俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

文字の大きさ
77 / 93

転校生と危険な社会見学?②

しおりを挟む
パックに残った牛乳をズゴゴゴと飲み干し、結緋さんが来るのを待つ。まぁもちろん、静かに待っている、なんてことは無いわけだけど。

「だーっはははははははっははは!!た、たしかに!お前たしかにそうだな!はぁーっ!けっさくだぁぁっははは!!」

「大丈夫だよ、秋緋。僕は何も変わらないから、ね?」

防呪の修行の件は黙ったまま、襲われた後に温泉に連れて行ってもらった。ってことにして昨日の話をした。
だって、漫画やアニメじゃかわいらしい女の子がヒロインとしているだろ?俺がその対象になるっておかしいじゃん!って思って。そしたらどうだ、この反応。

親父は涙出るまで笑ってやがるし、壱弥はさっきまでの心配の表情そのまま、俺の肩を叩いてくる。

「そんなに笑わなくてもいいじゃん…」

そんなことないよ、って誰一人言わない。背中までさすってくる。

「はぁぁ…ふぅ、久々にこんなに笑ったわ、ありがとうなぁ」

こんなにうれしくないお礼ははじめてだよ。

「それはそれとして、今度の社会見学の話を聞きたくてきたんですけど、いいですか?」

えぇ?俺の話置いとくの?あれ?もしかして俺の心を読んで気を使ったの?そういうこと?優しさだとでもいうの?壱弥くん?

「ん?ああそのことか。一応、明日正式に生徒に連絡ってなってんだけど、まぁ隠し事でもねぇし言ってもいいか。」

なんかもったいぶってる。俺を見るんじゃない、ほっといてくれ。さっさと進めればいいよ。

「珠子とのクラスと一緒なのは俺の受け持ちの人数が少なく、それぞれ別れてしまうと費用がかさむからってのが理由だ。学校側のな。」

【特選】は親父と珠ちゃん先生のところだけじゃないからな。人数も多いところ少ないところでまちまちだ。それを考慮して、学校は方向性が近いクラス同士を合わせて目的地を考えたりする。施設に行く行程があるなら団体割とかの利用もしたいだろうし、出向く先の宿泊施設の関係もある。
方向性ってなると親父と珠ちゃん先生のところは…似てない気もするんだけどな…。

「場所は…聖ファンテーヌ教会だ。」

…は?

「思いっきり地元じゃないですか。でも、確かに…外国語の特選と名目上歴史ってなってる師匠の特選を絡ませるとするなら悪くないのかもしれないですね」

「そういうこった。長期旅行でもない、さほど遠くでもない…結構な大所帯になっても、地元なら宿泊施設の融通も利く。そして、ある程度歴史のある場所でもある。神父も外国人で珠子の生徒も直接言葉に触れられるいい機会になるだろ?」

にやりと笑う親父。さすがだろ?みたいにキラキラした目で俺を見るなと。まぁでも、これで沙織里が実家に帰った理由が分かった。

そう、沙織里の父親は聖ファンテーヌ教会の神父だ。

場所がすでに決まっているってことは許可は得ているってことだから、もちろん沙織里にも連絡がいっているのは当たり前だ。お父さんが沙織里を呼び出した理由まではわからないけど…大人数だし準備があるんだろうか。

「僕はもう少し珍しいところが良かったけど…わかりました。せっかくだし僕も合間をみて実家に顔を出そうかな。」

壱弥の言ってることも分かる。どうせならこういう時だからこそしか行けないようなところに行きたい。まぁ他の生徒にとっちゃ珍しい場所になるんだろうけど。実家に顔を…は別いいか。そもそもが破綻してる日々だし、親父ここにいるし。

「それに秋緋の防呪の指導もしやすいからな!覚悟しとけよ~?ふふふふ!」

あ、親父…それは…

「あれ?秋緋、それもうできてるよね?」

「へ?」

「あ…」

まさかのここでサプライズ発動。
こんな気まずい空気は喧嘩した時以来、一気に場が凍り付く。
じーーっと俺を見る親父。壱弥でも気づいたんだ。さっきは試験管のことで気を向けてなかったけど、今は…気づくだろう。

