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2話 王女様の侍女候補になりたい
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「何が目的だ」
図書室の個室でマチルダと本を読んでいると、サラ様から威圧的に言われた。
サラ・アルデバイン(18)
隣国イエルゴートのアルデバイン公爵家のご令嬢だ。
イエルゴート王国の人々は黒髪・黒目が多いので、サラ様もマチルダと同じ様に美しい黒髪だ。
ただ、瞳の色は金色で、女性なのにとても鋭く感じる。
王女殿下の侍女兼護衛と考えれば、当然なのだろうが、言葉遣いが少し男性っぽく感じる。アルデバイン公爵家は騎士の家系だからかな……。
「エスメローラ・マルマーダ。伯爵家の長女。両親は健在。姉弟は弟のみ。マルマーダ伯爵は王宮に勤める文官。勤務態度は至って真面目。現国王を支持しているものの、権力・金に執着はなく。現状維持に甘んじる凡人」
お父様を凡人と言われて、少しムカッとしたが、楯突いても良いことはないので、グッとこらえる。
「婚約者がいると言っていたが、その存在は公にしていない。ただ、殿下に話していた内容で推測するに、ブラント・エヴァンス公子の可能性がある」
ブラントの名前が出て、思わず固まってしまった。
「……図星か。君はもう少し腹芸を覚えた方が良いな。素直なところは美徳だが、見ていて心配になる」
うっ……。
「殿下に近づいたのはエヴァンス公子からの指示か?」
「違います!」
「……そのようだな。だが、何か下心がある。……それは何だ?」
ジロリと睨まれると、何だか悪いことをしているように思える。
「サラ。止めなさい」
「殿下の御身を守るためです。怪しい者をお側に置くのは賛成致しかねます」
「エスメローラはわたくしのお友達です。変に尋問しないの」
マチルダと話すようになって二週間が過ぎた。まぁ、会うのはこの図書室がほとんどだ。
他国の王族と親しくすると、伯爵家ごときの令嬢では身を守れないと、マチルダが配慮してくれた結果だ。
マチルダはとても気さくな人だった。
はじめは警戒されることがあったが、恋愛小説の話になると饒舌になり、連載ものの小説をお互いに今後の展開を想像して話すのは、とても楽しかった。
昼休みや放課後の限られた時間の交流は、とても楽しくて『お友達作戦』など忘れてしまうほど、意気投合している。
「それに、サラ。あなた、わかった上でエスメローラを尋問してるわね。わたくし、そういうのは好きじゃないわ。エスメローラはわたくしに危害を加える輩ではありませんでしょ。話したくなったら、エスメローラから言ってくれるのだから、せっかちは嫌われますわよ」
「グッ……」
涼しい顔でサラ様を嗜めている。
さすがマチルダね。
でも、そろそろ良いのかも知れない。
私の願いを口にしても……。
「マチルダ……王女殿下。私の話を聞いてくださいますか?」
マチルダが本から視線を外し、私に向き合った。視線で『話しなさい』と言われているようだ。
「私を……イエルゴート王国にお連れいただけないでしょうか?あなた様の侍女候補として」
沈黙。
「ブラント・エヴァンス公子から逃げるために?」
「……はじめはそのつもりでした。ですが、マチルダ王女殿下と時間を過ごし、あなた様を知り、もっとあなた様と共に居たい、もっと話したい、もっと色々な場所に、あなた様と行きたいと……思いました。人として、お仕えする主として、お慕い申しております」
私は席を立ち、深々とカテーシーを行った。
「……決まりね」
「殿下の御随意に」
「顔をあげてエスメローラ」
「はい」
「貴女の申入を受け入れます」
「っ!ありがとうございます!」
「ですが!」
「?」
「このままの貴女では、魑魅魍魎が蠢く王宮でわたくしに仕えるには荷が重すぎるでしょう」
マチルダ王女殿下の言葉はもっともだ。
オルトハット王国の礼儀作法は幼少期から体で覚え込まされているが、イエルゴート王国の礼儀作法や習慣など、独自の事は知らない。
「サラ。あなたから教えてあげて」
「畏まりました。その代わり、影の護衛を増やしますが、よろしいですね」
「仕方ないわね。将来優秀な侍女を手に入れるためなら、我慢致しましょう」
マチルダはフワリと笑った。
こんな笑顔を殿方が見たら、一瞬で虜になってしまうだろうと思った。現に私は虜になりました。
「エスメローラ。私の指導は厳しいので覚悟していてください。卒業するまで半年くらいしかありませんから、無駄な時間はないと思ってください」
「はい!よろしくお願い致します!」
「あっ!それから、もう1つ。その野暮ったい格好も改善して、誰もが振り向く淑女に改造しちゃいましょう!フフッ。腕がなるわね」
「野暮ったい……ですか?」
「えぇ!エスメローラの髪はとても綺麗なのに、こんなギチギチに結わいては勿体ないわ。お化粧も最低限で地味よ。綺麗なグレーの瞳ももっと強調していいわよ!……あら?よく見たら青いのね。うん、空色で美しいわ!そう思うでしょ、サラ」
「そうですね。宝石の原石のように磨き甲斐があります。ただ、今も厳格な雰囲気があるので、悪くはないと思いますがね」
「……ヘタレめ」
「何ですか?殿下?」
マチルダとサラ様が笑顔で睨み合っている……。
でも、私もサラ様のように、マチルダと睨み合えるくらい頑張らなくちゃ!
「エスメローラは天然系よね」
「……心配です」
決意を新たにしていると、何故か二人に残念な子を見るような顔をされた。
なんで?
