【完結】フィクション

犀川稔

文字の大きさ
55 / 93

37話 感傷の沼

しおりを挟む
ここ数日は学校終わりにそのまま赤城の家で勉強することが多かった。夕方くらいまで一緒に勉強してそのあと赤城が僕を送ってくれて家に帰ると言うのが定番になっていった。テスト勉強を口実に赤城と二人きりになれるし勉強をする赤城を真正面から見放題なのは眼福すぎる...。
とても幸せな時間で、この時間ばかりは時計が狂ってしまったのではないかと思うくらいに早く感じた。
学校に向かう途中で寄ったコンビニで赤城が前に好きで最近廃盤になったのか全然見かけなくなったと言っていたお菓子を見つけて衝動買いした。それをもって二限の自習時間、教室を抜けて佐々木くんたちといるという中庭に赤城を探しに向かった。ちょうど佐々木くんと赤城以外席を外していて「チャンス!」と思い声をかけようとした時、佐々木くんの言った一言が前のめりになる僕の体を一気に石のように固めた。
「...千隼が付き合うならお前がいいって言ってたわ。」
耳を疑った。ぐるぐる回ってどうにかなりそうな頭を整理させるため、僕はUターンして教室に向かって歩いた。
...千隼くんって、この前学校まで来てた佐々木くんの弟さんだよね......。そんでもって前、街で赤城の隣にいた人...。
考えれば考えるほど泥沼に浸っていくようなそんな気分になる。聞きたい...赤城の口から。大丈夫だって、心配ないよって。...でももし赤城もほんの少しでもち...千隼くんに好意があったとしたら...?あんなにキラキラでふわふわしてて可愛い子、絶対僕じゃ敵わないよ......。
泣きたくなる気持ちにグッと堪えて恋は教室で話す仲川と相馬に近づいて話しかけた。
「...た、ただいま。」
「おー、おかえり。赤城に渡してきたかー?」
「あー...またあとにする。ちょっとお取り込み中だった。」
潤んだ恋の目元を見て仲川は何も聞かずに「そうか。」と流した。怠そうに机に伏せる相馬が思い出したように顔を上げた。
「あ、赤城といえば昨日さー、偶然彼見かけたんだ~。」
「...赤城を?」
「そうそう~。」
その話に恋はハッと顔を上げて反応した。聞きたそうな恋に気づいて相馬はあくびをしながら昨日の話をした。
「昨日友達の家でゲームしてさ~。夜ご飯食べ終わって帰ってる時に駅ナカで見かけた。向こう電話中だったから話かけなかったけどなんか千隼くんって子と電話してたみたい~、千隼はどうしたいの?って言ってるの聞こえたから。」
「あ...。」
恋が言葉を失くて黙っていると仲川は察したように恋を見て「つかお前テスト期間にゲームしに行くなよ。」と代わりに応えた。ヘラヘラ笑う相馬と明らかに堕ちてる恋にそれに気を遣うと言う圧倒的に地獄絵図なこの状況に仲川はどうしたらいいものか困り果てた。

