全然苦じゃなかった。むしろ充実していたと思う。

 大学でも高校と変わらず人との触れ合いは最小限で、ぼっちで講義を受けていた俺に、遠慮なく話しかけてきたのが理人だった。
 初めは戸惑って当たり障りのない挨拶を返していたけど、徐々に交流が増えていって、気づいたら休日に遊びに行ったり家にも呼ぶ仲になっていた。
 双子も懐いていて、いつしか俺にとって大切な「親友」と呼べる存在になっていた。

 ピロン♫

 スマホにメッセージが届いたので開いてみると、理人からの『これからは、もう少し自分のことも考えろよ』というメッセージだった。まるで『お前のことは全てお見通しだ』とでも言われているようだった。
 俺はクスリと笑うと、『大丈夫』と、短い返事を返した。



 数日後、双子の新生活も始まった。入学式は父さんと叔母さんが参加したので俺は行けなかったけど、写真をたくさん見せてもらった。双子の新しい生活の始まりに、自然と涙が溢れた。
 俺の方はというと、オリエンテーションなどがメインで、まだ本格的な仕事には携わっていない。けど新しいことがたくさんで、緊張はするけど毎日充実していた。

 そんな日々を送りながら、俺たちは時間を見つけて、絵本の中の世界にも足を運んでいた。

「エルディア村の人たちと、森の動物たちの共存はうまくいってたのに、最近突然凶暴化する事態が発生……って話だったよね」
「そうだな。特に大型動物の異変の報告が多い」
「でも、凶暴化した動物は、突然我に返ったようにおとなしくなって離れていく……というのが、調べているうちに判明したのよね」
「自然の摂理としては、不可解な出来事だと思う……」

 俺たちは、調べるうちにわかってきたことを、家に戻ってから三人で話し合ってまとめていく。
 村人から聞いたり、初音はつねが動物たちに聞いたり、実際に足を運んでみたり。特に、初音の能力が存分に発揮されていた。

「うーん、やっぱりどう考えてもおかしいよねぇ」
「初音、動物たちは水を飲んだ後、少ししてからおかしくなった気がするって伝えてきたんだよな?」
「うん。はっきりわからないけど、そんな気がするって」
「凶暴化した動物が、まだそんなにいないから確信は持てないけど……特定の水飲み場が怪しいのかもしれないな」

 いくつか集まった証言……というべきかわからないけど、初音が聞こえた動物たちの声によると、みんな同じ水飲み場を利用していたみたいだ。だからそこに何かがあると思っているのだけど……。

「明日も絵本の世界に行って調べたいけど、無理なんだよねー」
「そうだよ、ちゃんと支度できたのか?」
「まだ出来てないー」
「俺は大丈夫」
「初音、泊まりがけの行事なんだから、ちゃんと支度してこいよ」
「はーい」

 奏音かなとと初音は、明日から泊まりがけの学校行事だ。
 だから俺も絵本の中には入らず、仕事に集中したいと思っているけど……。

「お兄ちゃん、間違っても一人で行こうなんて考えないでよね?」
「あはは、心配しないでも大丈夫」

 さすがに、俺一人じゃ何も出来ないのはわかってる。無理したりしないさ。
 俺たちは、続きは双子が戻ってきてからにしようと、それぞれの部屋に戻っていった。
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