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12話 真心をあなたに(前編)
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今日は満月。
メリダ様を寝かしつけて、自室で彼の訪れを待っていた。
突然襲われる事は無いと思うが、寝巻きに着替えず、持っている服の中で一番ガードの硬い服を選んだ。
部屋に彼から贈られたバラを飾ったせいで、甘い匂いが部屋を包んでいる。
一歩間違えれば、古来より伝わる初夜の演出の様に思えて困る。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「はい」
「ノーランドだ。開けていいか?」
準備していたはずなのに、心臓が早鐘を打つようにドクドクとうるさく感じる。
「今、開けます」
声が裏返らなくてよかった。
緊張で心臓が喉から出てしまいそうだ。
ゆっくりとドアを開くと、彼の大きな体が見えた。
その手にはお母様の日記と封書が握られていた。
彼は真実にたどり着いてしまった。
日記は何度も処分しようとしたが、お母様の文字を見るたびに捨てることが出来ず、誰にも見つからないようにクローゼットの奥にしまっていた。
やはり燃やしておくべきだったと後悔が残る。
彼の顔が見れない。
怖い…。
私の存在は間違いで、裏切りの証だ。彼の家族の絆に亀裂を生む、忌まわしい存在だ。
彼に軽蔑される…。
いいえ、それでいいのよ。
扉を開けて固まっている私に、彼の大きな体が優しく抱き締めてくれた。
暖かくて、少し筋肉質で硬いけど安心する腕の中。干し草の匂いはしなかったが、彼が昔から愛用していた柑橘系の香水の匂いが仄かに感じられた。
だめ、泣いてはダメ。
この腕はもう私のモノではないの。
泣かないように、下唇を噛んで、声が漏れないようにした。
「辛かったね」
何てひどい人なの。
彼の優しい声色で、私の涙腺は崩壊してしまった様に次から次へと涙が溢れてきた。
「よく頑張ったね」
ダメだとわかっていても、すがりついてしまう。
彼の上着の裾を掴み、みっともなく声を出して泣いてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
「いいんだ。君は悪くない。何も悪くない」
優しい声が、今まで溜まっていた後悔や、懺悔を溢れさせた。
「いいえ。悪いのは私で、罪は、私にあるの!」
「大丈夫だよ」
「わっ、私の存在、間違いでっ、貴方を傷つけるっ、忌むべきっ」
嗚咽が邪魔して、うまく喋れない。
「君に出会えて嬉しい。君が存在してくれることを神に感謝している」
あぁ、やめて。
優しくしないで。
私は裏切りの証なの。
「ゆっくりでいいから、話をしよう。一人で苦しまなくていいんだ」
話なんて…。
『幸せになって、シャティー。貴女の幸せが私の幸せに繋がるの。彼が訪ねてきたら、まず話し合って。貴女には彼が必要よ』
メリダ様の言葉が脳裏をよぎる。
声を出す事が出来ず、軽く頷いた。
彼の腕が少し強く締まった。
「ありがとう。落ち着いたら教えて。ゆっくりでいいから、呼吸を整えるんだ」
どこまでも優しい彼の声で、また涙が溢れてしまい、なかなか彼の腕の中から出ることは出来なかった。
彼はいつまでも優しく背中を擦ってくれていた。
×××
あまりに泣き止まないので、彼はタオルを濡らして、私に渡してくれた。
恥ずかしいかな、目が腫れてしまった…。
私達はソファーに並んで座った。
「まず安心してほしいんだが、この日記の内容は伯爵に話していないし、これから先も口外しないと誓うよ。あと、君さえ良ければ侯爵家の禁書庫に保管しておく。そこなら決して伯爵の目に触れることはないはずだ」
さらに、彼は私が死んだ時に棺に入れるか、焼却処分するとも提案してくれた。
忌むべき日記だが、お母様の残した物と言うことで、私が持て余しているとわかったようだ。
私は彼の好意に甘え、日記の保管と、私が死んだ時に棺に入れてくれると約束してくれた。
「シャティーと兄妹だと知って、正直絶望したよ。そして、君が憎らしかった。何故教えてくれなかった…。俺はそんなに頼りなかったかい?」
彼の悲しげな顔に胸が痛む。
「ごめんなさい…」
「…すまない。謝って欲しい訳じゃないんだ。ただ、相談されなかった事が悲しかった。そして、君を一人で悩ませた俺が不甲斐なかった。すまない」
「ノーランド様は何も悪くありません!すべて…すべて私が悪いんです」
私の握り込んだ手を、彼は優しい手つきで包んでくれた。
彼の目はとても優しかった。
「これからは何でも相談してほしい。一人で悩まないでくれ。いいね」
「はい…」
「良い子だ」
優しい笑顔にまた泣きそうになった。
「俺なりに色々調べたよ。日記や父上の証言、お母上が調べた調査内容で見れば、俺達が兄妹である可能性は十分ある。しかし、一つ抜けてる事がある」
「抜けてる?」
「精子が少ないのは伯爵だけなのか?俺の父上はどうなのかわからないだろ?父上達もなかなか子宝に恵まれなかったんだ。結婚して5年経ってやっと俺が産まれたくらいだ」
彼は一枚の報告書を手渡して来た。
そこには『精子調査報告書』と記載があり、調査された方と名前が記載されていた。
『ダリス・マッケンジー侯爵』
「こっ、これは?」
「父上の調査報告書だ」
「侯爵様の?!」
驚きだ。
私が見ても良いのだろうか…。
「ここを見てくれ」
ノーランド様が指差した文章に『子種の生成が少ない』と記載があった。
お父様だけでなく、侯爵様もなの?