息が詰まりトイレに席を外した仲川は廊下で佐々木を捕まえて屋上に連れ込んだ。
屋上に着き、仲川の気迫に押された佐々木は両手を上げた。
「はい白状します、むしゃくしゃして教室にあった長めのチョーク全部折ったの俺っす。」
「...それは罪重いわ、先生にチクっとくね。」
「は?待って、それじゃねぇの?ごめん嘘、見逃して。」
笑って話す佐々木を見て仲川はため息を吐いてベンチに座った。
「......またあいつらなんかすれ違ってる気がしますわ。」
「あいつらってあのあいつらー?なになんかまた揉めてんの?」
仲川の話をニヤニヤしながら聞く仲佐々木に「あなたはお気楽でいいですね。」と皮肉混じりにいった。
「俺はあんま悩んだり考え込むの好きじゃないのよー。性に合わないって言うの?そういうの怠いって感じちゃうのよ...あーでも、他人の悩み受けるのはまた別よ?そっちは大好物。所詮他人事ひとごとだし適当言ってもいいかーって思えるしね。」
好き勝手言ってるように見えて的を得てフォローしてくる佐々木に呆れたように笑みを浮かべて仲川は話した。
「俺の勘が間違ってなければ多分芦野、佐々木の弟くんに嫉妬してると思うわ。」
「は?あいつに?何故?」
仲川は自分が思ってる事とこの前の千隼が学校に来た時に起こった事を話した。
「あー、そう言う感じねー。なるほど...。あーやっば、これむっず!どうしたらいいんだろ...なるほどねぇ。あー......。ちょいこの話持ち帰っていい?あと赤城に話すわ。で、新山にもちょい聞くわ。」
佐々木の態度を見て仲川は「あー。」となんとなく理解したように微笑んだ。
「なるほど...そう言うことか。いや俺もちょい引っかかることあって、今やっと繋がったわ。」
「あ、察しちゃった感じ?」
「まぁ、はい。じゃなかったらそんな他校まで迎えに来ないし赤城に頼み込んでまで相談しないでしょ。」
「やっばー。俺なんも言ってないからね?お前が勝手に知っちゃっただけねー!まじで俺締め殺されるから、ガチでそういうことで頼むわ。」
そう言いながらも全然焦ってない佐々木を見て仲川は「お前馬鹿だなー。」と言って笑った。
「あー、すごいスッキリしたわ。あとはあいつらも話し合って俺くらいスッキリしてほしいもんだわ。」
二人はその後も少し雑談をして満足するまで語り、三限の途中くらいに思い出したように教室に戻った。

「恋、帰ろ。」
赤城が恋に声をかけると恋は肩をびくつかせながら赤城の方を振り向いた。その反応に赤城は疑念を抱いた。
「あ、ごめん...今支度するから待ってて!」
焦って鞄に荷物を詰めると恋は赤城のそばに駆け寄った。
「月曜日からテストだから土日は詰めないとだな。」
「ほんとだね~。しかも今回点やばいと冬休み課題出るって言う噂ある。」
「あ、それマジのやつなんだ。」
帰りながらテストの話をしていると赤城の携帯が鳴り「ちょい待って。」と言って立ち止まり携帯を開いた。引き攣った顔をして画面を凝視する赤城に恋は首を傾げた。そして赤城は携帯をポケットにしまうと「なんでもない。」とまた歩き出した。
恋は俯いて小さな声で聞いた。
「...千隼くん?」
「ん?ごめん聞こえなかった、なに?」
「......んーん、なんでもない!それより今日お昼ファストフードがいい。ハンバーガー食べよ!」
恋は赤城の手を引くとそのまま笑いながら走ってお店に連れていった。

「持ち帰りでよかったの?」
嬉しそうにチーズバーガーを頬張る恋に赤城が言った。
「うん。お店だとガヤガヤしてるし家ならゆっくり話しながら食べれるじゃん。赤城と二人がいい。」
「...理由かわいすぎね。」
愛おしそうに見つめる赤城の視線を感じて恋は目を合わせた。そしてふわっと笑うとまたバーガーを口に運んだ。
食べ終えて勉強道具を出しているとまた赤城の携帯が鳴り恋は携帯の画面に目を移した。
パッと見ただけでうっすらしか見えなかったが画面には「佐々木」文字が浮かんでいた。痛いくらいに早く脈を打つ心臓に恋は息が詰まりそうになった。
...やめて。やだ、出ないで
恋は衝動的に携帯を手に取って画面に触れようとする赤城の手を掴んだ。
「あ......ごめ、ん...。なんでもない...。」
伸ばした手が震えてその振動が赤城にも伝わる。赤城は恋の手を握り「こっち来て。」と手を引いて、向かい合わせになるように恋は座らせた。赤城の足に跨るように乗った恋はどうしたらいいかわからず不安そうな顔で赤城を見た。
そんな恋をうっとり見つめた後優しく微笑みかけてから頭を撫で、自分の胸にもたれかけさせた。
恋はそのまま赤城の背中に手を回してぎゅっと抱きついた。いつの間にか鳴り止む携帯電話をチラッと見た後また不安そうに下を向く恋のことを赤城は何も言わずに見守っていた。

