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オレの知っている英士は、無邪気な笑顔が可愛いやつだ。オレのことを慕ってくれて、後ろをワンコのようについてまわっていたんだ。再会した時だって、オレをまっすぐ見つめるあの瞳は、何も変わらなかった。
なのに……。目の前にいるこいつは誰なんだろう。オレは、こんな笑い方をするヤツは、知らない。
「あ、そうだ。婚姻届は出したから、俺たちはもう夫夫なんですよ」
「……!!」
オレは目を見開いて、楽しそうに笑う英士を見た。
結婚というのは、ちゃんと手順を踏むものではないだろうか。例え決められたお見合いでも、両家で顔合わせをし、本人たちの意思確認をし、婚姻届にサインをし、役所に届けに行き……。
オレは、まだ何ひとつやっていない。少なくとも、婚姻届が本人の意思関係なく受理されることなんて、あり得ないだろう。
何かがおかしい。このままここにいてはいけない。
……オレは身の危険を感じ、立ち上がると急いでドアの方へ走った。ガチャガチャと音を立ててドアノブを回そうとするけれど、鍵がかかっているのか扉は開かない。
「もう逃げられませんよ?……小さな頃から、ずっと、貴方が欲しかったんだ。兄が余計なことをしてくれたから、色々と予定が狂っちゃいましたけどね」
後ろから聞こえる楽しそうな声に、オレはブルっと身を震わせた。
何がどうしたんだ。何もわからない。考えても考えても、答えなんか見つからない。ますます頭の中は混乱するばかりだ。
ここから逃げ出そうと、オレは必死にドアを叩いた。お願いだ、誰か気づいてくれ!
大きく腕を振り上げたその瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。
力強くドアを叩いていた手に力が入らなくなり、足元から崩れ落ちる。
……何が、起きたんだ……?
体に力が入らなくなり、へたりと床に座り込んだ。立とうとしても、思うように体は動かない。
気づくと、体がどんどん熱を帯びてきていた。そして、あっという間に身体中が熱くなる。
この感覚は――
「そろそろ効いてきましたね。形式上は夫夫になったけど、やっぱり心身ともに結ばれたいですよね」
英士は崩れ落ちたオレを支えると、そっと優しく抱き上げた。
体が密着し、英士の体温を感じた途端、オレの体からは一気に大量のフェロモンが放たれた。
「……くっ。悠生さん、そんなに煽らないでくださいよ。ちゃんとベッドまで運びたいんですから」
どこか遠くで聞こえる英士の声は、何かを我慢しているような声だった。それは、オレの心を揺さぶる声で、無意識に誘うようにさらにフェロモンが濃くなったのを感じた。
急激に思考回路が奪われ、ここで何をしていたのかもわからない。これから何をすればいいのかもわからない。ただわかるのは『オレのアルファ』が早く欲しいと言うこと。
早く、早く、早く……。
オレは、早くアルファが欲しくて、無意識に目の前の布を掴んだ。そこからまた、好ましい香りが漂う。
そうだ、オレが欲しいのは『コレ』だ。
「待っててくださいね。もうすぐ部屋に着きますから」
オレは心地よい揺れとオレ好みの良い香りを感じているうちに、どんどん頭の中がふわふわして気持ちよくなってきた。
心地が良くって、布を掴んだままそっと目を開けてみた。目の前には、オレ好みのイケメンが、覗き込んで微笑んでいるのが見える。
「目がとろんとしちゃって、可愛いですね。……さぁ、行きましょうか」
オレのわずかに残されていた意識は、部屋に到着する前に、ゆっくりと失われていった。
意識を手放す直前に「やっと手に入れた」という英士の声が聞こえた気がした。
(終)
✤
これは、ツイノベで書いたもの(3000字弱)を改稿したものです。
もっとじっくり書き直したかったけど、とりあえずここまでにしておきます。
いつか、颯とのことや、英士とのその後なども書けたら楽しいな。
お読みいただきありがとうございました~。
なのに……。目の前にいるこいつは誰なんだろう。オレは、こんな笑い方をするヤツは、知らない。
「あ、そうだ。婚姻届は出したから、俺たちはもう夫夫なんですよ」
「……!!」
オレは目を見開いて、楽しそうに笑う英士を見た。
結婚というのは、ちゃんと手順を踏むものではないだろうか。例え決められたお見合いでも、両家で顔合わせをし、本人たちの意思確認をし、婚姻届にサインをし、役所に届けに行き……。
オレは、まだ何ひとつやっていない。少なくとも、婚姻届が本人の意思関係なく受理されることなんて、あり得ないだろう。
何かがおかしい。このままここにいてはいけない。
……オレは身の危険を感じ、立ち上がると急いでドアの方へ走った。ガチャガチャと音を立ててドアノブを回そうとするけれど、鍵がかかっているのか扉は開かない。
「もう逃げられませんよ?……小さな頃から、ずっと、貴方が欲しかったんだ。兄が余計なことをしてくれたから、色々と予定が狂っちゃいましたけどね」
後ろから聞こえる楽しそうな声に、オレはブルっと身を震わせた。
何がどうしたんだ。何もわからない。考えても考えても、答えなんか見つからない。ますます頭の中は混乱するばかりだ。
ここから逃げ出そうと、オレは必死にドアを叩いた。お願いだ、誰か気づいてくれ!
