それが恋だっていうなら…××××

ハル*

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カレノコト 3

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~水無瀬side~

悠有が口元を緩めた顔で眠っている。

「まだ熱っぽいな。ちょっと汗、拭いておくかな」

近くに置いておいたタオルで、とんとん…とひたいを拭いてあげる。

いつものパターンだと、夜中にもう一回上がるんだよな。明日、仕事行く気だったみたいだけど、厳しいんじゃないのかな。

万が一の時には、もう一日休みにして、俺がフォローに回ろう。

病み上がりな状態の時は、悠有自身が思っているよりも頭が回ってない時があるから。

(まあ、本人にそれいうと悲しそうな犬っぽい顔になるから、言えないんだけどね)

本人の気持ちが上向きなのに、体が戻りきってなくてそこからメンタルが下がってまた調子を崩していく感じ。

病は気から…のマイナスの方だよな。これって。

回復期になったからと、体調を見つつ年数を他の人より少し長めで卒業したと聞いた大学。

ずいぶん体力もついたしと、就職をして、悠有曰く憧れだった他の人と同じ生活を目指してた…はずでさ。

その最中に、こんなことになった。義弟のせい、か。ほぼ。今の悠有につながる、アレもコレも。

悠有の中にその芽というか根っこみたいなものは、義弟とのこと以降で小さな違和感みたいに在ったらしいからな。

それがどの程度の勢いで芽吹くか、そのまま朽ちてなくなるか。

それは本人が自覚して頑張って乗り越えようとしていたって、あんな風に義弟が襲来してきて、義父の話を聞いて…ったら、頑張りとは別な場所で起きるべきことが悠有の中で起きてしまったって感じだろうか。

「あーぁ…口元動いてる。まーだ何か食べてるのかな」

可愛いなと思いながら、汗で貼りついた前髪を指先で避ける。

こうして気持ちよさげに寝る前に、悠有から口でやってあげようか? なんて話が唐突に振られて、思わずフリーズした俺。

この体調の人つかまえて、スッキリさせてよとかいうような鬼畜じゃないわ。俺。そこまで欲に忠実にならんっての。

「やだねぇー…俺ってどんなイメージなの? ねえ? 悠有」

満足気に口角を上げて微笑む彼。夢の中で、さぞかし美味いものを腹いっぱい食ってるんだろ。

「それかー……悠有がシたかった?」

可能性の話だ。

俺のを口で…といいつつ、真意は俺を抱きたかった? とか。

「…まさかね」

もしもそうだとしても、呆れるとかはないけど、ただ心配になるだけ。

「俺に心配かけるの、嫌がるくせに…。矛盾してるよ?」

本当に悠有がシたいってだけなら、言ってくれたら俺が動くことだってできる。

「問題は、悠有が我慢できずに動くパターンか。…そうなったら、結果的に悠有が限界来てダウンしかねないよな」

いつも俺のことを目いっぱい気持ちよくしようとしてくれるのが暴走しまくって、俺の意識がぶっ飛ぶことが日常化しつつある。

まだ完全に体力を戻せていないのにって思えるくらい、ガッツリ攻めてくるからなぁ。

「これで超・健康体になったら、どうなっちゃうんだろ」

いわゆる、抱き潰される? 今までよりももっと過度に? 今までよりも? え? いやいやいやいや…俺、死んじゃうんじゃない?

ものすごい健康体になった悠有を想像して、ちょっとした危機感を抱いた俺。

今のままでいいだなんて、悠有を前にしては言えないけど、十分満たしてくれているから俺は今のままでいい。

ただ、これから変化があった方がいいと悠有が望むのなら、熱が出なくなるとか悠有が危惧しているような悠有の心の中の問題が減ればいいってあたりだ。

「どのタイミングかわからないけど、もう一人の方…出たっぽいな」

料理をしながら、肉のトレイをすすいで捨てようとした時に視界に入ったもの。

ココアのスティックのゴミだ。

悠有は、抹茶オレを飲んだと言った。その時の表情は、すこし困った顔で。

分かりやすすぎな俺の彼氏は、嘘が下手だ。

ココアのゴミの上に、たしかに抹茶オレのパッケージのもあった。まるっと嘘じゃない。

夕方のあの時間を、どうにか過ごせたんだとホッとした。けど、その時の話は悠有からは出てこなかった。

何かがあったか、何もなかったか…の、どっちか。

そのまま受け取れば、言えるような話が何もなかったってことか、記憶にないか。

か、両方?

