我が子と間違われて拐われた孤児と、病んでる公爵

5◆シアン視点

私は執事長のシアンです。

ああ………旦那様がついに、誘拐をやらかしてしまった。

明らかにスラムの子供という見た目だったので、こうなったらこのルーナという子供の本当の家族には裏で手切れ金を渡せばなんとかなるだろう。

………たぶん、旦那様は我が子だと本気で思っているようだから、手放さないだろう。

その証拠に、帰宅の際にパルマ様じゃないことを指摘しようとしたら………。

「旦那様、その子供はパルマ様では……」

「何か言ったかシアン」

その時の旦那様は、初めて私に明確な殺意を向けたのです。

私は悟りました。

それを指摘したら最後、私の命は終わりを迎えると………。

「………いえ、なんでもございません」

「そうか」

長年仕えた私ですが、初めて旦那様を怖いと思った瞬間でした。



旦那様がルーナ様に夢中の一方で、私はルーナ様について調べました。

どうやら孤児だったようで、一人で逞しく生きていたようですね。

ならば、このまま本当に旦那様の子供になってもらいましょう。

養子の手続きをしたら、旦那様の正式な子供ですからね。

書類はこちらで用意して、後は旦那様とルーナ様のサインだけです。

「旦那様、こちらにサインをお願いいたします。ルーナ様もサインをお願いいたします」

旦那様は書類に目を通すと、嬉しそうに微笑みサインをしました。

ルーナ様のサインは、字の書けないルーナ様に旦那様が……。

「ルーナ、これと同じ絵をここに書いてね」

と言って、書類が読めないルーナ様に、騙し討ちのように書かせていました。

書類は完成しましたが、なんとも複雑な心境です。

書類は無事に受理されたので、ルーナ様は正式に旦那様の子供になりました。