大きく腕を振り上げたその瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。
力強くドアを叩いていた手に力が入らなくなり、足元から崩れ落ちる。
……何が、起きたんだ……?
体に力が入らなくなり、へたりと床に座り込んだ。立とうとしても、思うように体は動かない。
気づくと、体がどんどん熱を帯びてきていた。そして、あっという間に身体中が熱くなる。
この感覚は――
「そろそろ効いてきましたね。形式上は夫夫になったけど、やっぱり心身ともに結ばれたいですよね」
英士は崩れ落ちたオレを支えると、そっと優しく抱き上げた。
体が密着し、英士の体温を感じた途端、オレの体からは一気に大量のフェロモンが放たれた。
「……くっ。悠生さん、そんなに煽らないでくださいよ。ちゃんとベッドまで運びたいんですから」
どこか遠くで聞こえる英士の声は、何かを我慢しているような声だった。それは、オレの心を揺さぶる声で、無意識に誘うようにさらにフェロモンが濃くなったのを感じた。
急激に思考回路が奪われ、ここで何をしていたのかもわからない。これから何をすればいいのかもわからない。ただわかるのは『オレのアルファ』が早く欲しいと言うこと。
早く、早く、早く……。
オレは、早くアルファが欲しくて、無意識に目の前の布を掴んだ。そこからまた、好ましい香りが漂う。
そうだ、オレが欲しいのは『コレ』だ。
「待っててくださいね。もうすぐ部屋に着きますから」
オレは心地よい揺れとオレ好みの良い香りを感じているうちに、どんどん頭の中がふわふわして気持ちよくなってきた。
心地が良くって、布を掴んだままそっと目を開けてみた。目の前には、オレ好みのイケメンが、覗き込んで微笑んでいるのが見える。
「目がとろんとしちゃって、可愛いですね。……さぁ、行きましょうか」
オレのわずかに残されていた意識は、部屋に到着する前に、ゆっくりと失われていった。
意識を手放す直前に「やっと手に入れた」という英士の声が聞こえた気がした。
(終)
✤
これは、ツイノベで書いたもの(3000字弱)を改稿したものです。
もっとじっくり書き直したかったけど、とりあえずここまでにしておきます。
いつか、颯とのことや、英士とのその後なども書けたら楽しいな。
お読みいただきありがとうございました~。
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✤未希かずはさん
忙しい中、わざわざありがとう💦
感想まで嬉しいです🙇♀️
ね?私にしては、でしょ。
でも、こういうの書くのも楽しいんだよねー。
今ツイノベ用に書いてるのも、そんなに明るくはないかな(笑)
アルファの執着ほど美味しいものはないからね🤤
✤ぴょんたさん
感想ありがとうございまーす✨
ふふふ、お兄ちゃんどうなっちゃったんでしょうねぇ?(・∀・)ニヤニヤ
相性も……どうなんでしょうねぇ🤭
私も、アルファがあらゆる手段を使い、手中におさめるの、好き🩷
✤加賀ユカリさん
お読みいただき、感想までありがとうございます🙇♀️
ツイノベの時は勢いで書いたので、ちょっと手直ししてみました。
αらしい行動、ニヤニヤしちゃいますよねー。
使える能力や立場フル活用して、囲い込んでいくの大好物なんです🩷
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