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しおりを挟むそれから日は過ぎて産婦人科の受診を控えた前日の夜。
「おかしいな」
定時に退社したはずの茉莉花がなかなか家に帰って来ない。
迎えに行こうか、嫌がられるか。
あれから身のある会話をしていない俺は、気遣いさえも打算に見られそうでむやみに動けずにいた。
駅から自宅までは道が数本あるし入れ違いになってもいけない。
集合玄関のエントランスまで降りて待つことにする。
「…どーすっかな…」
明日、おそらくだが茉莉花の妊娠は確定する。
予定日も分かるだろうし、超音波検査とやらで小さな胎児の姿も見えるのだろう。
果たして俺は、それらの報告をどんな顔して聞けば良いのだろうか。
彼女を失望させた俺はもう選べる立場ではなくて、茉莉花からの三行半に怯える小物である。
もちろん認知もするし養育費だって出すつもりだ。
願って良いのならこのまま茉莉花のそばに居て子の父として役割を務めたい。
でも茉莉花は母として、不誠実な俺を切り子を守ろうとしている。
俺の失言からすぐにスイッチングしたあの瞬間の凛々しさったらなかった。
ああいうのを「百年の恋も冷めた」状態と呼ぶのだろうか。
芯の強い茉莉花は良い母親になるだろう。
日々悩みながらも成長していく幸多き人生を歩む資格と素養がある。
「俺も…そこに参加してぇ…」
情けないもここまで行けば表彰ものだろう。
鼻を垂らし始めた俺はオートロックの扉を抜けて表へと出た。
正面の通りから帰って来るか、静かな横道を歩いて来るかもしれない。
惣菜を買ってるなら荷物を抱えているんじゃないのか。
そんなところにも頭が回らなかった俺はどれだけ辛い思いをさせただろうかと自己嫌悪を繰り返す。
「…いないな」
薄暗くなって来たが視界は良好、しかし見える範囲に茉莉花はいない。
連絡を取っても「平気だから」なんて返されるかもしれない、俺は歩み寄る恥は捨てたもののハッキリ拒絶されるには心の準備ができていなかった。
とりあえず外に出たのだしコンビニでも行ってスイーツでも買ってみるかな、徒歩3分ほどのそれを目指してとぼとぼ歩く。
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