「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

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二十五話 審議会 反論1

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「こちらの主張は一点、ローゼンタール伯爵夫人は不貞をしていません。そちらが用意した証拠はすべて偽造されたものです」
 ソフィアの凛とした声が部屋に響く。
 とても堂々とした雰囲気に、安心する。
 彼女が王城の控え室に現れたのは三十分前だ。
 私ははじめての審議会が不安で、ソワソワしていたのに、彼女の落ち着いた様子に心が穏やかになった。
『私を信じて』
 ソフィアの言葉が私を支えている。
 
「言うに事欠いて、偽造だと。バカバカしい。それなら、偽造であると証明してみてはどうだ?そちらが用意した夫人の日記を出すんだろうが、裏付け証拠もないものは信憑性に欠ける。まさか、そんなこともわからないのかな?」
 ベクター弁護士は顔を上げて、ソフィアをバカにするように見下して言った。なんて醜悪な顔なの。弁護士ってみんなこんな感じなのかしら。

「お望みなら、このあと貴方が持っている証拠の偽造をすべて、証明して差し上げますわ。そうなったとき、貴方がどうなるか……お分かりになるかしら」
 高貴な女性のような、威厳を感じさせるソフィア。美しくてかっこいい!
 見惚れそうな自分を律して、無表情を心がける。

「こちらの要望は四つです。一つ、ローゼンタール伯爵に離婚届にサインすることを求めます。二つ、ローゼンタール伯爵に子供の親権を放棄する書類にサインを求めます。三つ、子供が成人するまで養育費を請求します。四つ、ローゼンタール伯爵夫人の名誉と心を傷つけた代償として、慰謝料を請求します」

 エドワードと目があった。
 お互い無表情で見つめあう。
 彼に会ったら、心がグチャグチャになって無表情を維持できないかと怖かったが、意外に落ち着いている自分がいた。

「そちらから離婚を求めてくるとは思いませんでした。ローゼンタール様いかがなさいますか?お互いに離婚を希望しているのなら、まず離婚を成立させてしまうのは?」
 ベクター弁護士が薄ら笑いをしながらエドワードに話しかけるが、エドワードは「それはすべての話し合いが終わってからだ」と取り合わなかった。

「まず、録画映像を転写したこちらは、不鮮明であり、証拠品として信憑性に欠けます。このように伯爵夫人の顔も、一緒の男の顔も判別できません。また、宝石店の店員とホテルのオーナーの証言書には、致命的なミスがあります」
「致命的なミス?」
 ベクター弁護士が訝しげに聞き返した。
「ローゼンタール伯爵夫人の顔と名前は、貴族名鑑に記載があるので、優秀な商売人なら貴族の名前を覚えていたとしても不思議はありません。ですが、オーウェン・シャンドリーは子爵家の出身ではありますが、婚外子なので名鑑に載っていません。にも関わらず、彼らは『オーウェン・シャンドリー』だったと証言しています。彼は数多いる伯爵家の一介の騎士に過ぎないのに、いち販売員、ホテルのオーナーが彼のフルネームを証言できるはずがない。これは二人が不貞したと見せかけるための虚偽の証言です。その証拠に、ローゼンタール伯爵夫人が屋敷から追い出された日、二人は大金を入手し、各々借金を全額返済しています。これが返済証明書です」
 ソフィアが私とエドワードの間にあるテーブルに返済証明書を置いた。確かに私が追い出された日だわ。

「さらに補足説明ですが、この二人はすでに亡くなっています」
「「っ!!」」
 亡くなってる?!
 エドワードも驚いたのか、目を見開いた。
「ローゼンタール伯爵夫人が異議申立の申請を出した日から、二人の行方はわかっていませんでしたが、王都を出た森の中で焼死体として発見されました。これは誰かに口を封じられたと考えられるでしょう」

