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09 商人と治癒
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「よし。ちゃんと思い通りのところに出現できたな」
俺は、部屋の窓から外の景色を眺めながら、うんうんと満足そうにつぶやいた。
何回か絵本の中に入ってわかったことは、その日は自分が何をしたいかを考えると、それに合った場所や時間、もしくは近いところへ出現できるということ。これは本当に便利で助かっている。
「さっそく、聞き込みに行ってくるか」
こちらの世界に馴染んだ服に着替えると、まるで刑事か探偵のようなセリフを吐きながら、俺は宿屋の部屋を出た。
双子の学校行事前日に、俺一人じゃ絵本の中に入らないよと言ったのに、俺は今絵本の中にいる。
絵本の中は、俺一人じゃできることが限られているのはわかっている。それに、双子の不在はたった一泊だから、待てばいい。
だけど、困っている村人と動物たちのことを考えていたら、少しでも早く解決してあげたいという気持ちが勝ってしまったんだ。
行きたい場所に行けるから、結界が張ってあって安全な村から出ることもないし、聞き込みだけだから大丈夫だろう。俺はそう考えた。
心配している双子のことを考えると、少しだけ罪悪感があるけど、『危ないことはしないから、ごめんな……』と、心の奥底にその気持ちをしまい込んだ。
宿を出て村長さんの家に向かおうと歩いていると、ちょうど向こうから村長さんが歩いてきた。
……けど、隣に歩いている人は、少し足を引きずるような歩き方をしている。村長さんは肩を貸し支えながら近づいてきた。
「村長さん、どうしたんですか?」
「ああ、オトヤさん。この方が少し怪我をされているようなので、家にお連れしようと思っているんですよ」
「お怪我を? 大丈夫でしょうか。……ちょうど今、村長さんのお宅にお伺いしようと思っていたところなんですよ。俺も肩を貸します」
「ありがとうございます、助かります」
俺は反対側に回り込むと、怪我をしている男性の肩を支えた。三人で村長さんの家まで向かった。
村長さんの家に着き、男性を客間に案内すると、村長さんは「薬を取ってきますので、少々お待ちください」と言って部屋を出ようとした。
「あの、村長さん。ちょっと試してみたいことがあるんですが、いいですか?」
俺が声をかけると、村長さんは不思議そうに振り返った。
「試したいこと?」
「はい。もしかしたら、俺にも何かできるかもしれないんです」
「そうですか……わかりました。ゴルドさん、オトヤさんに任せてみてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
村長さんは、俺たちが村に近づいた動物を鎮静化させたり、結界の手伝いをしたり、その後も村に滞在して村人たちの手伝いをしているせいか、すっかり信用してくれているようだ。
この男性も初めて会ったのにも関わらず、俺のことを信用してくれた。きっと、村長さんの俺への態度がそうさせたんだろう。
村長さんは、持ってきた布で傷口を軽く拭き取りながら、この男性の紹介をしてくれた。
この男性は、最近この村に滞在している商人で、名前をゴルドさんというそうだ。ゴルドさんは、この村と周辺で起きている騒動を小耳に挟み、自分の研究が役に立つかもしれないと申し出たらしい。
村長さんは、村と動物たちのことを考えてくれる、とても心優しい人だと話してくれた。
俺はその辺のことはわからないけど、商人って薬の研究もするんだ……と、感心して話を聞いていた。
村長さんが立ち上がった後、今度は俺がゴルドさんの前にしゃがみ込み、そっと傷口に手を当てた。
ゴルドさんは、村のことを考えてくれる優しい人だと、村長さんは言っていた。村のためにまた元気に動けるように、怪我が治りますように。……そう心の中で祈り続けた。
すると、手からオレンジ色の温かな光が溢れ出し、ゴルドさんの足元を覆っていく。そしてしばらくすると、スーッと光は消えていった。
「おお、すごいです! 擦り傷がきれいになっています。痛みも全くありません!」
「ああ、良かった。本当に成功したんですね」
俺自身も少し驚いて、自分の手を見つめた。
やっぱり、あの時のうさぎの傷が治ったのは気のせいじゃなかったんだ。
初音が動物と話せる能力を持っているように、俺は治癒能力を持っている……。絵本の中だけの力とはいえ、そんなすごい能力があるなんて、不思議な気持ちだ。
俺はしばらく、ぼーっと自分の手を眺めていた。
「こんなすごい能力をお持ちなら、もっと色々と出来ることもありましょうに」
ゴルドさんに話しかけられて、はっと我に返った俺は、急いで立ち上がった。
「いえ、そんなに見せびらかすものではないですし……正直、悪用されないとも限りませんから」
「悪用……そうですね、世の中には悪い人もいますからね」
ゴルドさんは俺を見て、意味ありげにふっと口元を緩ませた。
なんだろう、まるで値踏みするかのような視線に感じて、俺は思わず視線を外してしまった。
ゴルドさんが席を外した後、村長さんに気になることをいくつか聞いた。その後、村の人にも話を聞き、メモにまとめた。
あとは、家に帰って双子たちと意見交換すればいいだろう。……そう思って、宿屋に戻ろうとしたところで、玄関先が騒がしいことに気づいた。
