悪女の王子様ーTry the gameー

スイートポテト

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届かない思い

届いた手紙

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 小鳥がされずる朝。まだ眠い目をこすりながら俺は似合わないフリフリのドレスを着てダンスのレッスンを始めていた。髭の長いおじさんが手を叩き、いつもの元豊臣秀吉のメイドに手を引かれながら踊りを始める。

「ワンエン、ツーエン」

 メイドの軽快なステップに乗りながら、自然と軽やかな足取り裁きで踊りを踊って見せた。メイドは目を輝かせながら

「すごくお上手になりましたね!お嬢様!」

 と飛び上がるような明るい声で俺を見て笑みを浮かべた。くるりとその場を2度回ってお辞儀をすると、髭の長いおじさんが手を叩きながらこちらに歩いてきた。

「パープルお嬢様。以前とは見違えるほどに踊りが上手になっておられる」

「どうもありがとうございます」

 俺はなれない敬語を使ってみた。というか使わされている。昨日の両親との食事会の時、一切敬語を使わずに話をしていた時にランに散々注意されてしまったからである。メイドは俺の方へ近づきにこやかに話しかけた。

「お嬢様。本日は美味しいクッキーを焼きました。もしよろしければ少し休憩いたしませんか?」

 メイドの提案に俺は2つ返事で返した。メイドは俺の手を引くと、テラスにある机にクッキーやケーキなどの菓子類を並べて、カップに紅茶を注いだ。

「相変わらず努力家ですね。お嬢様は」

「まぁ私にかかればこんなもの御茶の子さいさいですわ!」

 俺は鼻高々にそう言うとメイドは口元に手を当ててくすくすと笑った。メイドは俺の目の前の椅子に座ると、口を開いた。

「お嬢様はどうしてマーティス様を婚約者に選んだのですか?」

 俺はマーティスという名を聞いてフォークを持つ手が止まった。手を机の上に乗せるとぽつりぽつりと言葉が出てくる。

「実は俺……私……以前までの記憶が曖昧で……何故私がマーティス様を選んだのか……分からないんです……」

 それを聞いたメイドは少し寂しげな顔を浮かべると下を向いて頷いた。

「私にとってマーティス様は……にえという前世出会いした恋人で……今の私はその前世の恋人を愛していた記憶が強いんです。だから、にえを好きだから、今も婚約者をしている……そう今は思っています」

 メイドは言葉を一つ一つ汲み取るように頷いた。そして、俺の目をしっかりと見つめて問いただした。

「ではもし、マーティス様が前世の記憶がなくても……あるいはこの先ずっと記憶をなくしていても、パープル様はマーティス様を愛せますか?」

 俺はその問いに即答で答えた。

「愛せる!愛してみせる!俺はにえがどんな姿になろうとも、どこへだって見つけて、愛してみせる!」

 メイドは眉をひそめて強く釘を打つように言葉を放つ。

「では逆にマーティス様はどう思われてると思いますか?以前自分を愛してくれた男性が記憶を忘れても、なお自分を愛してくれると思いますか?」

 俺は目を丸くして驚いた。考えても見なかったのだ。にえは俺の記憶が戻る前のパープルに愛されていた……それすら思い出せない。それが一日にして別人になっても愛してくれるのか……正直分からなかった。相手が同じ立場ならどう考えているのだろう……気になるが今答えはどーしても出てこなかった。

 そんな事を考えているうちにランがいつの間にか後ろに立っていた。

「なんのつもりですか?シアン・ヴィヴェラン・ラ・プルミエール」

 メイドシアンはランを見るなりフゥっと1つ息を吐くと、ニコリと笑みを浮かべた。

「なんでもありません。少しお嬢様と戯れていただけです」

 シアンは俺の肩に手を載せると、小さな声で「応援していますよ」と呟いて去ってしまった。

ーーーーーーーーーーーー

 ランはシアンの姿が消えると、懐から手紙を取りだした。

「誠くん、君宛に手紙だ」

 俺は佐野ランの手に持つ封筒を開けると、そこには2枚の便箋が入っていた。送り主はマーティスだった。俺はにえからもらった手紙だとはしゃぐ気持ちを抑えきれず、その手紙を読み始めた。

 "パープル様へ
先日はお会いできて光栄でした。あなたのお姿を少しでも見られて私は満足致しました。先日は突然飛び出してしまい申し訳ございません。あまりに心が同様してしまったもので……しかし、あなたには私とは別の想い人がいるようです。私の過去の姿だとパープル様は仰っていましたが、私には残念ながらパープル様のおそばに居た昔の自分の姿を思い出すことは出来ません。ですので舞踏会で共に踊るのはやめましょう。私はあなたの思いに答えられる自信が無いのです。勝手な事を言って申し訳ございません。いい夜を"

 俺は手が震えた。にえに振られたような気持ちになり、心が冷たくなるのを感じた。近くにいる佐野ランを見て手紙を持つ手に力が失われていく。

「にえが……一緒に踊りたくないって……どーしよう……俺、どーすればいい……?」

 俺はその場で頭を抱えた。シアンの言う通りだ……にえにとっての今の俺はパープルとして愛してくれた女性で、その気持ちに俺も答えられていない……こんな時パープルならどうしたのだろう……頭を描きめぐらしてもパープルとしての自分の記憶はひとつとして出てこなかった。俺が頭を悩ませていると、佐野ランが口を開いた。

「それはお前自身が決めることじゃないのか?誠くん」

 俺はやり場のない虚しさを胸に1人頭の中を巡らせた。答えの出ない悩みを抱えたまま、その場を後にした。花々は蕾を開くことなく、下を向いていた。
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