馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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「……おい、ハルカ…寝てんの?」
「………あ、終わった、の?」
遥が顔を上げたのはあれから20分ほど経過した後で、嬢は帰り着衣した長岡が心配そうにクローゼットを覗いていた。
「…大丈夫か?その…気分悪くねぇか、寒かったろ」
「大丈夫…これ…ジャンパー借りてたし…」
「脱げよ、キャンプじゃねぇんだから…」
心なしか優しい長岡はフードの紐を緩めて、もこもこになった遥のジャンパーを剥がしてやる。
「……あの…」
「なんだよ」
「ご、ごめんね、は、恥ずかしかったよね、お風呂の間に帰ろうと思ったんだけど…こ、腰が抜けちゃったというか…ごめん、こんな…見られると…あの…ごめん、超プライバシーな、その、」
「いいよ…いまさら…お前にはち◯ぽだって見られてんだ」
「詳しくは憶えてないけど…いや、ごめん…」
 恐縮する遥の腕を引いて暖かな部屋へ連れ出して、
「いい刺激になったわ…お前、夕飯は?」
と問えば彼女は
「あ、まだなの、あの…作ろうと思って材料持って来たんだけど…」
と食材の入ったエコバッグをクローゼットから持って出る。
「マジか、作ってくれ。超ハラ減ってるわ」
長岡は嬉しそうに遥を台所へと案内して冷蔵庫から缶ビールを取り出して開封した。
「…」
予想外に長岡が呑み始めたので遥は献立を少し変更して、ツマミになるものを作ろうと野菜へ包丁を入れる。
 そして鍋を火にかけ全体の見通しが立ったところで会話を再開した。
「お給料日でもないのに…利用するんだね」
「ん、月末はクリスマスとかで風俗混むんだよ、だから今月分前倒しだな」
「……さっきの…リン…ちゃん?…ホストにお金注ぎ込んでるんだ」
「うん……ぷはあー……お陰でいくら稼いでも足りねぇんだとよ、勿体ねぇよなぁ…自分のものになんねぇのに…でも夢中でいられるから楽しいんだと」
達成感と開放感に満ち溢れた様子の長岡はベッドを背もたれにして、座卓の前に腰を下ろしクイクイと缶を傾ける。
 酔えば間違いが起こるかもと二人の時は飲酒しない彼が堂々と呑む、それはもう2発出してしまって弾切れであると自身で分かっているからできたことだった。
「そっか……恋してんだね…もう、あの子と長いの?」
「そうでもねぇよ…あー…でも3回に1回は指名してるわ。安定の気持ち良さっていうの?具合が分かってるから楽なんだよ」
「ふーん…」
「なんだよ、いいだろ?独身だし彼女もいねぇんだし」
早くも饒舌じょうぜつになった長岡は眠たそうに、頬杖をついては肘を膝から滑り落としてカクカクと頭を揺らす。
「うん、もちろん……でも、ちょっとヤキモチ焼いちゃったの」
「は?なんで」
「…直樹、すっごい気持ち良さそうで…悔しかったの。私も同じようなことしたのに、求められないから…なんか寂しくなっちゃった」
野菜スティックとスパイス入りマヨネーズを座卓へ置き、遥は口をきゅっと尖らせて赤ら顔になった長岡へ目線を合わせた。
「そりゃあお前…俺らは添い寝フレンドだろ?」
「そうだけど、そうなんだけど…」
「お前は嬢じゃねぇんだからリピートしねぇよ。恋愛でもねぇんだから、気楽にしてろ」
 それは確かにそうなのだけれど…遥は台所へ戻りつつ、
「うん…直樹はさ、恋愛したいとか思わないの?」
胡瓜きゅうりを噛み始めた男へ質問する。
「………よく…分かんねぇな…うち片親で幸せな夫婦とか知らねぇし…物心つく前からいがみ合う男女ばっか見てるとどうも…そういう気持ちが湧かねぇな。…姉ちゃんもデキ婚して最初の旦那とは離婚したし…結婚願望とかも……考えたことねぇし…分かんねぇな」
「そう…家族…子供作ったりとか、憧れない?」
「…………自分の…ペースが崩されんのが嫌なんだよな。リンちゃんみてぇに体使って稼いで全部貢いで…正直馬鹿みてぇだって蔑んでるよ。お前だって振られただ逃げられただって大騒ぎして…馬鹿だよ」
 心を奪われて自失するようなことは滑稽でみっともない、それに見合う楽しみなどあるはずかない。長岡は体験こそしてないものの世の中を斜めに見てはそう吐き捨てた。
「んー……女の人、嫌い?」
「女に限らず…何かに溺れてるのが…見ててイタいというか…ラブラブな自分たちに酔ってる姿に虫唾むしずが走るというか…少なくとも俺よりは幸せなんだろうけどな、だから表立っては言わねぇよ、」
「うん……妬んでる?」
 酔いが回ってきた頭は思考が追いつかなくなり、図星を突かれても
「ね……たんでる、のかな…諦めて…いや、」
口を回す労力を捻出できなくなっている。
「……そうだ、」
本日来訪したそもそもの理由を思い出した遥は、彼が酔ったのをいいことに一気に攻めることにした。
「直樹、私と…リア充っぽいデートしてみない?」
「はぁ?なんで」
「そういう世界見てみるとさ、何か変わるかもよ?」
「変わりたくねぇよ、望んでない」
 汗と脂でへたった巻き毛をくしゃくしゃ掻き回し、長岡は缶を真っ逆さまにして最後の一滴までアルコールを胃へ入れる。
 別に恋愛や結婚が人生のゴールではない。職と住む所があれば一生独りでいたって構わないのだ。誰しもがお前のように恋愛に恋い焦がれている訳ではない…一緒にするなと言いたいのだが論理立てて説明するための脳がどっぷり酒に浸って仕事をしない。
「ねぇ、お願い…22日、休みでしょ?…私とデートして。近場でさ、ドライブして買い物して、ディナーして夜景でも見て、ここに戻って来てヌいてあげる。レンタル彼女的な」
「ナニソレ…俺に…何の得があんの」
 じゅうじゅうとフライパンからは肉の焼ける旨そうな匂いがして、
「むー…じゃあ、直樹がレンタル彼氏になってよ。あんたの休みを1日、私が買ってあげる…それならどう?時給900円くらい出すよ」
フライ返しを片手にそう振り向いて笑う遥は家庭的で美しかった。
 これはアルコールのフィルターがかかっているからだろう?面食らった長岡は目を覚まそうとマヨネーズに指を差してそれだけねぶってみる。
「…美味ウマ……食事代は?」
「別途、もちろん私が出すよ」
「…」
「そんな経験、してみてもいいんじゃないかな」
「そう、かな…」
 パックの白米と焼けた牛・豚肉とソーセージを皿に盛ってワンプレートのスタミナご飯、
「ねぇクリスマスデート、しよう」
と遥が差し出せば口が緩くなった長岡は
「いい…よ…」
よだれを垂らした。
「うん…直樹どうしたの?一気に呑みすぎじゃない、拭いて…」
「うん…」
「コーディネートも私が決めるからね、後でクローゼット見せて」
「うん…」
「いただきます♡このソーセージね、特級だから美味しいよ、ね、」
「うん………美味い…」

 その後のことは長岡はあまり覚えていない。
 遥によると食べ終わったらすぐにベッドへ這って上がって眠ってしまったそうだ。
 なので遥は悠々と食事をしてからクローゼットを物色、くたびれたシャツに辟易へきえきした彼女は翌日洋服屋できれい目カジュアルなシャツを仕入れて長岡へとプレゼントするのだった。
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