ずっと、貴方が欲しかったんだ

一ノ瀬麻紀

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 気付いたらオレは、真っ白で何もない病室で目を覚ました。
 違和感を感じて触れた首には、厳重に巻かれた包帯。頭全体が重くズキズキとした痛みが押し寄せ、考えがまとまらない。
 その後やってきた医師に説明されるまで、オレの身に何が起きたのか全くわからなかった。……いや、今でもあの時のことは思い出せないし、皆が腫れ物に触れるようにその話題を避けるから、詳しいことは知らないままだ。
 わかるのは、オレとあいつがヒート事故で番になり、オレは番解除の手術を受け、あいつとはもう二度と会わないように言われたということだけだ。

 ◇

「じゃあ、もう行くよ」

 オレは、薄まったレモンスカッシュを飲み切ると、立ち上がって伝票を手に取った。

悠生ゆうせいさん! また会えますか?」

 オレを引き止めるように立ち上がった英士えいじは、小さな頃と同じようにまっすぐな瞳でオレを見つめてくる。    
 あいつの家に入り浸っていたオレは、弟の英士ともよく一緒に遊んだ。英士はいつも嬉しそうに「大好き」って言いながら、ちょこちょことオレの後ろをついてきていた。
 にいちゃんばかりずるいと、いつもオレのそばにいるあいつに文句を言い、兄に喧嘩を挑む姿は微笑ましかった。歳が離れていたから、勝敗が簡単につくのはわかっていたのに。
 でもそんな英士はとても可愛くて、一人っ子のオレは、本当の弟のように思っていたんだ。
 なのに、オレは急に姿を消してしまった。あんなにオレに懐いていたから、きっと寂しい思いをしただろう。
 
 だから、今日は偶然会うことができて良かった。

 オレは地元から離れた、遠い街でひっそりと暮らしていた。そんなオレに、結婚が決まったから帰ってきなさいと呼び出されたのが、先月のこと。
 学生時代に、ヒート事故で親に散々迷惑をかけたから、何も文句は言えない。
 家のための縁談なのか、ただ単にオレに結婚して落ち着いてほしいだけなのか、それはオレには分からない。
 ただオレは、親の言うままに結婚をする。そのために、先週から地元に戻ってきていた。

 そんな時、街で懐かしい人に声をかけられた。それが、あいつの弟の英士だった。
 オレの記憶の中の英士よりも、背も大きく、肩幅もガッチリして、かけられた声も低く大人びた声になっていた。
 聞かなくてもわかる。英士もアルファだ。

 ますますあいつに似てきた英士を見ていると、嫌でも思い出してしまう。
 オレは無理やり記憶に蓋をし、英士に精一杯の笑顔を向けた。

「久しぶりに会えてよかったよ。……元気でな」

 オレは英士の頭を昔のようにポンポンと撫でると、じゃあなと手を振ってレジへ向かった。

 ◇

 偶然英士に再会してから、1ヶ月ほどが過ぎていた。あの事故の日と同じ、どんよりとした曇り空で、今にも雨が降り出しそうな天気だった。

「……あれ?」

 オレは自分の視線の先に見える、見覚えのある後ろ姿を見つけ、思わず首を傾げた。そこにいるはずのない人物なのに、あまりにも似過ぎているのだ。
 今日オレは、初めて結婚相手と顔を合わせることになっていた。事前にお見合い写真や顔を見る機会があったけど、そんな気分になれないオレは、一度も見ることなく今日を迎えた。

 今の医学は進んでいて、番解除の手術をしても、再び番を持つことも可能となった。それでも一度番を持った事実は消えないし、強制的に番解除の手術をされた事実も消えない。だから、相手の人に失礼だという気持ちも拭いきれなかった。
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