勇者の夢

いちのにか

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中編

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 今夜も無事に討伐を終える。

 上層部への報告を終えた二人が歩みを進めるのは神殿の一室である。禊部屋と称されることもあるその場所は大きめの寝台が一つ置かれただけの簡素な部屋であった。今日の勇者は大した怪我もなく擦り傷や切り傷など目立たない怪我が多い、……が、禊に怪我の度合いは関係ない。魔族と接した時点で勇者は幾らかの瘴気を浴びている。それが蓄積すると身体の中で毒となり命に関わるのだ。

 よいしょ、と寝台に登った聖女は、既に生まれたままの姿である。羞恥心を持つには、彼らは身体を重ね過ぎていた。

 控えめな乳房に薄い腹。なめらかな肌。神が与え賜うた美しい肢体を存分に晒す聖女に、埃まみれの勇者は身を清めるべきか考えあぐねる。

「もっと酷い時なんていくらでもあるでしょう」
 現にこの前は血に染まっていたし。

 当の聖女は呆れた表情を浮かべ勇者を寝台に引っ張り込んだ。されるがまま聖女に覆い被さった勇者は浮かぬ顔である。

 実はここまで意識がはっきりしている状態で禊を行うのは今回が初めてだった。聖女が口にした時とは、大怪我を負っており意識が朦朧としていたり、気絶していたりすることを指している。そう考えると、その時と比べて自分の戦闘技量が向上してきた、とも評価できるのだが、今はそういう話ではない。そもそもそんな状態で禊行為が可能なのか。以前、なんとはなしに聖女に尋ねたことがある。返ってきた答えは、至極シンプルなものだった。

 ——瘴気を浄化する過程で、自然に身体がするみたいで。そこに勇者様の意識の有無は影響しないんです。

 簡潔な答えは、詳しいことは自分もよくわからないという言葉で締めくくられた。これ以上聞いてくれるな、ということだろう。逃避したい気持ちからか無意識に回想を始めた勇者を聖女がじっとりと睨みつける。

「うーん。意識があるのって、いろいろと面倒ですね」

 あまり物事を深く考えない性質なのであろう、聖女は口を尖らせた。あまりの言い草である。そうそう、以前勇者の疑問に返答した彼女は、その時もあんまりな言葉を付け足したのだったな。

 ——自分で動いたほうが、とっとと終わって楽なんです。

 回復に必要なのは『聖女の体液に触れること』である。あけすけな言い方をすれば勇者が精を放つ必要などない。つまり、挿れて終わりといえばそうなのだろう。当の勇者も男の沽券に関わる、と羞恥したり憤慨する程ではない。ただ、情けない、とは思っていた。

 聖女と名はつくが、自分よりも年下のうら若き乙女に、全てを任せる形になってしまっている。ぶんぶくれる聖女を見下ろしたままの勇者は、ひょこりと眉を下げた。

 神託が下っていなければ。
 加護など与えられていなければ。

 きっと彼女は、ただの町娘として平穏な日々を過ごしていたのだろう。決して仕事相手などではない、お互い想い想われる相手に、心から愛され、甘やかされ、温かい家庭を築いていたに違いない。

 何かを考え込んだまま、その場から動かない勇者を見上げた聖女は、一つため息をついた。また面倒なことを考えている、と呆れながら彼の頭を抱き寄せる。そうっと唇を重ねる。繰り返すが恋愛感情などない。これが彼女の使命であり、仕事だ。そして、勇者もそれを理解していた。頭を悩ませながらも勇者が口付けを拒むことはなかった。相手の仕事の邪魔になるからだ。

 重ねられた唇からふ、と生ぬるい息が吹き込まれる。ため息だ。口付けの間にため息をつくなど器用なことをするな、と思いながらも、次第に深くなる口付けに勇者はひたすら応え続ける。

 舌を突かれ、絡み付かせ、吸いあげられる。聖女の体液に接触したことで、早速浄化作用が始まる。勇者の傷があっという間に治癒していく。回復とはその実、勇者の成長速度を早めているに過ぎない。つまり自分にとって彼女との接触は言わば成長促進剤であり、

「……っ」

 勃起を促す媚薬でもあるのだ。強い治癒効果の反動でゆうるり、と彼の下部が反応し始めた。彼の変化に気がついたのだろう、次に唇へと吹き込まれた息はどこか柔らかく、聖女が小さく笑ったのが伝わってくる。不思議と馬鹿にされているようには感じない。どちらかと言うと、慈愛、のような。

 張り詰めていた気持ちが、ふわりと弛む。上手く表現はできないが、暖かい光に包まれているような感覚が全身に広がっていき、同時に、下腹部が完全に勃ったことを自覚する。強い性衝動とは異なり、じんわりとしたあったかい感覚。これが浄化、これが禊。そして……この、胸が締め付けられる感情は。

「ーー」

 勇者は咄嗟に固く瞼を閉じる。浮かび上がった感情をすぐさま否定した。

 ——馬鹿げたことを!