「憶測で話されては困る!」
 ベクター弁護士が声を荒げて言った。
「二人は借金があったのだろう?他にも借金をしていて、支払えなかったから金貸しに命を奪われた可能性もある。それに、オーウェン・シャンドリーの名前も証言書を取るときに、姿絵を使って『このオーウェン・シャンドリーで間違いないか』と聞いた可能性もある。ローゼンタール様、いかがですか?」
「確かに、同行していた執事のモーリスが姿絵を見せながら男の名前を口にしていた」
 エドワードが直接、証言書を取りに行ったのね。そんなに私の浮気の証拠が欲しかったのね。
 回りくどいことをせず、『離婚してくれ』って言ってくれればよかったのに……。
 思わず膝の上の手を握り込んだ。
 その手を、ソフィアが優しく包んでくれた。
 彼女に微笑まれ、私も微笑み返した。
 この場で気持ちを落としては、相手につけ入れられる。背筋を伸ばして、まっすぐ前を向いた。
 
「まったく、これだから平民上がりは困る。証拠もないのに場を乱さないでいただきたい」
「お言葉ですが、ベクター弁護士の話も何ら証拠はありません。執事がオーウェン・シャンドリーの名前を言ったという明確な証拠を提示できるのですか?」
「ローゼンタール様が聞いている!」
「聞いたと証明する証拠は?」
 ベクター弁護士とソフィアは少し睨みあった。
 言った言わないの話では、到底どちらの話も立証できない。
 また、二人が焼死体で見つかったことと、今回の浮気問題で証言をしたから殺されたと結びつける証拠はない。だが、無関係と言い張る証拠もない。

「お二人とも落ち着いて下さい。その件に関しては、お互いに主張を立証する証拠をお持ちでないと判断します。フィート弁護士、他の証拠品について話して下さい」
 裁判員のバーバリー様が間に入った。

「……わかりました。続いて、証拠品の提示による、七月十三日の伯爵夫人の行動について説明します。伯爵夫人は妊娠後、一度だけお茶会に参加しています。日記にあるように、つわりは出産まで続き、外出は難しかったそうです。伯爵夫人は十四時から主催されたお茶会に参加し、十七時のお開きになるまで滞在していたと証言しています。決して宝石店やホテルには行っていません」
「嘘をつくのは止めて下さい。私の調べでは、夫人はお茶会に少し顔を出すと帰ったと、主催者のご令嬢、参加したご令嬢が口々に話して下さいました。ただ、友人を貶めることはしたくないから証言書は書きたくないと、皆さん、証言書の提出を引き受けては下さいませんでしたよ」
「残念なことに、私にも同じように皆様おっしゃいました。しかし、私の調査では、ローゼンタール伯爵夫人が屋敷から追い出された日、七月十三日のお茶会について伺ったときには、『幸せな結婚生活だと話していた』『安定期の5ヶ月を過ぎたが、つわりが終わらなくて困っていると言っていた』『最近お腹の中で動く赤ちゃんを感じる。よかったら触ってみて』と、ご友人たちにお腹を触らせたと言っていました。そして、ローゼンタール伯爵夫人は最後までお茶会に参加していたと言っていました。しかし、後日証言書をもらいにいくと、ベクター弁護士のおっしゃる理由で皆様口を閉じたのです。これは何者かが圧力をかけてきたと考えるのが自然でしょう」
「憶測で話をするなと言っているだろう!貴女の耳は飾りか?お茶会に参加した令嬢たちに圧力をかけた?誰が?その証拠は?」
「残念ながら、ご令嬢方が面会に応じてくださらないので、証拠はありません」
「話にならないな」
 立ち上がり、強い口調でソフィアを威圧していたベクター弁護士は、証拠がないと聞くと、椅子に座り直し、勝ち誇ったような声を出した。
 嫌な顔だ。

「では、ベクター弁護士。七月十三日、ローゼンタール伯爵夫人はどのように行動していたとお考えなのですか?貴族の夫人にとってお茶会は戦場。身だしなみを整えるのに時間をかけるのは普通。大抵は出発直前まで準備すると聞きます。夫人はいつ屋敷を出発し、宝石店やホテルを回ったのでしょう?貴方の考えをお聞かせください」
 ソフィアは不敵に笑った。
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