「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

文字の大きさ
37 / 45

三十六話 マリアンヌの自供 後編

しおりを挟む
 イザベラ叔母様の話では、事件は結婚後、しばらくしてからだったそうだ。
 イザベラ叔母様のクラスメートが、生まれたての赤子を連れて公爵家に乗り込んで来たのだった。余談だが、その彼女は妊娠が発覚しないように自主退学していたらしい。

 女性の話では、お父様と付き合っていて、子供まで産んだというものだったらしい。その女性の話を信じるなら、結婚前から二股をして、お母様を裏切っていたことになる。
 もちろん、お父様は否認したらしい。
 すると相手の女性は、親子鑑定を求めた。
 当時から親子鑑定の精度は高く、国をあげての事業ということもあり、その結果に間違いはないと言われていた。

 いくら言葉で違うと言っても、親子鑑定されてしまえば言い逃れはできない。そして、他の女と子供を作ったとなれば、お母様は離婚すると強固な姿勢だったらしい。
 はじめは親子鑑定はしないと、女性の要求を突っぱねていたが、研究所の検査員の買収に成功したことで、意見を変えて親子鑑定を受け入れたそうだ。
 そして、お父様の親子鑑定用の血液と、ある男爵家の男性の血を入れ替えたのだ。
 乗り込んできたクラスメートの赤子は、その男爵家の男性の子供だと親子鑑定書が作成され、お父様は見事危機を乗り越えたと聞いた。

 何故イザベラ叔母様が知ってるかというと、検査員の買収を手伝ったことを教えてくれた。そして、私のお母様に『そのクラスメートは別の男性と付き合っていた』と嘘の情報を与えたとも。

 だから、お父様に相談すれば、また親子鑑定書を偽造してくれる。なんならイザベラ叔母様の名前を出せば、絶対に断らないと断言された。

 それを聞いて、私はイザベラ叔母様たちの『赤子の髪色を変えて、リリーシア・ブロリーンが浮気していたとでっち上げる』作戦を採用することにした。
 結果は見事思惑通りに運んだ。
 リリーシア・ブロリーンがみすぼらしい格好で、貴族街から歩いて去る姿に歓喜したわ。

 本当なら、三ヶ月後に婚姻無効申請が受理され、リリーシア・ブロリーンを暗殺する予定だったが、異議申立審議会申請をされるのは予想外だった。忌々しい女ね。
 だけど、計画に支障はないわ。
 リリーシア・ブロリーンを暗殺するのは決定事項だった。それが、審議会前に失踪したようにし、死体を消せばなんの問題もない。
 むしろ、結果的に『浮気をしたことを認めたくなくて、失踪した酷い女』となって、エドワードの心をさらに傷つけてくれる。
 フフフ。私が付け入る隙ができたわ。

 そういえば、イモージェンがエドワードの子供を妊娠したみたいだけど、問題はない。
 使い勝手の良い駒だったが、この件が片付いたら、お腹の子は別の男の子供だったと、手紙を書かせて、リリーシア・ブロリーンのように失踪したと見せかけて殺せばいい。

 すべて計画通りよ。
 ──そう、思っていた。

「屋敷を包囲しろ!誰一人逃がすな!」
 男の大きな声が屋敷中に響いた。
 女の悲鳴や、騒々しい足音が遠くで聞こえた。

 なっ、何?!

 パタパタと誰かが走ってくる足音がした。
 音からして女だと思うが、ずいぶん慌てた様子だ。
「お嬢様!!」
「どうしたの?」
「おっ、王宮騎士団が、大勢……」
「王宮騎士団?!」
「国王様、の命っ、令と……」
 息を切らしながら伝えてくる。

 どっ、どういうこと?
 何故王宮騎士団が?

「失礼。マリアンヌ・ベルジュ嬢でいらっしゃいますね」
 白い騎士服を着た男性が現れた。
「私はカイン・フィートと申します。国王陛下の命により、ベルジュ公爵家の方々全員を、お連れするよう申し付かっております」
「どっ、どういうことかしら?」
「親子鑑定書を不正作成した『公的文書不正作成共謀罪』『王室侮辱罪』。リリーシア・ローゼンタール伯爵夫人を殺害するよう指示した『教唆罪』。他にも王宮の宝物庫に保管されている複写紙を盗んだ『窃盗』など、罪状は多岐に渡ります。事態を重く受け止めた国王陛下が、直接裁きを申し伝えるとご命令されました。ご同行お願いします」
 丁寧な物言いだが、冷たく、こちらを威圧しているように感じる。

