【完結】フィクション

犀川稔

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38話 幸せの代償

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 俺の全てだった人を失った。
 理由も原因もわからない。ただ相手にとって俺はもう必要がないのだということはわかった。
 それと同時に俺はもう、全てどうでもいいと思えてしまった。
 本当に好きで一生をかけて共に過ごしたいと思った人に切り捨てられた。
 無論、全般俺が悪いんだと思う。きっと俺のした言動が問題で君を追い詰めてしまったんだから、自業自得か。
 幸せだった時間が走馬灯のように駆け巡る。こんなにも簡単に壊れて行った関係にもはやもう笑うことしかできなかった。
「あー...終わっちゃったんだ、何もかも全部。」
 俺は自分の部屋に戻り、さっきまで君の居たその場所に座り込んだ。そしていつか君に言ったことがあったか...。俺が好きだった、最近は見かけることがなくなったお菓子がテーブルの下に置かれているのに気がついた。手に取ると、冷え切ったそのお菓子の袋を見つめた。
 君はこれをどんな気持ちで買ったのか...どんな気持ちで俺に渡そうと思ったのか。........そしてどんな気持ちで...これをここに残していったのか。
 溢れる涙で視界がボヤけて何も見えなくなっても構わず俺は声が枯れるくらいそのまま泣き続けた。

 休日が過ぎテストが始まっても月曜火曜と音信不通で学校に来ない俺を心配して友人たちから連絡が入った。
 あれから俺はただ死んだように誰とも連絡を取ることなくずっと家で過ごしていた。
 俺の学校はテスト最終日、体調不良で受けることができなかったテストを最後の日に来ればまとめて一気に受けることができた。だから2日休んでもなんとかなると思い俺は休むことを選んだ。
「流石に明日は行かないとな。」
 俺は携帯を手に取って一番連絡が来ていた佐々木にメッセージを送った。
「明日は行く。」
 そう返すとすぐに既読がつき、その瞬間電話がかかってきた。
「お前無事?どうしたんー体調悪いの?芦野くんもだけどおまえら...」
「...佐々木。悪いけど今その名前出さないでほしい、まじごめん......ちょい、きついわ。」
 最後の方で耐え切れず声が震える赤城に気付き佐々木は周りに何も言わずその場を離れ、誰もいない屋上に場所を移した。
「...どうした?何があった?」
「......もう全部終わった。俺振られたよ、芦野くんに。」
「は?なんで?」
「わからない。もう俺がいなくていいんだってさ、一人で大丈夫だって言われたよ。」
 そう言い切ると赤城は一方的に電話を切った。

 次の日登校してきた赤城はいつもと変わらない顔つきで何事もなかったように周りに馴染んで話をしてテストを受けた。みんなが帰る中、教室を移動し受けていないテストをまとめて受けた。その教室には恋の姿もあったが、一切そちらに目をやることなく赤城はテストを受けると一言も話さず教室を後にした。
「あ、赤城...。」
 恋の声に気づいて振り返ると真顔のままじっと顔を見た。
「何?」
「あの、この前のことなんだけど...。」
「...ごめん芦野、俺この後先生に呼ばれてるから急いでんだ。もう行っていい?」
 赤城は恋に背を向けてまたすぐに歩き出した。
 冷酷な視線と戻された呼び名に恋は絶句してそれ以上の言葉でなかった。
 少しずつ遠くなる足音に悲しくなり走って追いかけて縋りつくように赤城の背中に抱きついた。
 赤城は一瞬、驚いた顔をしたけど歯を食いしばった。
「...芦野離して。......ごめんけど俺、そんな強くないんだ。そういうされると期待しちゃうからさ...頼むから離して。」
 恋の腕を掴んで自身から離そうとする赤城の顔は酷く苦しそうな笑みを浮かべていた。しかしその声は優しくて先程までの冷たい雰囲気は無かった。
 激しく動揺する恋を残し、赤城は職員室に入って行った。

 恋は赤城の話が終わるまで待とうと職員室の近くで立って待っていた。そこに佐々木が姿を現して恋の肩を叩いた。
「芦野くんじゃん。あれ何してんのー?」
「あ、佐々木くん...。今赤城が職員室いるから終わるの待ってるの。」
「あーそうなん?なんだ...良かったー!二人ヨリ戻したんだ。俺結構心配してたんだわ。」
 佐々木の言葉に恋は驚いて「え。」とカバンを床に落とした。その様子を見て佐々木は何が起こってるのか分からず、ちょっと場所を変えて話をしようと肩を組んで恋に言った。恋が渋っていると職員室から赤城が出てきた。肩に回された佐々木の手とそれに何も抵抗をしない恋を同時に見てから俯いた。
 傍に近寄ってくると床に落ちた恋のカバンを拾い上げてそれを恋に手渡した。
「...はい、これ。」
「あ......ありが...と。」
「うん...じゃ、お邪魔しました。」
 二人の横をすれ違って帰ろうとする赤城の手を佐々木が掴んだ。
「...何?」
「何じゃないでしょ。マジでお前らちゃんと話し合え、本気ですれ違ってるぞ。このまま本当に別れるってことでいいのか?お前はそれでいいの?」
「あの、待って佐々木くん。僕たち別に別れたとかじゃ...」
「佐々木。」
 弁解しようとする恋の言葉を遮って赤城口を開いた。恋も佐々木も赤城に目をやると、これまでに見たことのないほどの辛そうな笑みを浮かべていた。
「もう終わったこと芦野に問いたださないで。......俺未練しかないから。迷惑かけるならお前にもそれ相応の対応取るよ。」
 そう伝えてから赤城は恋に目を映して小さく弱い声で「ごめんね。」と言って最後に自分の指を恋の指に絡めた。そして一度強く力を入れ握りしめるとそのまま数秒無言で抱きしめた。
「幸せにできなくてごめん。」
 耳元でそう呟くともう言い残したことがないように笑って見せて、歩いて帰って行った。

「できることならもっと一緒に居たかったな。」
 家に着くなり床にカバンを下ろしてベットに横になると、携帯の写真フォルダを遡った。そこには画面の中でこっちを向いて楽しそうに笑う恋がたくさんいた。それだけじゃない。綺麗な横顔、後ろ姿、少し頬を膨らして怒る可愛らしい無数の恋の写真が収められていた。
 本当に誰よりも輝いていてこの世の人とは思えないほどに君は美しい。
 赤城は目を閉じると脳裏に恋を思い浮かべてそのまま眠りについた。

 目を覚ますともう夕方になっていて昼ご飯を食べていなかったことに今になって気づいた。
 支払いと何か軽食を買いに行こうと着替えて家を出ると恋が座り込み門柱にもたれかかってスヤスヤ眠っていた。目元には涙を流した跡が残っていて心なしか少し目が腫れているように見えた。
 ...なるほど、これが今までたくさん君を傷つけた俺の代償って事か。
 よほど眠りが深いのか軽く肩を叩いても目を覚まさない恋にクスッと笑って
「...本当罪深い子。」
 と言い、赤城は恋を抱き抱えるとそのまま恋を家に上げ、自分の部屋に連れて行った。
 ベットで横に寝かせると靴を脱がせて薄い布団を掛けた。気持ちよさそうにスヤスヤ眠る恋を一人残して赤城はコンビニに足を運んだ。
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