「うちの子がいなくなってしまったんです!」
俺は、部屋の窓から外の景色を眺めながら、うんうんと満足そうにつぶやいた。
何回か絵本の中に入ってわかったことは、その日は自分が何をしたいかを考えると、それに合った場所や時間、もしくは近いところへ出現できるということ。これは本当に便利で助かっている。
「さっそく、聞き込みに行ってくるか」
こちらの世界に馴染んだ服に着替えると、まるで刑事か探偵のようなセリフを吐きながら、俺は宿屋の部屋を出た。
双子の学校行事前日に、俺一人じゃ絵本の中に入らないよと言ったのに、俺は今絵本の中にいる。
絵本の中は、俺一人じゃできることが限られているのはわかっている。それに、双子の不在はたった一泊だから、待てばいい。
だけど、困っている村人と動物たちのことを考えていたら、少しでも早く解決してあげたいという気持ちが勝ってしまったんだ。
行きたい場所に行けるから、結界が張ってあって安全な村から出ることもないし、聞き込みだけだから大丈夫だろう。俺はそう考えた。
心配している双子のことを考えると、少しだけ罪悪感があるけど、『危ないことはしないから、ごめんな……』と、心の奥底にその気持ちをしまい込んだ。
宿を出て村長さんの家に向かおうと歩いていると、ちょうど向こうから村長さんが歩いてきた。
……けど、隣に歩いている人は、少し足を引きずるような歩き方をしている。村長さんは肩を貸し支えながら近づいてきた。
「村長さん、どうしたんですか?」
「ああ、オトヤさん。この方が少し怪我をされているようなので、家にお連れしようと思っているんですよ」
「お怪我を? 大丈夫でしょうか。……ちょうど今、村長さんのお宅にお伺いしようと思っていたところなんですよ。俺も肩を貸します」
「ありがとうございます、助かります」
俺は反対側に回り込むと、怪我をしている男性の肩を支えた。三人で村長さんの家まで向かった。
村長さんの家に着き、男性を客間に案内すると、村長さんは「薬を取ってきますので、少々お待ちください」と言って部屋を出ようとした。
「あの、村長さん。ちょっと試してみたいことがあるんですが、いいですか?」
俺が声をかけると、村長さんは不思議そうに振り返った。
「試したいこと?」
「はい。もしかしたら、俺にも何かできるかもしれないんです」
「そうですか……わかりました。ゴルドさん、オトヤさんに任せてみてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
村長さんは、俺たちが村に近づいた動物を鎮静化させたり、結界の手伝いをしたり、その後も村に滞在して村人たちの手伝いをしているせいか、すっかり信用してくれているようだ。
この男性も初めて会ったのにも関わらず、俺のことを信用してくれた。きっと、村長さんの俺への態度がそうさせたんだろう。
村長さんは、持ってきた布で傷口を軽く拭き取りながら、この男性の紹介をしてくれた。
この男性は、最近この村に滞在している商人で、名前をゴルドさんというそうだ。ゴルドさんは、この村と周辺で起きている騒動を小耳に挟み、自分の研究が役に立つかもしれないと申し出たらしい。
村長さんは、村と動物たちのことを考えてくれる、とても心優しい人だと話してくれた。
俺はその辺のことはわからないけど、商人って薬の研究もするんだ……と、感心して話を聞いていた。
村長さんが立ち上がった後、今度は俺がゴルドさんの前にしゃがみ込み、そっと傷口に手を当てた。
ゴルドさんは、村のことを考えてくれる優しい人だと、村長さんは言っていた。村のためにまた元気に動けるように、怪我が治りますように。……そう心の中で祈り続けた。
すると、手からオレンジ色の温かな光が溢れ出し、ゴルドさんの足元を覆っていく。そしてしばらくすると、スーッと光は消えていった。
「おお、すごいです! 擦り傷がきれいになっています。痛みも全くありません!」
「ああ、良かった。本当に成功したんですね」
俺自身も少し驚いて、自分の手を見つめた。
やっぱり、あの時のうさぎの傷が治ったのは気のせいじゃなかったんだ。
初音が動物と話せる能力を持っているように、俺は治癒能力を持っている……。絵本の中だけの力とはいえ、そんなすごい能力があるなんて、不思議な気持ちだ。
俺はしばらく、ぼーっと自分の手を眺めていた。
「こんなすごい能力をお持ちなら、もっと色々と出来ることもありましょうに」
ゴルドさんに話しかけられて、はっと我に返った俺は、急いで立ち上がった。
「いえ、そんなに見せびらかすものではないですし……正直、悪用されないとも限りませんから」
「悪用……そうですね、世の中には悪い人もいますからね」
ゴルドさんは俺を見て、意味ありげにふっと口元を緩ませた。
なんだろう、まるで値踏みするかのような視線に感じて、俺は思わず視線を外してしまった。
ゴルドさんが席を外した後、村長さんに気になることをいくつか聞いた。その後、村の人にも話を聞き、メモにまとめた。
あとは、家に帰って双子たちと意見交換すればいいだろう。……そう思って、宿屋に戻ろうとしたところで、玄関先が騒がしいことに気づいた。
「うちの子がいなくなってしまったんです!」
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