図書室の個室でマチルダと本を読んでいると、サラ様から威圧的に言われた。
サラ・アルデバイン(18)
隣国イエルゴートのアルデバイン公爵家のご令嬢だ。
イエルゴート王国の人々は黒髪・黒目が多いので、サラ様もマチルダと同じ様に美しい黒髪だ。
ただ、瞳の色は金色で、女性なのにとても鋭く感じる。
王女殿下の侍女兼護衛と考えれば、当然なのだろうが、言葉遣いが少し男性っぽく感じる。アルデバイン公爵家は騎士の家系だからかな……。
「エスメローラ・マルマーダ。伯爵家の長女。両親は健在。姉弟は弟のみ。マルマーダ伯爵は王宮に勤める文官。勤務態度は至って真面目。現国王を支持しているものの、権力・金に執着はなく。現状維持に甘んじる凡人」
お父様を凡人と言われて、少しムカッとしたが、楯突いても良いことはないので、グッとこらえる。
「婚約者がいると言っていたが、その存在は公にしていない。ただ、殿下に話していた内容で推測するに、ブラント・エヴァンス公子の可能性がある」
ブラントの名前が出て、思わず固まってしまった。
「……図星か。君はもう少し腹芸を覚えた方が良いな。素直なところは美徳だが、見ていて心配になる」
うっ……。
「殿下に近づいたのはエヴァンス公子からの指示か?」
「違います!」
「……そのようだな。だが、何か下心がある。……それは何だ?」
ジロリと睨まれると、何だか悪いことをしているように思える。
「サラ。止めなさい」
「殿下の御身を守るためです。怪しい者をお側に置くのは賛成致しかねます」
「エスメローラはわたくしのお友達です。変に尋問しないの」
マチルダと話すようになって二週間が過ぎた。まぁ、会うのはこの図書室がほとんどだ。
他国の王族と親しくすると、伯爵家ごときの令嬢では身を守れないと、マチルダが配慮してくれた結果だ。
マチルダはとても気さくな人だった。
はじめは警戒されることがあったが、恋愛小説の話になると饒舌になり、連載ものの小説をお互いに今後の展開を想像して話すのは、とても楽しかった。
昼休みや放課後の限られた時間の交流は、とても楽しくて『お友達作戦』など忘れてしまうほど、意気投合している。
「それに、サラ。あなた、わかった上でエスメローラを尋問してるわね。わたくし、そういうのは好きじゃないわ。エスメローラはわたくしに危害を加える輩ではありませんでしょ。話したくなったら、エスメローラから言ってくれるのだから、せっかちは嫌われますわよ」
「グッ……」
涼しい顔でサラ様を嗜めている。
さすがマチルダね。
でも、そろそろ良いのかも知れない。
私の願いを口にしても……。
「マチルダ……王女殿下。私の話を聞いてくださいますか?」
マチルダが本から視線を外し、私に向き合った。視線で『話しなさい』と言われているようだ。
「私を……イエルゴート王国にお連れいただけないでしょうか?あなた様の侍女候補として」
沈黙。
「ブラント・エヴァンス公子から逃げるために?」
「……はじめはそのつもりでした。ですが、マチルダ王女殿下と時間を過ごし、あなた様を知り、もっとあなた様と共に居たい、もっと話したい、もっと色々な場所に、あなた様と行きたいと……思いました。人として、お仕えする主として、お慕い申しております」
私は席を立ち、深々とカテーシーを行った。
「……決まりね」
「殿下の御随意に」
「顔をあげてエスメローラ」
「はい」
「貴女の申入を受け入れます」
「っ!ありがとうございます!」
「ですが!」
「?」
「このままの貴女では、魑魅魍魎が蠢く王宮でわたくしに仕えるには荷が重すぎるでしょう」
マチルダ王女殿下の言葉はもっともだ。
オルトハット王国の礼儀作法は幼少期から体で覚え込まされているが、イエルゴート王国の礼儀作法や習慣など、独自の事は知らない。
「サラ。あなたから教えてあげて」
「畏まりました。その代わり、影の護衛を増やしますが、よろしいですね」
「仕方ないわね。将来優秀な侍女を手に入れるためなら、我慢致しましょう」
マチルダはフワリと笑った。
こんな笑顔を殿方が見たら、一瞬で虜になってしまうだろうと思った。現に私は虜になりました。
「エスメローラ。私の指導は厳しいので覚悟していてください。卒業するまで半年くらいしかありませんから、無駄な時間はないと思ってください」
「はい!よろしくお願い致します!」
「あっ!それから、もう1つ。その野暮ったい格好も改善して、誰もが振り向く淑女に改造しちゃいましょう!フフッ。腕がなるわね」
「野暮ったい……ですか?」
「えぇ!エスメローラの髪はとても綺麗なのに、こんなギチギチに結わいては勿体ないわ。お化粧も最低限で地味よ。綺麗なグレーの瞳ももっと強調していいわよ!……あら?よく見たら青いのね。うん、空色で美しいわ!そう思うでしょ、サラ」
「そうですね。宝石の原石のように磨き甲斐があります。ただ、今も厳格な雰囲気があるので、悪くはないと思いますがね」
「……ヘタレめ」
「何ですか?殿下?」
マチルダとサラ様が笑顔で睨み合っている……。
でも、私もサラ様のように、マチルダと睨み合えるくらい頑張らなくちゃ!
「エスメローラは天然系よね」
「……心配です」
決意を新たにしていると、何故か二人に残念な子を見るような顔をされた。
なんで?
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