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9…いっぱい食べる子が好き
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「こちらのお席へどうぞ」
「ありがとうございます…」
この辺りで一番の高級ホテルは食事のランクもなかなかのもの。
まるで宝飾店のショーケースみたいな煌びやかな世界、和洋中さまざまな料理の並ぶフロアは夢みたいに眩しい。
「わぁっ…すごい、すごーい!」
「はしゃぎ過ぎだよ」
「すみません、でも初めてで…こんなに豪華なビュッフェ。わー、すごい、すごーい!」
「すごいばっかり」
席に案内されて腰掛けた雅樹さんは大人の余裕というか落ち着いていて、私が興奮し過ぎというのもあるのだが冷めてるくらいに見えた。
ガキ臭かったかな、一緒に居るのが恥ずかしいかな。
やっちまったとテーブルクロスを眺めていると彼の指が視界に入ってきて、
「なに、取りに行こう」
とそっと私の唇に触れる。
「ひゃっ…」
「ぷふ…ほら、いろいろあるよ」
「本当…あの、私、取るの下手なんですけど引かないで下さいね」
「…こういうのに上手いとか下手とかあんの?」
「あるんです…」
こういった回遊方式のビュッフェではまず下見をして皿の上にどのように盛っていくかシミュレーションすべきなのだ。
でないと最初に訪ねた椀ものコーナーでカレーライスと掛けうどんを作ってしまうなんてことになる。
そして食べ始める頃にはそれらは冷めていて本来の旨さを味わえないのだ。
ここにはうどんは無いかもしれないが同じようなことが起こりかねない。
「ふーん?まぁ時間制限無いからさ、ゆっくり食べよう」
「はい……あ、雅樹さん、ローストビーフだ!すごーい!」
「うんうん」
雅樹さんは大皿を2枚取って1枚渡してくれて、きゃっきゃとはしゃぐ私の後ろをまるで執事のように追い従ってくれる。
ひと皿目がいっぱいになれば持ち替えてくれて、ふた皿目もいっぱいになると「一旦置いてくるわ」と席へ往復してくれた。
まともな初デートなのだから大人しくしておくべきなのだろうが、料理を取れば取るほどに私も彼も顔つきが明るくなっていくもんだから止められない。
結局3皿とスープ2杯を取ったところで実食タイムへ入ることとなった。
「…美味ひい…」
「うん、美味しい」
「うわぁ、こっちも…すごーい」
「うんうん」
あちこちに箸を付けてもぐもぐする私を見つめる雅樹さんは自分では何も取っていなくて、まるで私の皿からおこぼれを貰うみたいにちょんちょんと摘むだけだ。
外食で元を取ろうなんて考えは持つだけ無駄だし相当に爆食いする人でないと無理だろうが、あまりにもったいないというかこれに私と同じ金額を払うというのは馬鹿馬鹿しいと感じる。
「…あの、雅樹さんも取ってきたら」
「うん?俺は良いよ、美羽ちゃんの残りで」
「いや、なんか気まずいです」
「そうかな…じゃあスープ、一杯貰うよ」
「はい…」
少食だと普段から聞いてはいるがここまでか、いつもはパンひとつでも相当に頑張っていたということだろうか。
彼はちびちびコンソメスープを啜って、
「これ美味いから飲みな」
と私側へ返してくれた。
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