俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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天使再臨

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ため息しか出ねぇ。幸せが逃げてくなんてよく言うが。もう現状が不幸そのものなのでどうでもよくなってる。体育座りで公園の滑り台に座ってる。作戦会議後、各々の役割にわかれ今はひとり…ちがった、ふたり。

「はぁぁぁ~~~…。」

心にととがいた時のように冷静に行動できればいいのだが。いなくなった反動というか、あふれる感情にしっかりと自分のこころが飲まれていくのがよくわかる。

「もー!落ち込んどってもしゃあないやろー?前向きに考えていこーや!例えばぁ…そや!覗きや!」

何が前向きだよ犯罪じゃないか!「今しかできへんで?」なんてそういう問題ではないわ。

「何考えとるんや秋くーん?まぁ健全な?男子高校生やからなぁ…しゃあないっちゃしゃあないねんけど、俺が言うとるんはそういうことちゃうねん!偵察っちゅーこと!」

偵察なら偵察とちゃんとそう言いなさい。とはいえ、壱弥からは協力してるのバレると良くないからあまり下手に動かないようにって言われているんだが。

「せっかくふわふわーって飛べるんやからちょーっと遠目から見とったらええんやん!この状況を有効活用せな勿体無いで?自分の目で見るのも大事やし!それに俺もおるんやで?うまくやってこーや♪」

なるほどな。そう考えるのかこいつは。バレないように偵察か…出来るんだろうか?

「沙織里は…どうしてるかな…。」

真っ先に頭に浮かんだのは沙織里だった。親父じゃなくてゴメンな…。この間天使に騙されてからまぁ…いつもどおりだけどそれなりには…意識してる系なわけで。だからってのもあるのかな?旧校舎から俺を置いて夜兄と皆で出ていった時の悲しさと寂しさの大半は…沙織里の視線が向けられなかったことなのかなー?なんて。そうじゃなくてもショックが大きかったから、沙織里に対してかってのは本当に!確かではないけど!思い出したら急にギュッてなった。

「もうすぐ早朝の修行の時間だし、あそこで待ってみるか。」

「お?行くとこ決まったん?俺はどうしたらええ?一緒でええの?」

「うーん…とりあえず一緒に、かな。夜兄も来るだろうからなバレそうになったらお前を盾にするぞ。」

とりあえずだ、とりあえず…気になるから見に行くっ!
日が昇り始めてる。長距離を飛ぶのはまだ慣れなくてバランスが取りづらいが神社まで飛んでいく。東雲は家の屋根や、木をぴょんぴょんと器用に跳びついてくる。こいつ喋らなきゃかっこいいのになぁ。幸い公園から神社まではすぐだった。屋根の上に身を隠し、現れるのを待つ…。

朝日が眩しく差し込み、それを合図に境内に生えている木々に住み着くセミが鳴き始めた。夏だなぁと感じながらボーッとしてたら下の方で砂利を踏む音が聞こえた。沙織里だ。あいつはいつも一番乗りでここに来る。

「んー!今日もあっつくなりそー!」

なんて伸びをしている。今日はウサギさんのタンクトップですか、よろしいです。

「何がよろしいのだ?」

「そりゃあ~あの張り具合と脇の…って誰?!」

よく見れば周りの時が止まっている。ついこの間もこんなことあったからな?よーく覚えてるわ。天使のやつだ。

「やらしぃこと考えとるからやでぇ秋くん~。」

「なんでお前動けるんだよ?!」

「此奴は貴様と繋がっているだろう?隠した所で意味もない。あともう面倒くさかった。」

どう見ても後者が本音だろ。天使って割とフザケてるよな?いいのそれで?あーあ…東雲除いておけばいいのに天使なんて珍しいからめちゃくちゃ絡まれてるしカワイソウニナア?…で?今回はなんで止めた?沙織里に悪い影響出てないと思うけど?

