4 / 4
4
しおりを挟む
オレの知っている英士は、無邪気な笑顔が可愛いやつだ。オレのことを慕ってくれて、後ろをワンコのようについてまわっていたんだ。再会した時だって、オレをまっすぐ見つめるあの瞳は、何も変わらなかった。
なのに……。目の前にいるこいつは誰なんだろう。オレは、こんな笑い方をするヤツは、知らない。
「あ、そうだ。婚姻届は出したから、俺たちはもう夫夫なんですよ」
「……!!」
オレは目を見開いて、楽しそうに笑う英士を見た。
結婚というのは、ちゃんと手順を踏むものではないだろうか。例え決められたお見合いでも、両家で顔合わせをし、本人たちの意思確認をし、婚姻届にサインをし、役所に届けに行き……。
オレは、まだ何ひとつやっていない。少なくとも、婚姻届が本人の意思関係なく受理されることなんて、あり得ないだろう。
何かがおかしい。このままここにいてはいけない。
……オレは身の危険を感じ、立ち上がると急いでドアの方へ走った。ガチャガチャと音を立ててドアノブを回そうとするけれど、鍵がかかっているのか扉は開かない。
「もう逃げられませんよ?……小さな頃から、ずっと、貴方が欲しかったんだ。兄が余計なことをしてくれたから、色々と予定が狂っちゃいましたけどね」
後ろから聞こえる楽しそうな声に、オレはブルっと身を震わせた。
何がどうしたんだ。何もわからない。考えても考えても、答えなんか見つからない。ますます頭の中は混乱するばかりだ。
ここから逃げ出そうと、オレは必死にドアを叩いた。お願いだ、誰か気づいてくれ!
大きく腕を振り上げたその瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。
力強くドアを叩いていた手に力が入らなくなり、足元から崩れ落ちる。
……何が、起きたんだ……?
体に力が入らなくなり、へたりと床に座り込んだ。立とうとしても、思うように体は動かない。
気づくと、体がどんどん熱を帯びてきていた。そして、あっという間に身体中が熱くなる。
この感覚は――
「そろそろ効いてきましたね。形式上は夫夫になったけど、やっぱり心身ともに結ばれたいですよね」
英士は崩れ落ちたオレを支えると、そっと優しく抱き上げた。
体が密着し、英士の体温を感じた途端、オレの体からは一気に大量のフェロモンが放たれた。
「……くっ。悠生さん、そんなに煽らないでくださいよ。ちゃんとベッドまで運びたいんですから」
どこか遠くで聞こえる英士の声は、何かを我慢しているような声だった。それは、オレの心を揺さぶる声で、無意識に誘うようにさらにフェロモンが濃くなったのを感じた。
急激に思考回路が奪われ、ここで何をしていたのかもわからない。これから何をすればいいのかもわからない。ただわかるのは『オレのアルファ』が早く欲しいと言うこと。
早く、早く、早く……。
オレは、早くアルファが欲しくて、無意識に目の前の布を掴んだ。そこからまた、好ましい香りが漂う。
そうだ、オレが欲しいのは『コレ』だ。
「待っててくださいね。もうすぐ部屋に着きますから」
オレは心地よい揺れとオレ好みの良い香りを感じているうちに、どんどん頭の中がふわふわして気持ちよくなってきた。
心地が良くって、布を掴んだままそっと目を開けてみた。目の前には、オレ好みのイケメンが、覗き込んで微笑んでいるのが見える。
「目がとろんとしちゃって、可愛いですね。……さぁ、行きましょうか」
オレのわずかに残されていた意識は、部屋に到着する前に、ゆっくりと失われていった。
意識を手放す直前に「やっと手に入れた」という英士の声が聞こえた気がした。
(終)
✤
これは、ツイノベで書いたもの(3000字弱)を改稿したものです。
もっとじっくり書き直したかったけど、とりあえずここまでにしておきます。
いつか、颯とのことや、英士とのその後なども書けたら楽しいな。
お読みいただきありがとうございました~。
なのに……。目の前にいるこいつは誰なんだろう。オレは、こんな笑い方をするヤツは、知らない。
「あ、そうだ。婚姻届は出したから、俺たちはもう夫夫なんですよ」
「……!!」
オレは目を見開いて、楽しそうに笑う英士を見た。
結婚というのは、ちゃんと手順を踏むものではないだろうか。例え決められたお見合いでも、両家で顔合わせをし、本人たちの意思確認をし、婚姻届にサインをし、役所に届けに行き……。
オレは、まだ何ひとつやっていない。少なくとも、婚姻届が本人の意思関係なく受理されることなんて、あり得ないだろう。
何かがおかしい。このままここにいてはいけない。
……オレは身の危険を感じ、立ち上がると急いでドアの方へ走った。ガチャガチャと音を立ててドアノブを回そうとするけれど、鍵がかかっているのか扉は開かない。
「もう逃げられませんよ?……小さな頃から、ずっと、貴方が欲しかったんだ。兄が余計なことをしてくれたから、色々と予定が狂っちゃいましたけどね」
後ろから聞こえる楽しそうな声に、オレはブルっと身を震わせた。
何がどうしたんだ。何もわからない。考えても考えても、答えなんか見つからない。ますます頭の中は混乱するばかりだ。
ここから逃げ出そうと、オレは必死にドアを叩いた。お願いだ、誰か気づいてくれ!