ぐっと唇を噛み、途端に悲しい顔になる。

「結緋に…教えてもらった…のか…?」

「あ、あぁ~…うん…夜兄も一緒に、だけど…」

「俺と…約束したのに…?」

いや、別に約束はしてなかったはずだがどこかでそう変換されてしまっていたようだ。それくらい楽しみにしていたんだ…と、思う。

「僕、まずいこと言っちゃったかな?」

「いや…これは俺も悪い…。ちょっと驚かそうって思ってたんだけどここまで親父がダメージ受けるとは思わなかったわ…」

どこを見つめているのか、親父は完全にフリーズして魂が抜けたように立ち尽くし、手に持っていたコーヒーの缶がするっと落ち、カランカランと音を立てて床に転がった。

ガラッ…

と、扉が開いた。なんというタイミング、

「な、なんじゃ?どうしたのじゃ?紅司郎が真っ白じゃぞ…?!」

「おや、本当ですね。これは面白いことに。」

結緋さんの、ご到着だ。

**********

「むむむ…そういうことか。それであんなことになっておるのじゃな?」

固まって動かなくなった親父を茨木に頼みベッドまで運び、寝かせ、壱弥から事情を聞いた結緋さん。申し訳なさそうに親父がいるベットに視線を送る。

「さぷらいずと言い出したのは私じゃから、秋緋は気にすることはないぞ。後でしっかり謝っておくからの。」

よしよしされた。俺がしょげた顔をしているのは親父に申し訳ないというより、結緋さんが自分のせいでって思って落ち込んでる方が心配なのだ。

親父に対して冷たいって?大丈夫、親父は強い…一応あとでフォローするつもりだし。

「しばらくすれば意識も戻ってくるでしょう、姫子様もそんなに気にすることはございませんよ?それより、情報が手に入ったのか?の、方が大事ではないかと。」

茨木は本当に男はどうでもいいらしい。扱いが俺と同じだ。

「えっと、じゃあ、僕からで申し訳ないですが、さっき師匠から聞いたことをお話しても?」

壱弥がゆっくりと話始める。

「あの物体から出た妖怪言語から読み取れたのは、絢倉千樹の力を利用している呪法と、その術師、絢峰瑠鬼あやみねるきという人物の簡単な情報だそうです。詳しい呪法は師匠に聞かないと…僕には読み取れなかったので。」

絢峰…苗字が違うのか。どんな奴かなんて、一族の人間同士とはいえ、勝手に人の命を利用する奴なんかろくな奴じゃないだろうな。

「絢峰…絢峰…あやみね…はて?どこかで…」

結緋さんは腕を組んで、うーんうーんと唸ってなにか思い出そうとしているみたい。

「結緋さん、この間の依頼覚えてるかい?一緒に行った時の。その時邪魔してきたアイツですよ。」

あ、親父起きてきた。思いのほか早かった。茨木運び損じゃないかな?舌打ちしてるし。

「壱弥ぃぃ~俺の仕事奪ってんじゃないぞ~…本当に泣くぞっ」

「もう少しメンタル鍛えてから言ってください師匠。意識飛ばさなければスムーズに進んでいたんですから。あと泣くのはご勝手に。」

壱弥もなかなか言うな、親父ほんとに泣きそうだぞ、かわいそうに。

「この間…あーーー!あいつか!あのもじゃもじゃか!!なんじゃなんじゃああ!そんなに近くいたのか!んんん~~なんだか悔しいのう!してやられたかんじじゃああ!」

悔しそうな顔でほっぺたを膨らませて地団太を踏む結緋さん。壱弥もその仕事についていったらしく、

「でも、おかしいですよね。こんな卑怯な手を使ってくるような人間が、わざわざあそこで自分の姿を晒すものでしょうか?」

「…バレようが何だろうが構わねぇ理由がある。その理由っつうのが―」

壱弥が読み取れなかったっていう呪法ってこと、か?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...