愚かな旦那様~間違えて復讐した人は、初恋の人でした~

ともどーも

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2話 初夜の後

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 ハイルディー商会はジェントリ(男爵より下の階級で貴族ではない地主領主だ)だったが、他国との交易で富を得て、今では王国1位の大商会だ。その財力は王族よりも有しているのではないかと噂がある。
 ハイルディー商会が持っていないのは爵位だけだと言われていた。

 リューベック様と私の婚姻は『婿養子』としてローベンシュタイン子爵家に彼が入る形をとった。
 双子の姉ミリアリアを高位貴族に嫁入りさせるのが条件で、爵位を譲る約束だ。

 先日、ドゥルーマン侯爵家との縁談をまとめ、ミリアリアは侯爵家嫡男サーシス様と婚約したのだ。

 半年後に結婚式を行う取り決めになったので、父は爵位をリューベック様に譲り、多額のお金を持って、郊外の家に隠居することになった。
 母は反対していたようだが、父の命令には逆らえず、渋々了承したようだ。
 
 私達の結婚前に決まったとあって、父は大喜びでだった。
 披露宴は爵位の譲渡もあり、大盛り上がりで、屋敷は大変な事になっていただろう。

 新婚の二人には五月蝿すぎるから、商会で一番素敵なホテルのスイートルームを用意してくれた。

 あの時、私を屋敷から連れ出すことで彼の復讐の舞台が整ったのだろう。
 助けを求めようとしても、居るのは彼の手配した人間だけ。誰も何もしゃべらず黙々と仕事をしていた。
 手を貸してくれる人はいなかった。

 その後しばらくは、このスイートルームに監禁された。
 監禁と言っても、彼が来るわけではない。文字道理、私が外に出れないように外から鍵をかけられ、決まった時間に食事が届けられた。

 食事も、貴族のものではなく、平民が食べる一般的なものだった。
 
 なぜこうなったのか。
 思考を巡らせても、情報が少ないので、全くわからなかった。
 彼の言葉を思い出すのは胸が痛んだが、解決策が見つからのでしょうがない。

①彼の弟『ハロルド』を殺したと思われている。
②根拠として
・若く金髪で紫の瞳の女
・金に困っている貴族
・女一人で出歩ける下位の貴族
・『ラウトゥーリオの丘』を知ってる
・私が書いたメモが弟の部屋にあった
③今後は
・貴族になったから事件を再調査する
・国の罰が下るまで、彼が私を罰する

「う~ん」
 どうしたら私じゃないと証明できるかしら…。

 貴族で金髪も紫の瞳も珍しくはない。
 容姿に関しては無駄か…。

 金に困っている。
 まぁ、そうね。困ってる。
 節約するば普通に生活出来るが、母とミリアリアのせいで無理だし。
 父は現実を見ないで、方々に借金しまくってる。

 一人で出歩く女。
 使用人の数も少ないし、護衛を雇う金もないから、自と一人で行動する事になるのよね。

 ラウトゥーリオの丘を知ってる。
 まぁ、作者だし…。
 院の子供とシスターは知ってる。
 屋敷の侍女長に相談したことはあった。
 でも侍女長は年配の人で容姿も全然違う。

 私のメモが弟の部屋にあった。
 それが謎よね。
 そんなものがなんで?
 う~ん、誰かが私に罪をきせようとしてる?
 でも何のため?
 我が家はお金はないし、私も交遊関係は少ない。婚約者もリューベック様が初めて…。
 私を罠にかけても意味がないような…。

 あぁ、わからない!


×××


 そんな事を考えていたら、二週間程経っち、屋敷に連行された。

 すでに両親は居らず、姉のミリアリアも居なかった。
 使用人もほとんどが入れ替わり、私の事を知っていたのは執事長と侍女長だけだった。

 おそらくこの二週間で、父から爵位譲渡の契約書類やら金銭の受け渡しが行われたのだろう。そして両親は速やかに引っ越して行ったのだろう。
 ミリアリアは、たぶん侯爵家に花嫁修業の為に送られた可能性が高い。

 もともと家族は味方ではなかったので、何も感じなかったが、使用人のほとんどがいなくなっていたのは寂しかった。

 私は下働きメイドの一番悪い部屋に通された。
「旦那様のご命令です」
 二人は申し訳なさそうに伝えて来た。

 あぁ、彼の復讐が始まったようだ。
 手始めに貴族令嬢には耐え難い、酷い部屋に私を押し込むのか…。

「気に入ったか」
 男の蔑んだ声が後ろから聞こえた。
 彼の名前を呼ぼうとしたが、初夜の事が頭をよぎり、言葉を飲み込んだ。

 誤解を解きたい。
 誤解を解いて、優しかった彼を取り戻したい。
 あの幸せを取り戻したい。
 
 でも、私の口はあの恐怖を思い出して、言葉を発することができなかった。

「お前はこれから下働きメイドとして一生を過ごしてもらう。二度とドレスを着れると思うな。今着ている汚いドレスは回収次第、焼却炉にくべろ」
「だっ、旦那様、あの」
 執事長が勇気を出して声を出した。

「執事長、紹介状無しで屋敷から追い出されたいか?」
 彼の冷たい声が響く。

「この女に便宜を図った者は厳罰に処す。執事長、侍女長、お前達も例外ではない」

 二人は黙って下を向いた。

「助けを求めても無駄だ。お前に肩入れした者はこの屋敷にも、ハイルディー商会の息のかかた場所にも居られなくしてやる」

 それは、事実上の国外追放を意味した。
 ハイルディー商会に睨まれたら、この国では就職先が失くなってしまう。

 執事長も、侍女長も私の大切な人だ。

 ローベンシュタイン子爵家が困窮しているときから、苦楽を共にし、支え合ってきた人たちだ。
 彼らの未来を奪うわけにはいけない。

「…わかりました」
「ふん、物分りがいいな。俺の事は旦那様と呼べ。決して名前で呼ぶな」
「はい…」

 拍子抜けしたように、彼は苦々しそうに部屋を出ていった。

 おそらくだが、私が彼にすがり付いて『部屋を変えてくれ』とか『ごめんなさい』など無様な姿がみたかったのだろう。

 ローベンシュタイン子爵家が困窮しているとき、私は下働きメイドのような仕事をしていたし、狭い部屋も苦ではない。

 おしゃれにも興味はない。

 ただ、院の子供達に会えないのかと思うと、それは悲しかった。
 私の拙い物語を楽しみにしてくれていた。彼らのキラキラした笑顔が大好きだった。
 私は部屋に唯一ある、小さな光取りの窓から外を見た。

 愛する旦那様から憎まれていた私。
 心はズタズタに引き裂かれ、血の涙を流している。
 しかし、外は春の陽だまりのように暖かな世界が広がっていた。

 貴方を愛しています。
 必ずこの誤解を解きます。
 私と彼がに見た、輝くような彼の笑顔を思い出して、私は瞳をそっと閉じた。
 頬に一筋の滴が通りすぎた。
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