馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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 数日後。
 この日は朝から生憎あいにくの雨、湿気を蓄えて爆発しそうな頭を長岡は帽子に収めて仕事に励む。
「(…元気無さそうだな…)」
 作業場と事務所の間のガラス戸から中を覗けば遥はいつもより薄化粧で、しっとりと言うよりは陰気な…おかしなオーラを振り撒いていた。
 さては先日言っていた合コンが失敗に終わったのか、だとすればいい飯のアテになるな。長岡はそんな不届きな事を考えつつ昼休憩を迎える。

「…モジャ、隣いい?」
清洲きよす…うん、座れよ」
 二人は職場では「モジャ」「清洲」と呼び合う仲、厳格に申し合わせをしたわけでもないのだがその辺りは長年の習慣として身に付いていた。
 長岡は休憩室の椅子を引くこともなくチラと見ただけですぐにスマートフォンに目線を戻し、隣に腰掛けた遥はコンビニのパンを開けもせずにため息をく。
「……んだよ、辛気くせぇな」
「聞いてくれる?モジャ」
「話してぇんなら聞くよ…」
「あのね、昨日合コンして来たんだけどね…」
「またケルホイが居たのかよ」
「違う、あの…相手がね、ムラタの、電器屋のね、御一同だったわけ、んで『うちの同僚のお兄さんもムラタです』って言ったらスーっと周りが引いちゃって。ほら、秋花しゅうかちゃんのお兄さん、本店の管理職なの。それからもう全然食いつかなくなっちゃって。開始数分で完全負け戦よ」
「あぁ、」
 遥と長岡の同僚の整備士・守谷もりや秋花の兄は確かに国道沿いのムラタ皇路オウジ本店のフロア長に就いている。それは長岡も話に聞いていた。
「上司の妹の関係者ってなると…手ぇ出しにくいわな、ふはは、残念だったな」
「……嬉しそうね」
「うん、朝から不幸そうな顔してっから何かあったんだろうとは思ってたよ。いいねぇ、話してスッキリするならいくらでも聞いてやるよ」
「性格悪いわ、ほんと」
とはいえその通りスッキリしたのか、遥はようやくパンの袋に手をかけて開封する。
 そしてちびちび摘みながら、
「…はぁー…」
とまたため息を吐いた。
「お前さぁ…いや、なんでもない」
「なに、気になるじゃん」
「んー…元気無くてもさ、ちゃんと化粧して来いよ。普通にしてりゃそこそこ可愛いんだから」
「!」
 意地悪な同僚からのまさかの言葉に遥は目を丸くして
「…………かわいい?」
と聞き返す。
 胸を触られた時とテレフォンセックスもどき時に言われたことはあるがこんな昼間に聞けるとは思っていなかったのだ。
「飛び抜けてずば抜けて美人じゃねぇけど可愛いよ。上の下くらいには」
「…ありがとう…」
「褒めてねぇぞ、ほんと馬鹿だなぁ」
「……性格悪い」

 その後食べ終わった遥は更衣室に入ると化粧ポーチを広げ、いつも通りしっかり顔を作って仕事に戻る。
 メンタルのバロメーターたる遥の顔面は作業場の長岡からもしっかり確認できて、男は「よしよし」と徳を積んだつもりになり互いに良い気分になるのだった。
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