俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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俺を取り戻せ!①

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埃だらけの古い蔵。ここは俺の実家にある物置として使われてる蔵だ。俺はここであるものを探している。

「うーん…見当たらない。」

「ホンマにここにあるん?」

茨木情報で、俺が取ってくるように言われた【継承の赤玉】の元になる鬼の角がこの蔵に置いてあるんだと。自分の家でこんな泥棒みたいな真似はしたくはないが…仕方あるまい。日常的に蔵に出入りしてるのは戌井と茨木、それと結緋さん。俺は近づいたこともないので尚更何がどこにあるのかなんてのはわからない。
鍵のかかっている蔵だったから実体である東雲は入れないと思ってたけど。俺のこの幽霊状態を共有することですり抜けができ、ひとりでこのすごい量の巻物やらなんかの道具やら本やらをかき分けて探さずに済んでるのはありがたい。

「うわぁ…禍々しいもんばっかやんこっち…。」

やはり特定の人物しか入れないだけあって中々のものが貯蔵されているようだ…俺も迂闊に触らないようにしよ…。

「ん?秋くーん!ここ!ここ床下あるみたいやでー?」

よしきた!こんなわかりやすいところに保管されてるはずはないだろうなとは思っていたが、これだけ探してないなら、あとはそこしかない!東雲に床についている扉を開けてもらう。現れたのは下に続く階段だ。最初のところは木でてきているが、暗がりのその先は石でできてる。年代物のようだ。

「いくぞ東雲っ!」

「秋くんやる気やなぁ…ラヴパワー全開…ぶぶっ!あかん思い出したら…くふっ!」

「笑ってないで働け!」

ったく、どんだけツボに入ってるんだ!沙織里の事もあるけど夜兄の事もちゃんと考えてるんだからな!
階段をくだり、地下の通路に降り立つ。すぐ目の前に古めかしい木でできた扉があった。扉には札がたくさん張り付けられ、念入りに鍵もかかっていたわけだが。すり抜ければ問題ない…いっ?!
ドゴッ!という鈍い音を俺の頭が鳴らす。まさかぶつかるとはな…やはりこの扉の奥に何かがあるらしい。

「扉も壁も通り抜けでけへんとなるとどないする?壊すんやったらやってみるけど?」

できれば壊すのは避けたい。大きな音を出して誰かに気づかれたらただでさえ慌ただしくなっている時なのに泥棒騒ぎまで追加されたらせっかく目をつぶってくれている茨木に申し訳が立たない。そんな俺の心情を察して東雲は扉を調べ始めた。

「うーん。お?これ別に術なんかかってへん?中におるなんかが秋くんを拒んどる?」

東雲って結構ハイスペック?戦闘も探知もできるとか。壱弥が「けっこうできるやつ」みたいに言っていたのがわかってきた。それより、部屋の中になにかがある?誰かがいる?

「…とと?」

自然と口から溢れた。でも、ととは俺の体の中にいるはず。いや、それは魂だとしたらここにあるのはととの体ってことになる。けど、抵抗しているっていうことは―…。

「とと、ここを開けて。俺、夜兄を助けたいんだ。」

この一言だけだけど、ととならわかってくれると思った。少し間があった後、ギギギ…と音がして自然に扉が開いた。ロウソクの灯りがゆらゆらと揺れる。そこにととはいた。

「鬼のミイラかいな…なんちゅうもんおいとんねん…。」

東雲は引いてたが、俺はちょっと嬉しいぞ?
あの時の攻撃で体を保てなくなったってことらしいけど、それでもすべて失われているわけではないようだ。欠損部分と攻撃をうけた傷跡はそのままだったが、さまになるほどかっこいいあぐらをかいて、カラッカラに乾いたミイラの姿だったけど堂々と鎮座していた。

「とと…ごめん。こんな姿見られたくなかったんだよな。」

俺はそっと、ととの手を握る。握るというか添える感じだけど。

「俺全部思い出したよ。俺の体にいてくれてたんだよな。ありがとう…ちょっと夜兄と喧嘩しちゃって今はこんな姿になっちゃってるけど。仲直りする為にととの角が必要なんだけど、いいかな?」

もちろん返事はない。東雲も空気を読んでるのか黙ってる。本当は夜兄と喧嘩したわけじゃないけど、ととを心配させたくなかった。魂はここにあるわけじゃないけど、むりやり角を獲っていくのは…なんか嫌だったんだ。

ボロっと。ととの頭にある角の1つが落ちた。

「…っ!ありがとう、とと。一本角になっちゃったな…でも、かっこいいよ。」

ととは3本角の鬼だ。ひとつは親父が持ってたやつなんだろう。玉の由来を知らなかったし、記憶が戻る前とはいえ雑な扱いしてたことに心を痛めてます。ごめんなとと。

「グスッ…うぅ…なんや勝手に涙が…うぅ…。」

笑ったり泣いたり忙しいやつだな東雲は。今回は俺の感情がちょっとばかり伝わっちゃたんだろうけど…気を取り直していこうか。大事なととの角だ、失敗は許されないぜ。

『夜を頼む、秋坊。』

「…うん。」

部屋から出ようとした時、声が聞こえた。ととの声、もう忘れることはない大好きなととの声だ。やっぱり想いは残っていたんだ。よっし。ととにも頼まれちゃったし、俄然やる気が湧いてきたな。

「問題なく手に入って良かったな。茨木はどうかな?」

「…しゃあない、聞いてみるわ。ロリコン鬼は…と。」

蔵から出て近くにある壱弥の実家の神社でひと休み。ここが一番安全らしい。というか、東雲がスマホ持ってるのに驚いたし、その上茨木の連絡先知ってるというダブルの驚き。いつの間に?ってのもあるけど実は仲いいのか?

「あっ!もっしー?ちょ!きるなきるな!秋くんの方は無事に終わったよーて。そっちはどないなってるんて気にしとってん!あ、スピーカーにするからまって~。」

めっちゃ友達じゃん。あれからどうしてこうなった?

『それぐらい簡単にやってもらわないと困りますよ。こちらも姫様の許可がおりましたので、問題ないですよ。』

「なぁ茨木。うちに俺を向かわせたのはわざとか?」

『…さて、どうでしょうね。私は私で色々忙しいので。もう用は済みましたね?では、また明日…。』

「なんや忙しいて姫様姫様いうとるだけやろ…て切れてる!なんなん!」

忙しいってのは確かなんだろうけど。相変わらずな奴。
茨木の方も問題なく、か。あとは壱弥が夜兄を呼び出すだけだ。まぁ、あいつなら上手くやるだろうから大丈夫だろう。

「チャンスは1回だけなのが…緊張するなぁ…。」

「まぁまぁ…俺らもおるんやから大丈夫やって。夜くんと秋くんふたりともハッピーエンド!」

尻尾ふりふりして背中をバシバシ叩くな!その自信はどこから来るんだ。失敗したら…いや、そんなこと考えてるから変に緊張するんだ。落ち着け落ち着け…。俺はととの角をギュッと握りしめる。

「決行は…明日の夕方…!待ってろよ夜兄!」

「あ、お腹すいたからなんか食うてくるねー。」

もしかして気を張ってるの俺だけか?
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