侯爵様もお父様と同じで、精子の数が少ないのなら、何度も性行為をしたお父様の方が確率が上がるわ!
「それに、伯爵夫人が調査依頼したのは14年も前だ。あの当時は研究もまだ初期段階だった為に一週間かけて送られた物を調査していたそうだ。現在の研究で採取後一時間以内でないと、正確な事は言えないそうだ。14年も前だと検査も不確かな部分が多かったと言われたよ」
「そっ、それじゃ…もしかしたら…」
思わず涙が溢れてしまう。
「あぁ、君は伯爵の娘かもしれない。俺達は兄妹ではない可能性が高いよ」
なんて喜ばしい事なのかしら!
彼と兄妹で無いのなら、何の障害もなく、彼とこの先の未来を歩いていける。
いえ、待って。
それは可能性の話で、現実はどうなのかわからない。
「シャティー…。今の技術で俺達が兄妹じゃないと明確に証明することは出来なかった。その代わり」
彼はもう一枚紙を渡してきた。
肌触りが滑らかで、上等な紙であることがわかる。
教会紋章?!
「兄妹でも結婚出来るか神様に聞いてきたよ」
メリダ様を寝かしつけて、自室で彼の訪れを待っていた。
突然襲われる事は無いと思うが、寝巻きに着替えず、持っている服の中で一番ガードの硬い服を選んだ。
部屋に彼から贈られたバラを飾ったせいで、甘い匂いが部屋を包んでいる。
一歩間違えれば、古来より伝わる初夜の演出の様に思えて困る。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「はい」
「ノーランドだ。開けていいか?」
準備していたはずなのに、心臓が早鐘を打つようにドクドクとうるさく感じる。
「今、開けます」
声が裏返らなくてよかった。
緊張で心臓が喉から出てしまいそうだ。
ゆっくりとドアを開くと、彼の大きな体が見えた。
その手にはお母様の日記と封書が握られていた。
彼は真実にたどり着いてしまった。
日記は何度も処分しようとしたが、お母様の文字を見るたびに捨てることが出来ず、誰にも見つからないようにクローゼットの奥にしまっていた。
やはり燃やしておくべきだったと後悔が残る。
彼の顔が見れない。
怖い…。
私の存在は間違いで、裏切りの証だ。彼の家族の絆に亀裂を生む、忌まわしい存在だ。
彼に軽蔑される…。
いいえ、それでいいのよ。
扉を開けて固まっている私に、彼の大きな体が優しく抱き締めてくれた。
暖かくて、少し筋肉質で硬いけど安心する腕の中。干し草の匂いはしなかったが、彼が昔から愛用していた柑橘系の香水の匂いが仄かに感じられた。
だめ、泣いてはダメ。
この腕はもう私のモノではないの。
泣かないように、下唇を噛んで、声が漏れないようにした。
「辛かったね」
何てひどい人なの。
彼の優しい声色で、私の涙腺は崩壊してしまった様に次から次へと涙が溢れてきた。
「よく頑張ったね」
ダメだとわかっていても、すがりついてしまう。
彼の上着の裾を掴み、みっともなく声を出して泣いてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
「いいんだ。君は悪くない。何も悪くない」
優しい声が、今まで溜まっていた後悔や、懺悔を溢れさせた。
「いいえ。悪いのは私で、罪は、私にあるの!」
「大丈夫だよ」
「わっ、私の存在、間違いでっ、貴方を傷つけるっ、忌むべきっ」
嗚咽が邪魔して、うまく喋れない。
「君に出会えて嬉しい。君が存在してくれることを神に感謝している」
あぁ、やめて。
優しくしないで。
私は裏切りの証なの。
「ゆっくりでいいから、話をしよう。一人で苦しまなくていいんだ」
話なんて…。
『幸せになって、シャティー。貴女の幸せが私の幸せに繋がるの。彼が訪ねてきたら、まず話し合って。貴女には彼が必要よ』