布団から出ている悠有の手は、かすかに冷えている。やっぱりまだ熱が出るかもしれないな。

着替えを準備しておけば、後が楽かな? なんて思いながら、出来た彼氏の俺は準備を始める。

悠有の家自体はまだあるから、悠有の物が全部ここにあるわけじゃない。だから、いわゆる彼シャツなんて感じで俺の服を貸すことも少なくない。

さすがに下着関係だけは共有はちょっとアレだし、悠有の分として新品をストックしてある。こうして熱を出す回数がじわっと増えてきたあたりから、俺のを買うついでに悠有の分も買っていたりして。

着替えと、水分と…。

食べられそうだったら、アイスを少し食べさせてやってもいいな。

――――職場の方は、ひとまずって感じで対応をしてくれることになった。

30分から1時間早く出て、その時間分ズラして早く上がる感じだ。それ以上の時間は無理だった。

まあ、その範囲内なら相談可能の範囲内って感じか。

職場としては、仕事さえしてくれていれば問題なし。それと、他の人に負担が大きくならなきゃいいとも。

それぞれでやっている仕事もあるから、何もかもをサポートするのは難しい。悠有自身が任されつつある仕事も、これからはもっと増える予定で。

場合によっては中での仕事をさせていても構わない時は、そうするのもオッケーをもらえた。

まあ、それぞれの社員で家庭の都合とかもあるから、そんなもん全部突っぱねちまえって店でもないからな。

店長自体が家族の都合でこっちに残ったようなもんだし、その辺をちょっとだけ突けば通せない話じゃない。

イジメたわけじゃないしね、店長を。

お涙ちょうだいじゃないけど、悠有自身は真面目に働こうとしてきているっていうのは事実だし、他の社員も見てきている。

上司や教育係としての目で見ていたって、努力は実るんじゃないの? って言いたくなるような仕事への向き合い方だしさ。

特にデカいミスをするでもないし、お客さんとの会話もずいぶん慣れてきて、元々笑うと可愛い顔だからおばちゃんとかに意外と人気あるし。

童顔のせいか、高校生とか大学生の子とかに参考書だのなんだのと話しかけられている姿もよく見た。

話しかけやすそうだなっていうのは、接客やってると結構な武器なんじゃないかと俺は思ってる。

自分で対応できない時には、就職してすぐは無理しがちだったけど、最近はすぐにお客さんの相談に合った担当者に回せるようになった。

わずかな期間で、ここまで成長を見せてきた社員が困ってるんだから、是非とも相談に乗ってもらわなきゃな? 店長には。

「…さてと、シャワーでも浴びてくるか」

今度は自分の着替えを持って、そっと寝室から離れた。

少し熱めのシャワーにして、早めに浴びよう。

次に一緒の風呂に入れるのはいつかな? なんて思いながら、体を洗っていく。

悠有にとって初めての男。一緒の時間が一番長いのも、俺。まだ同棲って形にはなっていないから、これで同棲が決定したら、またひとつ悠有の初めてが俺になる。いつだったか、そんな話が悠有の口から出てきて嬉しくなった。

俺自身はこんな短期間で距離をここまで詰めたこと、今の今まで一回もなかった。向こうから詰めてこようとしたことはあったけど、笑顔で逆に距離を置いたっけな。そういう時。

俺から距離を詰めたくなったのは…。

「悠有、だけ」

少し熱めにしたからか、のぼせてきたのか? こんなこと呟くなんて。

「……はっ。らしくなくなってきたな、俺も」

来るもの拒まず、去る者追わず。そのスタンスだったのに、面倒ごとは敬遠したい方だったのに。

悠有が時々口にするように、いろんな意味で面倒なことが多そうな悠有の現状を知れば、昔の俺なら笑顔で距離を置いたはず。

現状と見比べれば、今の暮らしが俺の中で異質か。

らしくないと思っても仕方がないくらい、俺も変わってきた。

尽くしたい。見守りたい。支えたい。望むことは、叶えられるなら叶えてやりたい。そのために必要な知識や人脈だって、手間がかかったって別にいいって思える。

「…ほんと、恋って人を変えるねぇ」

まるで他人事みたいに呟き、シャワーを止める。

バスルームの中は湯気だらけだ。ドアを開けると、一気に脱衣所の方へと湯気が逃げていく。

「…え」

バスルームから出て、すぐそばのバスタオルを取ろうとドアを開けてすぐに腕を伸ばした俺。

濡れた足をバスマットに一歩踏み出した瞬間、そのまま視線が下の方へと向く。

バスマットのすこし先、床にへたり込んだような格好でペタンと座った悠有の姿がそこにある。

「悠有? ど…どうした、の?」

俺が戸惑うのも当然だ。

俺が見下ろしている悠有の表情が、涙を浮かべながら怒っているんだから。

熱のせいか、怒っているからか。顔がとにかく赤い。そして、いつこぼれてもおかしくないくらい、目尻に涙が溜まっている。

ここんとこ、こういう顔をよく見ている気がするけど…気のせいか?