「あいも変わらず愚か者だな真砂秋緋。何だその姿は?恥ずかしくはないのか?その姿でどうやって愛し子と共にゆくつもりだ?」

あーそういえば俺は沙織里の、そのーなんだ、アレなんだっけ。

「共に行くも何も見えてねぇんだよ、俺が。だからいま色々動いて…ってお前も見えるんだな?!」

「見えるも何も…お前達の言う妖怪という存在と、天使はそもそも存在の定義が違うのだ。愛し子にかけられてる呪いのようなものがあるが、そんなものは我には通らぬ。しかし何なのだこれは?なぜ解けぬ…。」

そういうもんなの…?出来すぎてるような気もするが見える奴がいてくれるってのは今の俺にとっては嬉しいことだ。それに沙織里にかけられている【不視】もどうにかしようとしてくれてるとは。夜兄がよほど複雑にしているか、元々簡単には解けないものなのかはわからにが苦戦しているみたいだけど。我ながら面倒な能力を使えるようになったもんだ。

「それをかけたのは俺の体にいる夜兄。俺がやるわけ無いだろ。」

「夜?真砂夜緋呂のことか?ふむ…詳しく話せ。」

と、珍しく興味を示したので、何がどうなってこうなったのかを説明してやった。しばらく考え込むようなそぶりをした後、天使はポツリと言った。

「お前たちの企みに我も一枚噛んでやろう。…とはいえ、我は愛し子から離れることは叶わぬ。これを託そう。」

そう言うと、天使は俺にロザリオをよこした。シンプルなデザインのシルバーのロザリオだ。

「直接手を出すことはせん。万が一うまく運ばなかった時の為の保険として持っているといい。所有しているだけでもある程度は守護にはなろう。よいか?我らと力のベクトルが違うからな?使った場合の安否は保証出来ぬことは心得よ。」

詳しくどんな効果があるかは教えてくれないのは何でだろうな。本当に、あくまで保険として。持ってるだけで使うことがないことを願うか。そうならない為には俺が頑張らないと。

「ありがとうな、がんばるよ。」

「ふん。我は愛し子の為動くのだ。今の愛し子に偽りの愛を与えるあやつを止めよ。あの眼差しを受けるべきなのはお前だ、秋緋。」

偽りの愛だと?夜兄は沙織里に何をしてるってんだ?天使に聞こうとしたら「自分の目で見るがいい。」って時止めを解除して消えた。チラリと下に目をやると、ストレッチをしてる沙織里。そしてやってきた俺…の体こと、夜兄。

「あ!あーちゃん今日は早いね!」

「それはこっちのセリフだ。いつも追いつけないなぁ…やっぱすごいな、沙織里は。いいこいいこ…。」

「ちょっ!や、やだあーちゃん…もう…!」

頭なでなでって…なにあれ!なんだあの雰囲気は!俺はあんなことでき…しねぇし!それにあの顔!俺知らない!

「あらぁ~めろめろになっとるやん彼女。秋くんは今まで何もしとらんかったん…?」

「してない…。」

「なんやかわいそなってきたわ…。」

東雲が哀れんだ目で俺を見る。
夜兄を見つめる沙織里の顔はキラキラと笑ってた。悔しい。そして辛い。
本当は俺が目の前で、俺だけに見せる顔なはずだったんだな?天使よ、俺に火をつけてくれたぜ…貰ったロザリオを強く握りしめ、俺は新たに目覚めたこの感情に任せて小声で叫んだ。

「沙織里は渡さねぇぞぉぉ!!見てろよ夜兄!俺の体も沙織里も取り返してやるうぅぅぅ!!」

「ぶっ!嫉妬に狂う魂だけ男の爆誕やな!ひゃーひひひっだははは!!」

なんちゅうあだ名をつけるんだ東雲。笑いすぎだろうが。なんにせよやる気が出たのは確かだ。やってやる。

「行くぞ東雲!」

「ハァハァ…かしこまりましたぁご主人さまー…ブフウッ!」

「(何してるんだろあのふたり…。)」

いつの間にか壱弥も合流してたらしい。こちらに視線を向けてたようだが、俺は気付く事なくこの場をあとにしたのだ。現状は変わりない日常を送っている、という事を確認したってことにして…。

さぁて。俺の仕事をこなしてやるよ…待ってろよ!!
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