【完結】フィクション

犀川稔

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38.5話 新しい誰かの

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赤城が先に帰った後、僕は赤城から聞いたと言う佐々木くんの話を聞かされた。その話ではもう僕たちは別れていて振ったのは僕だと言う。身に覚えがない話に僕は頭を悩ませた。しかし金曜日の最後に僕が赤城に言った一言を思い出してハッとした。
「あ......。」
「あらー、もしかして心当たりあっちゃった感じ?」
佐々木の言葉に小さく頷くと恋は携帯を出した。あの日自分のことで精一杯だったけど確かにそれを境に赤城からの連絡は来ていなかった。恋は落胆して焦ったように佐々木に言った。
「どうしよう。僕、もう赤城と別れちゃったの?...なんで、どうしたらいいんだろう。そういう意味では言ったわけじゃないのに。なんであんなこと......こうなるなら言わなきゃ良かった。」
一気に気持ちが押し寄せ、突きつけられた現実に心が押し潰された。
...あれ、息が。息が苦しい...今までどうやって息してたんだっけ。
床に崩れ落ちて呼吸が荒れて過呼吸になる恋に佐々木が駆け寄って背中を摩った。
「恋、好きだよ。」
赤城から何度もかけられたその言葉が頭をよぎった。
もう言ってはもらえない言葉に呼ばれ方。僕を見て優しく笑うその顔もまた別の誰かのモノになってしまう。
...嫌だ、行かないで。なんでよ...僕だけだって。僕だけに全部くれるって、そう言ったじゃん......。
悶え苦しむ恋を見て本気で佐々木が心配して声をかけた。その声も恋には届かず、中庭から聞こえる二人の声を聞いて新山がその場に駆けつけた。
「おい...芦野くんどうした?」
「いや...ちょい色々あって......。過呼吸になってるっぽい。新山、なんか飲み物あったりする?」
佐々木がそう聞くと新山はカバンからお茶のペットボトルを出した。
「芦野くん、これ飲める?大丈夫だから...とりあえず落ち着こう。深呼吸してお茶飲もう?」
佐々木と新山のフォローもあり、恋は一度呼吸が落ち着いてきた。二人に見守られながら手渡されたお茶に口をつけようとした時また過去に赤城から言われた言葉がフラッシュバックした。
「俺以外の人にいい顔しないで、見ないで。笑いかけないで、楽しそうにしないで。」
恋は手に持っていたお茶を床に落とした。驚いて新山がペットボトルを持ち上げると恋が「ごめん...なさい。」と泣きながら謝った。
「大丈夫、気にしないでよ...それより芦野くんなにが...」
「...全部悪いの僕だから。全部......約束も守るしなんでも言われた通りにするから...別れないで。お願い、やだ...もう一人は嫌だ...。」
ボロボロと泣き崩れる恋の姿を見て佐々木は何も言わず恋の背中を摩っていた。新山はいまいち状況が理解できず、ただ目の前で狂ったように泣き続ける恋を見て困惑していた。

時間が経ち、恋は泣き止むと二人に何度も謝った。それに対して嫌な顔一つ見せず、佐々木と新山はただ心配そうに恋を見た。立ちあがろうとする恋がふらつき転びそうになると咄嗟に新山が手で支えた。
「大丈夫?心配だし俺ら家まで送るよ。なぁ佐々木?」
「もちろん......流石にこの状況で一人では帰せないよ。」
優しく声をかける二人に恋は首を横に振った。
「大丈夫だよ、ありがとう。...僕赤城のところ行って来るよ。会ってくれるかはわからないけど...。ちゃんと話してもう一回付き合ってもらえないか聞いてみる......ダメだったら赤城に迷惑にならないようにちゃんと身を引くから。」
辛そうに無理やりに笑って二人に言った。
「もし戻れなかったとしても二人は今まで通り接してくれると嬉しい。...ごめんね巻き込んじゃって、本当にごめん。」
そう言い残して恋は少し駆け足で赤城の家に向かった。

その時ようやく理解ができた新山が恋の後姿を見ながら口を開いた。
「......え...んん?あ、芦野くんと赤城って付き合ってんの?...じゃ、なくて。付き合ってたの?」
「んー、なかなかに今更感あるけど...まぁうん。ちなみに俺と仲川はもうかなり前から知ってる。流石に鈍すぎるぜお前。」
「まーじでか...やば、知らんかったわ。...てかあれ大丈夫かね?すげぇ追い込まれてたけど。...見た感じ芦野くん結構メンタル逝ってたくね?」
新山の言葉に「いや俺が思うにはどっちもどっち。」と佐々木が呆れたように言った。
「...解決できると思う?」
「解決もなにも、赤城も別れたいなんて微塵も思ってないよ。あの二人すれ違ってんのよ...まぁにしても...。」
佐々木は恋が先程言っていた言葉を思い出して薄っすら笑みを浮かべた。
「赤城の方は分かってたことけど、まさか芦野くんの方もあんなに赤城に溺れてるとはね~。独占欲というのか執着と言うのか...どちらにせよ今回解決したらお互いにもう抜け出せないし離れられないと思うよ、あそこは。」
佐々木の言葉に反応して嫌そうに新山が口を挟んだ。
「おいなんだあそこは、って。含みのある言い方やめろ。俺らも別れねぇわ。」
新山の話に佐々木は声を出して笑った。
「お前らはようわからん」
佐々木は投げやりに返して新山の肩を組んで一緒に帰った。

電車の中で何度も自分を責めた。
あんな言い方をしてしまった事。毎回自分ばかり赤城を傷つけていてしまった事。
赤城はいつだって僕に話し出せるような環境を作ってくれていた。それなのに愛想を尽かされるかもって逃げ出したのは僕だ、赤城に勘違いされても無理はない。
でももしもう一度チャンスをもらえるのなら、いくらでも縋りつきたいと思う。赤城の隣を別の誰かが手を繋いで一緒に歩いてるのを見るのは絶対に耐えられない。......もしこれからもその隣に僕が居ることのできる方法があるのならなんだってする。そのくらい僕は赤城のことが本気で好きで本当に赤城は僕にとって全てだから。
しかし家の前に着くとインターフォンを押すのが怖くなった。また呼吸が苦しくなる。僕は地面にしゃがみ込み、自分で自分を宥めた。だんだんと視界が見えにくくなっていき終いに僕はそのまま意識を失った。

目を覚ますと僕はベットで横になっていた。
僕にはここがどこなのかがすぐに分かった。
安心する匂いに何度も眠ったベット。棚の一番取りやすいところに並べられいる本もアーティストのCDもゲームも全部、僕の好みだったものが全てそのままになっていた。嬉しい気持ちとは反面、そこに赤城の姿はなかった。
「...顔を合わせたくないってことなのかな。」
僕は起き上がってハンガーに掛けられたブレザーを着るとカバンを持って部屋を出ようとした。
ノブに手を添えようとした時、部屋のドアが空いて赤城が驚いたような表情で僕を見ていた。
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