「佐々木くんの弟さんって赤城にとってどんな子?」
どのくらい時間が経ったか、気持ちが落ち着いてきた恋が赤城の腕の中で寛ぎながらぼそっと聞いた。
「千隼?んー、恋愛不器用ってイメージかな。頭いいしスポーツも兄に似てそこそこできるのに恋愛に関しては疎くてすげぇ下手くそよ、あいつ恋人いるんだけどそれがよーく揉めるんだわ。その度巻き込まれてなかなかに怠いけど、いい子なんだよ。」
「......僕とどっちがいい...子?」
言った後後悔したように「ごめん、今の言い方僕すごい性格悪いよね。」と恋が謝った。
そんな恋に赤城は笑って返し首元に軽いキスをした。
「あんまり相手褒めるために他人ひとを落として相手を上げる言い方俺は好きじゃないけどそもそも恋と千隼じゃ対象が違いすぎるよ。恋人とただの友達の弟って言うのじゃ比べようがないでしょ。なんか俺が心配させるような事しちゃってたならすごい申し訳ないけど、あんまマイナスに考えるのはやめよ?恋さん。」
......赤城の言うことが正論すぎて僕は何も言い返せなかった。こんな性格が悪いこと言いたくなかったのに口からぽろっと出てしまった言葉にただただ後悔した。赤城は優しいから僕に怒ったりしないし呆れても絶対口に出したりしない。だからこそ怖くなる。自分が気づいた時にはもう手遅れで赤城はもう僕のことなんてなんとも思ってないんじゃないかって。赤城のことを信じてないわけじゃ決してない、ただこのままずっと僕が変わらなければ自ずと赤城の方から別れを切り出される気がしてならなかった。きっとこう考えてしまうのも僕の心がどん底に堕ちているからだという事も把握してる。
...僕は少し、赤城と距離をとったほうがいいのかもしれない。「恋人だから」と言う概念に甘えすぎてしまった。ここまで近づいてからようやく気づいた。今からでもまだ間に合う。心地が良すぎるこの場所は僕だけのモノじゃない。...欲張り過ぎちゃダメだよな。

恋はスッと立ち上がって出していた勉強道具をカバンにしまった。
「......恋?」
「ごめん...僕帰る。明日からも家で勉強するよ。なんかごめんね...。ほんと......ごめん。」
そう言って急いで部屋から出ていった。
「恋!」
玄関で靴を履く恋の腕を掴んで赤城は呼び止めた。恋はその手を振り払った。
「送りも大丈夫。僕なら一人で帰れる...赤城が居なくても、もう...大丈夫だから。」
恋の言葉に赤城は目を大きく開いて伸ばしていた手を止めた。
そう言い残して玄関のドアを開けて出ていく恋の背中をただ見ていた。ドアが閉まると同時に赤城はその場に崩れ落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

誰かの望んだ世界

日燈
BL
 【完結】魔界の学園で二年目の学園生活を送るイオは、人知れず鶯色の本をめくる。そうすれば、必要な情報を得ることができた。  学園には、世界を構成するエネルギーが結晶化したといわれる四つの結晶石≪クォーツ≫を浄める、重要な家系の生徒が集っている。――遥か昔、世界を破滅に導いたとされる家系も。  彼らと過ごす学園生活は賑やかで、当たり前のようにあったのに、じわじわと雲行が怪しくなっていく。  過去との邂逅。胸に秘めた想い――。  二度目の今日はひっそりと始まり、やがて三度目の今日が訪れる。  五千年ほど前、世界が滅びそうになった、その時に。彼らの魂に刻まれた遺志。――たった一つの願い。  終末を迎えた、この時に。あなたの望みは叶うだろうか…? ――――  登場人物が多い、ストーリー重視の物語。学校行事から魔物狩り、わちゃわちゃした日常から終末まで。笑いあり涙あり。世界は終末に向かうけど、安定の主人公です。  2024/11/29完結。お読みいただき、ありがとうございました!執筆中に浮かんだ小話を番外編として収めました。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

恋の闇路の向こう側

七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。 家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。 ──────── クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

猫と王子と恋ちぐら

真霜ナオ
BL
高校一年生の橙(かぶち)は、とある理由から過呼吸になることを防ぐために、無音のヘッドホンを装着して過ごしていた。 ある時、電車内で音漏れ警察と呼ばれる中年男性に絡まれた橙は、過呼吸を起こしてしまう。 パニック状態の橙を助けてくれたのは、クラスで王子と呼ばれている千蔵(ちくら)だった。 『そうやっておまえが俺を甘やかしたりするから』 小さな秘密を持つ黒髪王子×過呼吸持ち金髪の高校生BLです。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

処理中です...