俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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俺を取り戻せ!②

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蝉がいまだに鳴きやむ気配のない夏の夕暮れ。
水瀬市に戻った俺は、壱弥が夜兄を呼び出す予定の場所に待機している。幽霊な俺でも暑く感じるのに、汗を流して頑なにコートを脱ごうとせず耐えている東雲。

「えー?あかんよ?これ脱いだら俺のナイスボディーに惚れてまうで?」

あーはいそうですかじゃあずっと着てればいいわい。見ている方が暑苦しく感じて釣られて汗がでてる気がする。俺の場合は緊張の汗だろうな。刻々と約束の時間が迫る。対峙の場所は…。

「なんだよ壱弥。夏休み前の特別な修行って?」

「ごめんね、夏休み中僕たちいないから簡単なやつを追加で教えようと思って。」

きた!神社の境内に、ふたりの姿。

「ふーん?」

「じゃあ僕がそこに立つから、秋緋はそこに立ってみて?」

壱弥が手はず通りに夜兄を所定の位置へ誘導する。

「なにをやるかは知らないけれど…わたしの邪魔をするつもりなら、容赦はしない。」

バレた…!いや、これはわかってたことだ!想定内!

「東雲!行って来い!」

「はいなぁー!」

夜兄は俺の目の前に、俺の視界の範囲に入っていればそれでいい!そこへ東雲を送り出し、夜兄を後ろから羽交い締めにする。

「おや?東雲。今まで何してたんだい?心配してたんだよ?」

数日程度で今まで鍛えてきたわけじゃない俺の体がムキムキになるわけじゃない。ましてや妖怪の力で取り押さえられたら身動きは取れないだろう。夜兄もわかってて無駄な抵抗はしていないようだ。

「夜くん、かんにんな。その心配してるっちゅうん前から本心やないのわかってた。いつもそうやったんわかってた。今からな、秋くんはそれを本物にしてくれるんやって。せやからな…」

「…裏切り者。」

「夜くん…っ。」

東雲には辛い役目をさせてしまってるな。拘束を緩めることは無いだろうが。

「秋緋の体、返してもらいます。」

壱弥がそう言うと筒を2本取り出した。あれ?鵺が入ってるのと違うやつ?俺の知らない妖怪が出てくるのか。

「あーん?こいつぁ面白い状況じゃねぇか?」

「酒天殿、これはまったく面白くはない状況でござるよ…。」

なんだあいつ。鬼みたいだけど俺の知ってるタイプの鬼じゃない?角の美しさもあるがそれにしても顔が良い。ってそうじゃない。

「そんな凶暴なのをわたしに向けるのかい?体は無事じゃ済まないと思うよ?」

拘束されてる割に余裕がある。これは何か手立てを持ってるやつだ。

「攻撃はしませんよ、今はね。東雲さん!」

「…っ!ごめんしてな夜くん!!」

東雲が壱弥の掛けた声に反応し、事前に仕掛けていた方陣の場所に移動する。夜兄がそこに足をつくと方陣が発動。東雲は素早く離れる。白い光に包まれ、立ったまま固まった。

「なるほどね。じゃあ次に出て来るのは…。」

「俺だよ夜兄!!ごめん!」

俺は身を隠していた木の陰から飛び出した。次の方陣の発動まで時間がない!手に角を持ち、それを俺の体に突き当てる!時間がなくて加工できなかったとはいえ痛そう!突き当てた所から光が溢れ、背中側から夜兄の魂がズルリと抜けていった。

「よし!鵺!方陣から夜緋呂さんを遠ざけて!」

「承知!」

鵺は素早く尻尾の蛇を夜兄に絡ませ、方陣の範囲外へ夜兄を引きずり出した。次の瞬間、方陣の色が変わり俺の体と俺の魂だけが残る結界になった。
おかえり俺の体!そっと手を触れると吸い込まれるように俺と俺が重なっていく。

「んぉっしゃぁぁぉ!!いてぇえ!!」

戻った!戻ったけど勢い任せて刺したのやっぱ痛い!でもこれが生きてるってやつだな!!

「あ~ぁ…残念。」

鵺の蛇に巻き付かれたまま、夜兄は呟いた。どこか笑いながら…だが。

「これで元通りだ、夜兄。強引なことはしたくないから…話を聞いてほしいんだけど…。」

「はぁ…本当に残念だよ。気付かないなんて。かわいそうにね、父様。」

話を聞く気がないどころか…父様?…ととがかわいそうだと?

「あ…れ。いない…?」

胸の奥に集中してみたが、いないんだ…俺の体の中にいるはずのととを感じられない。

「何度も言うけど、残念だったね秋緋。わたしの目的が達せられたんだよ。」

「ととのいる俺の体を使って当主になるのが目的じゃなかった…?」

考えが甘かったのか?そんなはずはない…自分でもほのめかしてたし、東雲もそう言ってた。それで当主になってめちゃくちゃにしてやるって。

「もちろんそれも予定には入っているよ。その前に父様がわたしのところに戻ってきただけのことだよ。父様がいればどうとでもなるから。さ、邪魔者は排除しなきゃね?」

「!いけない!鵺!離して!!」

紫炎が走り鵺の尻尾である蛇を焼き切った。

「はっ…確かに、面白いどころじゃねぇなぁ?こいつぁ俺でも手を焼くぞ。」

「酒天ともあろう鬼っ子が…そない弱気な発言似合わへんで?気張っていこうやないかい!」

夕日が沈み、月が顔を出している。感じる空気は夏の夜の風と、生温い霊力の流れが混じっている。

「鵺…ごめん。読ませておけばよかった。」

「心配ござらん。少しヒリヒリする程度でござるよ。それよりも…目の前の相手がやはり…。」

空に浮かぶのは夜兄と、半透明ではっきりとはしていないがあれはとと。砂々羅鬼の姿であるのはわかった。

「ま…大人しくしてくれてるとは思わなかったけどね。それに、さとりの子は厄介だからここで消えてもらえるならこの先が楽になるし、まぁよかったかな?」

何が良かっただって?そんなこと…。

「そんなことさせねぇ…俺なら構わねぇけど、俺の親友に手ぇ出すってんならこっちだって容赦しねぇ!」

「へぇ?どうするつもりだい?秋緋?」

鋭い眼光で俺を睨んでくる。見たことのない夜兄の表情だ。でも、ここはもう引けない。

「何もしようとしなかった今までの俺じゃねぇ…!!東雲!」

「わぁぉ!かっこいいじゃん秋くん!頼もしい!けど、そこから出てから言うたほうがかっこええと思うで。」

上げて落とすな!たまたま結界の中から動いてないだけじゃ!

なんにせよ、戦闘開始だ!
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