大きく腕を振り上げたその瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。
力強くドアを叩いていた手に力が入らなくなり、足元から崩れ落ちる。
……何が、起きたんだ……?
体に力が入らなくなり、へたりと床に座り込んだ。立とうとしても、思うように体は動かない。
気づくと、体がどんどん熱を帯びてきていた。そして、あっという間に身体中が熱くなる。
この感覚は――
「そろそろ効いてきましたね。形式上は夫夫になったけど、やっぱり心身ともに結ばれたいですよね」
英士は崩れ落ちたオレを支えると、そっと優しく抱き上げた。
体が密着し、英士の体温を感じた途端、オレの体からは一気に大量のフェロモンが放たれた。
「……くっ。悠生さん、そんなに煽らないでくださいよ。ちゃんとベッドまで運びたいんですから」
どこか遠くで聞こえる英士の声は、何かを我慢しているような声だった。それは、オレの心を揺さぶる声で、無意識に誘うようにさらにフェロモンが濃くなったのを感じた。
急激に思考回路が奪われ、ここで何をしていたのかもわからない。これから何をすればいいのかもわからない。ただわかるのは『オレのアルファ』が早く欲しいと言うこと。
早く、早く、早く……。
オレは、早くアルファが欲しくて、無意識に目の前の布を掴んだ。そこからまた、好ましい香りが漂う。
そうだ、オレが欲しいのは『コレ』だ。
「待っててくださいね。もうすぐ部屋に着きますから」
オレは心地よい揺れとオレ好みの良い香りを感じているうちに、どんどん頭の中がふわふわして気持ちよくなってきた。
心地が良くって、布を掴んだままそっと目を開けてみた。目の前には、オレ好みのイケメンが、覗き込んで微笑んでいるのが見える。
「目がとろんとしちゃって、可愛いですね。……さぁ、行きましょうか」
オレのわずかに残されていた意識は、部屋に到着する前に、ゆっくりと失われていった。
意識を手放す直前に「やっと手に入れた」という英士の声が聞こえた気がした。
(終)
✤
これは、ツイノベで書いたもの(3000字弱)を改稿したものです。
もっとじっくり書き直したかったけど、とりあえずここまでにしておきます。
いつか、颯とのことや、英士とのその後なども書けたら楽しいな。
お読みいただきありがとうございました~。
200
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
ないない
一ノ瀬麻紀
BL
エルドと過ごす週末が、トアの何よりの楽しみだった。
もうすぐ一緒に暮らせる──そう思っていた矢先、エルドに遠征依頼が下る。
守りたい気持ちが、かつての記憶を呼び覚ます。
✤
『ないない』をテーマに書いたお話です。
メリバです。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
きみに会いたい、午前二時。
なつか
BL
「――もう一緒の電車に乗れないじゃん」
高校卒業を控えた智也は、これまでと同じように部活の後輩・晃成と毎朝同じ電車で登校する日々を過ごしていた。
しかし、卒業が近づくにつれ、“当たり前”だった晃成との時間に終わりが来ることを意識して眠れなくなってしまう。
この気持ちに気づいたら、今までの関係が壊れてしまうかもしれない――。
逃げるように学校に行かなくなった智也に、ある日の深夜、智也から電話がかかってくる。
眠れない冬の夜。会いたい気持ちがあふれ出す――。
まっすぐな後輩×臆病な先輩の青春ピュアBL。
☆8話完結の短編になります。
君に捧げる紅の衣
高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。
でも、その婚姻はまやかしだった。
辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。
ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。
「辰を解放してあげなければ……」
しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?
雨降る窓辺で
万里
BL
突然の事故で妻を亡くした基樹は、5歳の娘・すみれとの生活に戸惑いながらも懸命に向き合っていた。 ある夜、疎遠だった旧友・修一から届いた一通のメッセージが、彼の孤独な日々を少しずつ変えていく。
料理や家事を手際よくこなし、すみれにも優しく接する修一。 その存在は、基樹の張り詰めた心を静かにほどいていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
✤未希かずはさん
忙しい中、わざわざありがとう💦
感想まで嬉しいです🙇♀️
ね?私にしては、でしょ。
でも、こういうの書くのも楽しいんだよねー。
今ツイノベ用に書いてるのも、そんなに明るくはないかな(笑)
アルファの執着ほど美味しいものはないからね🤤
✤ぴょんたさん
感想ありがとうございまーす✨
ふふふ、お兄ちゃんどうなっちゃったんでしょうねぇ?(・∀・)ニヤニヤ
相性も……どうなんでしょうねぇ🤭
私も、アルファがあらゆる手段を使い、手中におさめるの、好き🩷
✤加賀ユカリさん
お読みいただき、感想までありがとうございます🙇♀️
ツイノベの時は勢いで書いたので、ちょっと手直ししてみました。
αらしい行動、ニヤニヤしちゃいますよねー。
使える能力や立場フル活用して、囲い込んでいくの大好物なんです🩷
特製の箱庭!素敵表現です✨
幸せに満ち足りるのか、不穏な空気が流れるのか、さあどっちでしょう?
(ΦωΦ)フフフ…