今宵も、麗しのボスとパーティーを。

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
52 / 54
おまけ

お相手はどんな方?

しおりを挟む

 とある春の日。
 なんでもない平日の朝礼終わり、進行役でもない小笠原おがさわら奈々なな・PCフロア長が皆の前に立つ。
 週末のフェアの告知だろうか、それともお叱りだろうかと早番スタッフは内心ザワザワしていた。
「おはようございます。私事で恐縮なんですが、この度、結婚しましたのでお知らせしておきます」
「………お、おめでとうございます!」
元々がスタンディングなのだが皆は飛び上がるように喜んで、ニコニコの奈々を祝福する。
「それと、お腹に赤ちゃんがいます。安定期に入りました」
「お、おめでとうございます!!」
早番社員だけでは受け止めきれない特報に、始業前からなんだか皆テンションが追いつかない。
 そういえば奈々は最近いやに顔色が悪かったり半休を取っていたり、かと思えば爆食いしたりとさまざまな点で不安定であった。病気ではなかったのだな、純粋に心配していた部下たちはほっと胸を撫で下ろす。

「じゃ、もうひとつ驚いて貰おうかなァ」
 店長である嘉島かしまはニマニマ笑い、
「フロア長のお相手、気になるだろ?みんな」
とオーディエンスをあおる。
 と言われても芸能人じゃあるまいし、一般男性にほぼ決まっている。
 ならばまさかこの社内にお相手が?皆がキョロキョロと疑心暗鬼になったところで、朝礼の進行役がスススと奈々の隣に並んだ。
「あの、僕、です」
白物フロア長である松井まついは、いつも見せる飄々ひょうひょうとした顔を脱ぎ去って照れ臭そうに唇を噛んだ。
「…おめでとう…ございます…」
「なんで松井フロア長?」
「あの二人、確かに仲は良さそうだったけど」
スタッフはヒソヒソとあからさまに動揺して、お似合いか否かの判別に苦しむ。
 彼は自信家でオールマイティで社交的で良い上司、だけど奈々と恋仲にあるなんて誰も予想していなかった。
 凛としてヒールで立つ奈々よりも、松井は身長が低くてアンバランスだ。まぁそれを抜きにしても、女帝タイプの奈々とカップルになるなんてよほど気位の高い皇帝みたいな男性だろうと皆はイメージしていた。
「元々ね、小笠原さんがここに赴任した時に松井くんも居て。アパートを紹介したり怪我した時に送迎したり、仲良くなったそうで。松井くんは北店で管理職になってこっちに凱旋がいせんしたんだけど、当時を憶えてる人も減っちゃったから…まァ驚くよねェ」
そう言う嘉島も当時は本店に居なかったので想像だけで振り返る。
「ふふ…それで、産休前に故郷の東京に帰ります。育休を取って、向こうの店舗で復帰して、って感じで…なので、もうしばらくの間ですけど、よろしくお願いしますね」
「よろしく」
松井は奈々につられてペコリと頭を下げた。

「ビックリしたね…」
「おめでたいね」
解散してそれぞれの持ち場へ分かれて行くスタッフは、このスクープを口々に批評しては皆色めき立つ。
 良き上司であり店の母的な奈々が幸せを掴んでくれたことが喜ばしいのだ。そしててっきり悠々自適な独身貴族を貫くものだと思われた松井に良い話があったことも嬉しかった。

 それぞれがパートさんや外部提携業者に口伝で話を広めていき、夕方までに奈々と松井はそれはそれは多くのスタッフからお祝いの言葉を貰った。



「確かに、突然言われてもポカンよねェ」
夕食後、膨らんだ腹を撫でて奈々が呟く。
 自然に任せていた妊活が実って夫婦となることが決まり、安定期を待っての入籍だった。胎児はそれなりに成長しているのだが、なんせ縦長な体型の奈々の腹はそう目立たなかった。むしろこの機に膨らんだ胸の方の主張が強過ぎて気付かれにくかったのだ。
 タイミングに関しては奈々の希望で、事実婚でも構わなかったのだが松井の説得により法定の夫婦となることにした。
「みんなお祝いしてくれたけどさ…僕が大金星みたいな扱いは腑に落ちないな」
周りの反応からは、「松井が奈々の尻に敷かれてるのだろうなぁ」と想像しているらしい印象をヒシヒシと受けた。
 当たらずとも遠からずだが、無抵抗に従属しているわけではないので松井としては不本意である。
「私が姉御キャラだものね」
「か弱いところもあるのにねー」
「むぅ」
 ブランクのある出産なので、色々と不安もある。高齢出産だし産後の体調もどうなるか分からない。娘や親との関係も上手くいくだろうか…悩みは尽きない。
 けれどかつて無かった『夫』、そして『父』としての存在感が今回は確実にここにある。名前を考えたり学資保険の資料請求をしたり、枕を赤ん坊に見立てて抱く練習をしているパートナーがここにはいる。
「僕もしっかりしてるように見られたいな」
「大丈夫よ……まァ、私は向こう行ったら一般職に降りるし…そういえば初めて、あきらくんが上司になるわね」
「同じ店舗に配属されるとは限らないけど…楽しみではあるね」

 立場や肩書なんてオマケみたいなもの、おそらくどう変わろうと松井は奈々を敬い慕っていく。
 夜を楽しむエッセンスくらいにはなるかもね、二人は腹をいたわりながら新婚生活を愉しむのだった。



おしまい
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

処理中です...