 どういうこと?
 リリーシア・ブロリーンの殺害に失敗し、親子鑑定書に細工したことがバレたの?
 おっ、落ち着くのよ。
 リリーシア・ブロリーンの殺害を計画、実行したのはイザベラ叔母様で、私は監視用の人員をお父様にお願いしただけ。
 親子鑑定の工作は、すべてイモージェンにさせているし、検査した血は検査員のものだし、検査員の買収や、宮内国政機関の職員の買収、浮気を偽造するときに使った人間の口封じも、すべてお父様とその部下が行っているわ。
 宝物庫の複写紙だって、盗み出したのはお父様の部下だし、私は関係ない。
 私自身では、何も罪に問われる行動はしていない。恐れることは、何もない!

「貴方が何を言っていらっしゃるのかわかりませんわ。何かの誤解ではありませんか?国王陛下に呼ばれたのなら、断る意思はありません。私に、やましいことはありませんから」
 毅然とした態度で立ち上がると、男性は不敵に笑った。
「イモージェン・ウエストが自供しました。部屋から、貴女が書いた手紙が見つかっています」
「なっ!?」
 
 何それ!?
 あのバカ女!
 手紙は燃やしたと嘘をついていたわね!
 あぁ~!どうしてくれるのよ!
 いいえ、どんな手紙を残したのかわからないわ。親子鑑定書の工作の指示をしたものではないかもしれない。
 バカ女が数枚燃やし損ねただけかも。

「その手紙には、親子鑑定書不正作成に関する記述もあり、貴女が加担したのは明らかです」
「……まったく身に覚えがありませんわ。もしかしたら、何かの陰謀かもしれませんわね」
 ここで動揺を見せてはならない。
 きっと突破口があるはずよ。
 冷静に、うまく立ち回るの。
 なんなら、お父様を生け贄にしても生き残らなくては。

「そうですか。詳しくは国王陛下の御前で説明があるでしょう。そうそう、国王陛下、王妃陛下は大変ご立腹でして、どのような手段を使っても真相を明らかにし、王家を侮辱した輩を罰せよとご命令です」
 無感情な顔と声なのに、背筋が凍るように感じた。騎士の格好をした死神……。そう……思った。

「ご同行願います」
 私の脳裏に、処刑台がちらついた。
しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

お姉様、今度は貴方の恋人をもらいますわ。何でも奪っていく妹はそう言っていますが、その方は私の恋人ではありませんよ?

柚木ゆず
恋愛
「すでに気付いているんですのよ。わたくしやお父様やお母様に隠れて、交際を行っていることに」 「ダーファルズ伯爵家のエドモン様は、雄々しく素敵な御方。お顔も財力も最上級な方で、興味を持ちましたの。好きに、なってしまいましたの」  私のものを何でも欲しがる、妹のニネット。今度は物ではなく人を欲しがり始め、エドモン様をもらうと言い出しました。  確かに私は、家族に隠れて交際を行っているのですが――。その方は、私にしつこく言い寄ってきていた人。恋人はエドモン様ではなく、エズラル侯爵家のフレデリク様なのです。  どうやらニネットは大きな勘違いをしているらしく、自身を溺愛するお父様とお母様の力を借りて、そんなエドモン様にアプローチをしてゆくみたいです。

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?

柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。 わたしには、妹なんていないのに。  

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

隣にある古い空き家に引っ越してきた人達は、10年前に縁を切った家族でした

柚木ゆず
恋愛
 10年前――まだわたしが男爵令嬢リーリスだった頃のこと。お父様、お母様、妹は自分達が散財した穴埋めのため、当時住み込みで働いていた旧友の忘れ形見・オルズくんを悪趣味な貴族に高値で売ろうとしていました。  偶然それを知ったわたしはオルズくんを連れてお屋敷を去り、ジュリエットとガスパールと名を変え新たな人生を歩み始めたのでした。  そんなわたし達はその後ガスパールくんの努力のおかげで充実した日々を過ごしており、今日は新生活が10年目を迎えたお祝いをしていたのですが――その最中にお隣に引っ越してこられた人達が挨拶に来てくださり、そこで信じられない再会を果たすこととなるのでした。 「まだ気付かないのか!? 我々はお前の父であり母であり妹だ!!」  初対面だと思っていた方々は、かつてわたしの家族だった人達だったのです。  しかもそんな3人は、わたし達が気付けない程に老けてやつれてしまっていて――

処理中です...