「ちょっとだけ待ってよ。今、体を拭いちゃうから」

バスタオルを指さして腕を伸ばそうとした俺の腕を、悠有が膝立ちになって止めにくる。

「え? ちょっと待ってって。すぐに終わるからさ? ね? 悠有ってば」

体を拭きたいし、顔にもつけるものをつけたい。濡れたままだと、悠有の服を濡らしちゃうかもしれないんだしね。

まるで子どもに言い聞かせるように、上半身を折るようにして「ね?」と念押しをすると「ダメ」と拒まれる。

「悠有の服、濡れちゃうからダメだよ」

ここまで来たら、言い聞かせた方が早そうだ。何がどうとかも、ちゃんと言葉にして。

ダメとハッキリ言葉にしてから、腕をつかんでいる悠有の手をそっと離そうとした。

「…ダメったら、ダメ」

首を左右に振る仕草をしてまでも。

なのに、悠有がしてきたことといえば、バスタオルを俺の手から奪って床に放ったってことで。

「…は? どうしたの? 悠有」

怒っていいのか判断に困る。

イタズラって感じじゃないから、なおのこと。

「俺、風邪ひいちゃうって」

とか言っても「んーん」とまるで駄々をこねる子どもだ。

様子のおかしさに、裸のままでしゃがむ。

「言いたいことがあるなら、ちゃんと言葉にしてよ。…どうかしたの? 夢見でも悪かった?」

俺がシャワーを浴びる前は、熱っぽい顔をしたままで眠っていた悠有。なんだか何かを食っていそうな寝顔で。

心配するような言葉を呟けば、悠有の目尻に溜まりに溜まっていた涙がこぼれていく。

「どうしたの? なんで泣いてるの? 何も言ってくれないのは、困るよ? ちゃんと伝えてって言ったよ? 前に」

そういいながら、悠有の目尻の涙を親指で拭う。

「どうしたの? ギュってする? 俺、濡れてるけど」

とか言ってみれば、言葉よりも先に俺の方へと体を寄せてきた。

肩に頭をのせて、スリスリと猫みたいな仕草をする悠有。なんだろ、ものすごい庇護欲が湧いてくる…。

「って、そうじゃなくてさ。せめて髪くらい拭かないと、悠有が濡れちゃうって。ねえ」

肩に乗っかったままの悠有の頭に話しかける。

…と、悠有が肩に頭を乗せた格好で頭の向きだけ変えて、チュ…ッと首筋にキスをしたのがわかった。

「ちょ…っ」

たったキスひとつ。

それだけで、心臓だけじゃなく全身がそれに反応する。

首筋へのキスだけで。たったそれだけで。

(…ヤバっ。じわっとアッチが反応しかかってる)

ガキじゃないんだから、これっぽっちで反応してる場合じゃないだろう? 俺!

なんだかものすごく恥ずかしくなってきて、口を引き結ぶ。

何か言葉を口にしたら、さらに悪化しそうな嫌な予感しかなくて。

そんな俺の動揺を煽るようなことが起きる。

裸でしゃがんでいただけの俺は、当たり前だがどこも隠していない。

悠有が俺の肩からそっと頭を避けたことで、一瞬ホッとした俺。

…が、その次の瞬間、悠有がうつむく俺よりも身を屈めて、下から見上げるような位置に顔を持ってくる。

その目は、熱のせいか違うのか、少し潤んでいて目つきは甘えているように俺の目に映る。

まるで…誘われていると錯覚しそうな。

ゴク…と唾を飲み、その目から目を離さなきゃと左へと視線だけをズラす。

今はそれどころじゃないだろう? と、シャワーを浴びる前にも思っていただろ? 俺。…と、言い聞かせながら。

さっき、悠有に口でしようかと誘われた時、俺はこう返した。

「元気になったら、いっぱいシよう」

って。

(今はまだ、悠有は元気でも何でもないだろ?)

流されるな! 後でお互いに後悔することになるぞ? と言い聞かせる。

…のに、目の前の小悪魔な男は、俺が視線を外したことを許さないようだ。

「こっち見てよ、瑞」

言葉とうるうるしたした目で、俺を責めているみたい。

返事に困っている俺の胸に、悠有がピタッと身を寄せてきた。

「だ…だから、濡れるってば。悠有! どうしたの?」

伝えたいことをごまかしているようにも見えてきた。

悠有が本当にしたいことは、なんだ?

(ひとまず悠有がしたいようにさせてみるしかないのか? この状態だと)

様子を見るために、身を寄せてきた悠有をそのままにしてみたものの、どこまで様子見していいのか悩む事態へと突入することになる。

「ちょ…っ」

胸元に顔を寄せた悠有の手が、俺のそこへと伸びて。

指先で触れるか触れないかの微妙な感じで、半勃ちの俺自身をなぞりはじめる。

「…勃ってきたね」

なんて言いながら、すこし笑っているようなその声が…どこか明るくて。

「ね…いいよね? もっと触っても」

と、続けて、まるでひとり言のようにボソッと呟いたかと思えば、その身を屈めていき。

「……んっ」

悠有は、水滴が残ったまま熱を集め出したモノを、まだ熱が残っている口の中におさめていった。





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