 宿主に受け入れられなかった感情は即座に消え失せ、青ざめた勇者のみが残される。意識を有するが故に、変な感情に翻弄されてしまった自分。遅れて生じたのは強い羞恥だった。








 苦悩する勇者に気が付かぬ聖女は、身体を起こし、そのまま勇者を押し倒した。ここから先は彼女にとっては、何度も経験した流れである。寝台の脇にあるサイドボードから取り出したのは小さな緑色の瓶。栓を抜くととろりとした粘度の高い液体が流れ落ちる。いわゆる潤滑液である。未だされるがままの勇者に跨るようにして、彼の性器と自らの下部にその液体を塗りたくる。こうでもしないと確実に血を見る。勇者のそこは、そう、——なんというかとてもが強いのだ。濡らさなければ、聖女自身が悲惨なことになる。

 恋愛感情のない相手とくれば、彼女のソコが濡れないのは当たり前である。おまけに普段の相手は意識を失っている状態がデフォルトである。愛撫されることもなく、かと言って自分で慰める、というのもあまり気が進まない。自分の身体も勇者システムのように自動的に反応して濡れてくれればいいのに、と思わないこともなかった。

 聖女とて人間だ。万能ではない。初めての禊はそれはもう恥ずかしくて切なくて。あの時は潤滑液の分量を誤りひどい思いをしたっけ。しかしそれももう昔のことだ。幾度も繰り返した今では手慣れたものである。指先から恥部へと伝うヒヤリとした感覚に、思うところがないわけでもない。過去の彼女はうっかり、自分のに触れてしまう事もあった。

 しかしそれだって、もう遥か昔のことなのだ。沢山の悲惨な経験をし尽くした今の彼女は、黙々と手を動かし効率的に作業を進める。そうして、ようやっと、彼女は全ての準備を終え——


「少しだけ我慢してくださいね」

「……っ、」

 この時だけは流石の聖女も眉を寄せ、彼を受け入れる。薄生えのある大陰唇と勇者の反り立つ亀頭が触れ合い、

 ぬちぅ♡
「……ふ、ぅっ」

 聖女が小さく奥歯を噛み締め、再度喉を震わせた。
 この世で最も神聖な場所とされる膣。新たな生命が宿るそこは女性にのみ持つことを許された聖域と称される。特に聖女である彼女の聖域は膨大な聖力を宿している。そのため膣への挿入が最も効果的な浄化法とされているのだ。

「……ぅ、く」
「……っ、」

 息を詰め腰を落としていく彼女。ようやっと我に返った勇者はそんな彼女に罪悪感を覚える。呆けていた自らを叱咤し、慣れないながらも聖女に協力することにした。聖女が求めていることは、何か。以前聞いた言葉が、彼の脳裏を掠める。

 『とっとと、楽に終わらせたい』
 そう、彼女は言っていた、ような?

 きっと、それが望ましいことなのだ。そう考えた勇者は、ゆっくりと彼女の腰に両手を添える。

「ッ」
 不意に触れられたことで、仰天した聖女が思わず身を引きかけ

「ぇ、や、……っ?」

 しかし腰を押さえつけられておりそれは叶わなかった。それどころか、相手がじわじわと腰を進め始め、聖女は思わず身を震わせた。

 にゅぐ♡
「っ!」

 にゅぬるるる♡
「ひ、やぁっ、」

 普段協力動作など一切ない。ぐちぃ♡と中に押し入ってきた熱い塊に経験のない感覚を植え付けた。全身を震わせながら、どうにか逃れようと聖女は身を捩らせ、

「やめ……、それぇ、変な感、……っぁ♡」


 突如、熱く固い肉棒が一点を掠める。途端、聖女の唇が戦慄き、細い喉がひくり、と仰反った。スパークしたような感覚が走り、次いで広がったのは甘やかな快感だった。

「ふ♡っ、……っぐ、ぅ……!」

 聖女は慌てて奥歯を噛み締めて、その波をやり過ごす。

 これは無意味な、全くもって無駄な感覚だ。
 決して、何としてでも、絶対に!
 身を任せてはいけない!!

