愚かな旦那様~間違えて復讐した人は、初恋の人でした~

ともどーも

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15話 襲撃2

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~ リューベック視点 ~

「エリーゼ…?」
 床に手をつき、弱々しくエリーゼがこちらを見ている。
 驚きで一瞬力が緩んだ。
 ミリアリアはこの瞬間を逃さず、力を込めた為、俺の左肩にナイフが突き刺さった。

「ぐっ!」
 ミリアリアの口が不気味に半月を描いた。
「きゃーーーー!!」
 エリーゼの悲鳴が木霊する。
「キャハハハハ!これよ、これ!これが見たかったのよ」
 
 狂ったように笑うミリアリア。
 俺は痛みに耐えながら、ミリアリアの腕を掴みつつ、体の回転を利用して、相手を反対側の壁に打ち付けた。
「ぎゃ!」
 背中を打ち付けて、床に倒れ込むミリアリア。

 ミリアリアが離れた瞬間、ナイフも抜け落ちて、さらに激痛を感じた。
 しかし、そんな事に構ってはいられない。
 落ちたナイフを拾い、手早く足の縄も切って、エリーゼのもとにむかい、跪いた。
「逃げるぞ!」
「あっ、あっ、旦那様。肩が、そんな」
 錯乱状態のエリーゼ。
 無理もない。
 目を覚ましたら、突然人が刺される現場を目撃したのだから、混乱してもおかしくない。
 くそ、左腕が上がらないからエリーゼを抱えられない。
 どうする。
「エリーゼ、ここは危険だ。逃げるぞ、さぁ、立つんだ!」
 座り込むエリーゼを立たせようとするが、彼女はガタガタ震えて立てない。
 そうこうしている間に、煙が部屋に入ってきた。
 火の手が近づいてきている。
 早く脱出しなければ!

「ヒッ!」
 急にエリーゼが引きつった。
 次の瞬間、背中に激痛が走る。
「逃がさないわよ」
 ミリアリアだ。
 火かき棒を手にしている。
 くそ、まだ邪魔するのか!

 再度火かき棒が振り上げられた。
 背中の痛みで動きが取れない。
 俺はエリーゼを抱き込み、攻撃から守った。
 火かき棒の引っかけ部分が何度も背中に突き刺さり、肉を抉るが、エリーゼだけは守ってみせる。
「それ!それ!」
 狂った笑いのミリアリア。
「やめて!やめて!」
 俺の腕の中でもがき、涙するエリーゼ。

 ガシャーン!
 窓ガラスが割れる音がした。
「旦那様!」
 警備隊長の声だ。
 窓ガラスを突き破って入ってきたようだ。
「邪魔しないで!」
 ミリアリアは火かき棒で応戦するが、あっけなく警備隊に拘束された。
「離しなさい!汚い手で私に触るんじゃないわよ!」
 わめき散らすミリアリアを横目に、エリーゼを確認する。
「怪我は…ないか?」
「私より旦那様が、旦那様が!」
 あぁ、エリーゼが泣いている。
 こんなオレのために泣いている。
「旦那様、火の手が近づいてます!お早く!」
 護衛隊長とエリーゼの肩を借りて、俺たちはテラスから脱出したのだった。

 屋敷は赤く燃え上がり、あと少し遅ければ脱出は難しかったかもしれない。

 ゴウゴウと燃える屋敷を、俺はエリーゼと共に呆然とみていた。
 そして、次第に意識が遠退いて行く。
 立っていられず、その場に倒れ込んでしまった。情けない。

「旦那様!」
 エリーゼの悲痛な声を聞いた。
 頭の片隅で『名前で呼ぶことを禁じていたんだった』と『リューベック様』と呼ばれない事に、今さらだが悲しさが胸をよぎった。
 自業自得だと思う反面、彼女の瞳に映れたことに喜ぶ自分が滑稽だった。

「エリーゼ、本当にすまなかった。全ては俺の誤解だった」
 声がかすれてしまう。
 届いているだろうか…。
「今、医師を呼んでいますから、しゃべらないで下さい」
 紫の瞳から絶え間なく涙がこぼれ落ちてしまう。
 その涙をぬぐってあげたいのに、腕が上がらない。なんで、肝心な時にいうことを聞いてくれないのだろう。
 泣かないでくれエリーゼ。

「孤児院にいたのは、リゼさんは君だった…。俺は愚かだ…。初恋の人を…虐げて…しまった」
 呼吸がしづらい…。
 目が霞む。
「もう、しゃべらないで…」
「償い…たい。俺の全てを君に捧げる…」
 あと少し、あと少しだけ…。
「愛してる…」
 俺の意識はそこで途切れた。
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