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しおりを挟む「だいたいなぁ、男女仲が良すぎるんじゃ、ムラタはよぅ、気に入らんなぁ!」
「なら私に限った事じゃないじゃん。ミツキちゃんも来てるよ」
おそらく扉のすぐ裏にいたのだろう、投げた言葉にすぐ返事が来て千早は驚いた。
「……恋人がおんのにホイホイ遊びに行くんはどうかと思うわな」
「ふたりきりじゃないから。性別超えた戦友みたいなもんだから」
「ほぉー、性別超えた…て……サークル内で付いたり離れたりしてんちゃうの?」
「社内恋愛ってことならそういう人もいるけど、サークル内でってのは無い。私が知る限りはね」
「なら、知らん所ではあるかもしれんな」
ああ言えばこう言う、ギスギスとした会話が扉越しに続き、ついに知佳がかねてより思っていた事を切り出した。
「あー、面倒くさい。千早さんはさぁ、私の何を知ってるんです?」
「え」
「ギャル仮装の写真に釣られてムラタに来てさぁ、結局のところ顔じゃん?私、千早さん好みの大人しい女じゃないよ?私は別に…お淑やかじゃないし…慣れてくると口も悪くな」
「チカちゃん」
止まらぬ吐露の腰を一旦折り、千早は目をまん丸にして扉へ呼び掛ける。
「俺、大人しい子が好みやなんて言うたことあるか?」
「え、違うの?」
「ちゃうよ、落ち着いた雰囲気の子は好きやで、でもお喋りが弾む子ぉも好きやし…俺が真面目なタイプちゃうねんから…そないガチガチの優等生やと堅苦し……ちょい、ここ開けてぇな、チカちゃん。ケンカくらい面と向かってしよや」
もちろん最初は見た目…八重歯だが、高石に「落ち着いた子」と聞いて関心を持ち、仕事ぶりと変わった食の好みを知って更に逢いたくなって…配置換えの結果がこうである。
「開けて、天の岩戸やないんやから…俺ここで脱いで踊ろか?」
「やめて、踊ってもいいけど脱がないで!」
「ええの?ほな着て踊ろ」
吹き出す声が僅かに聞こえて、寝室の扉が内側に開く…と同時に千早は押し入って知佳の体を強く抱いた。
「うわぁ…」
「よーしよし…作戦勝ちや」
「踊ってないじゃん…嘘つき」
付き合い始めてまだひと月だというのに独特なノリ、この波長の合う合わないがいわゆる相性と言うものなのであろう。
「天照大神やな、ひひっ」
「詳しいの?意外」
「伊勢神宮くらい詣ったことあるよ、結構遠いねんな…今度チカちゃんも行こ、」
「うん…ちゃんと神社とか行くんだ…好感度高い…」
知佳は大学で日本文化もひと通り浚っている。いい加減そうに見えて文化的なことを蔑ろにしない千早のそのギャップが彼女の萌えポイントにヒットした。
「…俺のこと何や思うてんの?」
「無宗教系」
千早はそのまま初めて見る知佳のベッドへ腰を下ろし片膝を立て、隣に家主を座らせてその唇を啄んだ。
「チカちゃんが堅苦しい子でも…それを崩すんも面白かったかもしれんね」
「そうかな」
「まぁ、芋の菓子に湯入れて食う子なんかおもろいに決まってるけどな、ひひっ」
「チーズもね」
男は長いまつ毛を伏して、目線を逸らす知佳を根気よく見つめて視線を捕まえる。
そして
「面倒くさくて悪かった、いつものやきもちや。たぶんずっと言うわ」
と言って哀しそうに笑った。
「いえ……字面だけだとそう勘違いされても仕方ないと思うけど……本当に、ただのレクリエーションサークルだから…深く考えないで下さいね。あと松井さんとどうこうは無いです。さっきのは方便です」
すっかり短くなった髪を撫でて知佳はそう言い、
「口が悪くて…ごめんなさい」
と付け足す。
「ほんまやな、でも俺、方言も好きやけど…柄悪いな、ひひっ♡………元はな、アイツと話してる時にチカちゃんが歯ぁ見せてんのが気に入らんかってんな…あ、見せてよ、歯」
「やですよ」
ギラリと閃った眼光に知佳の腰が引ける。
「歯ぁ見るだけ、他は触らへん…な、」
千早はそう囁くと知佳の背中とお腹を脚でロックし、骨張った両手で彼女の顔の輪郭を掴んで頬を親指で摩った。
「あーんして、チカちゃん、あーん」
「いやだって、やだ、まず顔が近い、やだ」
「自信持ちぃな、可愛い歯ぁ見して、ほれ」
「あ、あ…」
男の親指がぐにぐにと唇を捲り、不格好な口の形になる前に知佳は自分から開口して歯を見せた…誠に不本意である。
「あー、えらい尖ってんね、噛まれたら刺さるわ…下は?下も…尖ってんな…わんちゃんみたいや、かぃらしい」
拷問のように顔を固められ歯を剥き出しにされる、こんな辱めは受けたことがない。知佳は心底、「さっき歯を磨いておいて良かった…」と痛感していた。
「うん…、うん、ええな、これは…こんなして男に歯ぁ見せたことある?」
「うあ、あるわけないじゃろ‼︎」
最初から手は自由だった、千早のひじに添えていたそれで腕を剥がして知佳が吠える。
「おーおー、わんわん、」
「犬じゃない!」
「可愛い可愛い、」
涙袋をぷるぷると浮かせて怒る知佳を宥めてしかし煽り、千早は彼女の顎をクイと持ち上げて何度目かのキスタイムに入った。慣れた角度で、けれどいつもより深めにチカの唇を奪う。
「はッ……ん……」
「歯磨き粉の味」
「~~~‼︎」
キスをしては抱き寄せ、肩で口を塞いで反論はさせず、落ち着けばまたからかい…何度も何度も睦じい触れ合いを繰り返す。
「歯ぁ…つるつるやな」
「ム…~~は…ぁ、」
磨いたばかりの滑らか前歯を舌でなぞり、無神経に感想を述べられていよいよ知佳は逃走を図るも失敗した。
千早からはソースと炭酸飲料の人工甘味料の風味、そして染み付いた煙草の香りがして…歯を開ければ舌が触れ合ってしまう、ふぅふぅと鼻で息をしながら彼が満足するのを待つ。
「あー…あかんな…チカちゃん…3、」
「さん?」
「3ヶ月……相場やろ、付き合って3ヶ月…でどやろか」
期間、相場、それは即ち…。
「エッチですか?」
「はぁー、ハッキリ言いよんな!あんた」
「大人だから分かりますよ……千早さん、紳士ですね。分かった……3ヶ月…というと3月の頭以降か、考えておきます、」
知佳は目尻を下げて笑い、自分から男の胸に寄り添って頬をすりすりと肩へ擦った。
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