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しおりを挟む週明け、木南が勤める建築事務所の所長という方がうちに来た。
用件はもちろん木南の暴挙のことで、所長さんは深々と頭を下げて謝罪してくれた。
「あの、もう良いので」
「いえ、うちの者が申し訳ございません」
「あ、はい…」
謝罪の場だというのに木南本人は不在、真秋がうちに立ち入ることを許さなかったそうだ。
朝から真秋は俺の証言を基に作った資料を持って木南の事務所へ赴いて、「木南にうちの家族が襲われかけたのですが」と直談判したらしい。
何もかもを正直には言わず、あくまで「配偶者へ嫌がらせをされた」とかに留めたそうだが。
木南は決まりの悪そうな顔でダンマリ、しかし証拠も揃っていたために所長が謝罪に…という流れだ。
ちなみに証拠というのは、ずばり監視カメラの映像である。
俺は知らなかったのだが、真秋は仕事部屋の天井の角にカメラを設置していたのだという。
木南が最初にうちに来た時から不穏なものを感じて、急遽買って取り付けていたらしい。
真秋は、所長に「勤めは辞めさせないで欲しい」とお願いしたそうだ。
仕事は仕事としてそこそこ信頼はしているし、木南の事務所との関係性も後々効いて来るとの判断だ。
俺が被害届を出さないからどうにも出来ない、ならば仕事面で役に立ってもらおうと画策したらしい。
なお、所長さんはなんと木南の伯父だそうで、保護者代わりの謝罪でもあったようだ。
仕事と称して人様の家に上がり込んだことも鑑みて、職場の代表としての謝罪だそうだ。
後継者として辞めさせるのが惜しかったらしく、俺たちの度量の広さに恐縮しきりだった。
それから木南は真秋への執着はあまり見られなくなっている。
あくまで真秋の主観だが、そこには俺の醜態が大きく貢献しているみたいだ。
小さいわ勃たないわの俺はよほど木南にはドン引き材料だったみたいで、それは真秋への好意や憧れを削ぐに充分すぎたそうだ。
不本意だが、俺のヘタレっぷりで真秋を守れたんなら本望…なのだろうか。
真秋の評価が下がってしまったのは申し訳ないが、真秋は喜んでいたから良いのか。
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