「うごかない、でぇ……っ!」

 絞り出した声は、みっともなく掠れていた。





 一方の勇者は、あまりにも辛そうな様子の聖女に。

 心底同情していた。


 彼女の中に受け入れてもらう感覚。快感もそうだが、臓腑に溜まった澱みがスッと消えていくような感覚がある。これが浄化されている感覚なのだろうな、と思う。自らはこうして癒してもらっているのに、相手はとても苦しそうにしている。

——いつもこうして耐えていたのか?

 いくらこれが彼女の仕事だとはいえ、苦しませているのは自分だ。彼女に犠牲を敷いていたことを悔やむ。いつもは無意識下であったが、意識のある今はとても見過ごせなかった。この勇者。どうしようもなく善意の塊であった。それが聖女にとって仇となる。

 にゅぢぃ♡
「っ!? ひゅ、っは♡」

 唾液で湿らされた指が、小さな肉芽を摘んだのだ。
 太く節くれだった指は、見た目に似合わない繊細さで彼女の陰核をあやす。

「やぁっ♡ ぁっーーーっ♡」

 初めは優しく、次第に力を加えてこすりあげられ、聖女ははしたない喘ぎ声を堪えきれない。何度もこねられるようにするともはや腰を進めるどころではなく、それどころか白い大腿をガクガクと震わせ動きを止めてしまう。

「そな、ことしなくて、ぇ♡……いいっから」

 眉根は更に深い皺を刻み、余計なことをする勇者を責めていた。そうしてようやっと勇者は察知する。聖女の頬が赤く染まり、その瞳がとろりと溶け始めていることに気がついて仕舞えば、今度は勇者が含み笑を返す番だ。聖女はそれに気がつかない。そんな余裕など与えない。

 一度、もう一度、と陰核をあやしてやる。何度も何度も。それと同時に、腰を進め、そして緩く抜く。それを繰り返し律動の速さや、挿入する角度を変えてみた。

「ぅ、……ぁあっ♡ んぅ、!……っ♡♡♡」

 一際強く彼女が啼いた位置を、彼はきちんと学習理解する。ここ、か。学習したばかりのそこに焦点を絞り、何度も深く打ち付ける。弱いところを重点的に責められた聖女はあられも無い声を出し、助けを乞うた。

「ひ♡ っ……や、やめ、て……っ」
「なぜ」
「いじ、わるっ」

 彼の命を救うため、何度も集中して行ってきた行為。今まで意味で没頭することなどなかった。彼の意識がないことだってザラにあったし、なにより必要性がない。無意味だ。そのはずなのに。

「ひぁあ♡♡♡ 」

 反応する身体が憎たらしい。
 眉根を寄せ快楽に耐える聖女の華奢な指を、勇者はひたりと舐め上げた。

「やぁ……っ♡、も、なに……」

 途端に腰を跳ねさせ、身体をしならせる聖女に感じる温かな感情。先ほど捨て去ったはずのその感情はやはり、名前をつけることすら烏滸がましく。行き場のない想いを勇者は飲み下す。

 そろそろ終わりが近い。

 ヒククッと腰を揺らし、愛液を漏らす聖女からそう判断する。腰を両手で抑え直し逃げ場など与えない。ガツガツと突いてやれば白魚のような滑らかな腰を反らしながら聖女が泣き叫んだ。

「やだ♡ だめぇっ♡ へんなの、クる……っ」

 一突きするたびに、ぴゅくぴゅくと漏れ出るこれは、潮吹きというやつだろうか。

「だめだめだめっ……っぁあ♡ やだぁっ♡ わたしせいじょ、なのにっ」
「おかしなことはない、生理的な反応、だろう?」

 行為を開始した時とは主導権が入れ替わってしまっていた。余裕打っていたはずの聖女は、今では子供のようにベソベソと泣き出していた。そこにいるのは、男に蹂躙される只の哀れな少女でしかない。

「やっ♡ やぁっ、ひ♡ ぁあぁ」

 容赦なく最奥へ打ち据えられた彼女は、一際甲高く鳴き、そしてイった。
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