メリダ様の言葉が脳裏をよぎる。
声を出す事が出来ず、軽く頷いた。
彼の腕が少し強く締まった。
「ありがとう。落ち着いたら教えて。ゆっくりでいいから、呼吸を整えるんだ」
どこまでも優しい彼の声で、また涙が溢れてしまい、なかなか彼の腕の中から出ることは出来なかった。
彼はいつまでも優しく背中を擦ってくれていた。
×××
あまりに泣き止まないので、彼はタオルを濡らして、私に渡してくれた。
恥ずかしいかな、目が腫れてしまった…。
私達はソファーに並んで座った。
「まず安心してほしいんだが、この日記の内容は伯爵に話していないし、これから先も口外しないと誓うよ。あと、君さえ良ければ侯爵家の禁書庫に保管しておく。そこなら決して伯爵の目に触れることはないはずだ」
さらに、彼は私が死んだ時に棺に入れるか、焼却処分するとも提案してくれた。
忌むべき日記だが、お母様の残した物と言うことで、私が持て余しているとわかったようだ。
私は彼の好意に甘え、日記の保管と、私が死んだ時に棺に入れてくれると約束してくれた。
「シャティーと兄妹だと知って、正直絶望したよ。そして、君が憎らしかった。何故教えてくれなかった…。俺はそんなに頼りなかったかい?」
彼の悲しげな顔に胸が痛む。
「ごめんなさい…」
「…すまない。謝って欲しい訳じゃないんだ。ただ、相談されなかった事が悲しかった。そして、君を一人で悩ませた俺が不甲斐なかった。すまない」
「ノーランド様は何も悪くありません!すべて…すべて私が悪いんです」
私の握り込んだ手を、彼は優しい手つきで包んでくれた。
彼の目はとても優しかった。
「これからは何でも相談してほしい。一人で悩まないでくれ。いいね」
「はい…」
「良い子だ」
優しい笑顔にまた泣きそうになった。
「俺なりに色々調べたよ。日記や父上の証言、お母上が調べた調査内容で見れば、俺達が兄妹である可能性は十分ある。しかし、一つ抜けてる事がある」
「抜けてる?」
「精子が少ないのは伯爵だけなのか?俺の父上はどうなのかわからないだろ?父上達もなかなか子宝に恵まれなかったんだ。結婚して5年経ってやっと俺が産まれたくらいだ」
彼は一枚の報告書を手渡して来た。
そこには『精子調査報告書』と記載があり、調査された方と名前が記載されていた。
『ダリス・マッケンジー侯爵』
「こっ、これは?」
「父上の調査報告書だ」
「侯爵様の?!」
驚きだ。
私が見ても良いのだろうか…。
「ここを見てくれ」
ノーランド様が指差した文章に『子種の生成が少ない』と記載があった。
お父様だけでなく、侯爵様もなの?
侯爵様もお父様と同じで、精子の数が少ないのなら、何度も性行為をしたお父様の方が確率が上がるわ!
「それに、伯爵夫人が調査依頼したのは14年も前だ。あの当時は研究もまだ初期段階だった為に一週間かけて送られた物を調査していたそうだ。現在の研究で採取後一時間以内でないと、正確な事は言えないそうだ。14年も前だと検査も不確かな部分が多かったと言われたよ」
「そっ、それじゃ…もしかしたら…」
思わず涙が溢れてしまう。
「あぁ、君は伯爵の娘かもしれない。俺達は兄妹ではない可能性が高いよ」
なんて喜ばしい事なのかしら!
彼と兄妹で無いのなら、何の障害もなく、彼とこの先の未来を歩いていける。
いえ、待って。
それは可能性の話で、現実はどうなのかわからない。
「シャティー…。今の技術で俺達が兄妹じゃないと明確に証明することは出来なかった。その代わり」
彼はもう一枚紙を渡してきた。
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