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残念だけど「諦めません」

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 急な告白に目を白黒させるアンリセラを眺め、セテンスは目を細めた。言葉だけでは伝えきれない慈愛が柔らかな眼差しに溢れ出る。

「え、あっ、えぇっ」

 一度、言い淀み、その後間を置いてから頰を真っ赤に染め上げた彼女は、セテンスの伝えた言葉が冗談の類でないことを判断したようだった。……しかし、理解までには追い付いてはいない。

 ひとまず断られなかったことにほっと胸を撫で下ろしたセテンスは行動を開始した。こういうところでは父から受け継いだ狡猾さがよく働く。つまりは相手が戸惑っている間に全てを終わらせてしまおうと言う魂胆だ。

 彼女には、拒否する暇など与えない。簡単なことだ。

 彼女を構成するものの全てを。
 あっという間に。

 恐怖すら感じさせずに、全てを絡め取って自分のものにさえして仕舞えばいい。

 まずは、の口づけを。そう思い顔を近づけたセテンスは、——すぐに眉間に皺を寄せた。

 みるみるうちに嫌悪感に染まったセテンスの表情に、流石のアンリセラも異変を感じ取ったようで、顔色を無くす。想いを伝えてきたはずの相手に、その後すぐに不快感を催されたのだ。しかも、それはセテンスが初めてアンリセラに向けた、拒絶を示す表情だった。

「リセ、あぁ、リセ、すまない。違うんだ。君を嫌いになったわけじゃない。……だが、やはり、を、してしまう」


 身体を縮こまらせたアンリセラに気が付き、彼女を抱きしめ直したセテンスは悲痛な声色でそう告げた。こればかりは、どうしようもなかった。
 
「どうしても看過できない」

 計画は変更だ。唸るような激情に支配されたセテンスは、アンリセラの首筋に、噛み付いた。 



 常人は感知することなど出来ないだろう。しかし、呪われた血を有したセテンスにはわかる。自らの唯一からは確かに他の男の名残が感じられた。既に何度も浄化した。あの男の腕から奪い返した瞬間、信じられないほどの浄化魔法を施行していた。
 しかし、足りなかった。それではダメなのだ。

「セ、セテンスさ……? っ!」

 あっという間に服を脱がされ、一糸纏わぬ姿となったアンリセラは羞恥に頬を染める。今まで、してもらってきたことを忘れたわけではない。しかし、今までは全て着衣の状態での時間だった。そのままゆったりと寝台に倒される。古い寝台が軋む。アンリセラに覆いかぶさるようにセテンスが乗り上げた。

「あ、あの、その」
「うん、リセは少し口を閉じていて。消毒しなければならないんだ」

 セテンスは美しく微笑んだ。言わんとしていることが全く理解できなかった彼女は、「どこも怪我など」と不安そうに呟きかけ、そんな彼女にセテンスは瞬きを一つ。

「ひぁあぁぁっ♡♡♡」

 状況が理解できないまま、満足に触れられもせずアンリセラは体を弓形にしならせ絶頂した。間髪おかず、嬌声ごと飲み込まれる。

「ンンンーーーーっ♡♡♡」

 唇を割入った舌は熱く彼女を翻弄した。いつか彼女自身が求愛のためにやってみせたような拙い舌技など、足元にも及ばないものだった。長い舌は彼女の喉の奥まで犯し尽くす。呼吸が苦しくなってきたところで唇が離れる。唾液を啜られ、惜しむように舐め上げられる。

「はっはっはっ♡」
 えずくように息を吸い込む彼女の瞳はドロリと淫蕩に染まっていた。何一つ待ってくれない指先が性急に彼女の膣口に捻り込まれ、「っーー♡♡♡」愛液に濡れそぼったそこはにゅぢゅり♡と何の抵抗もなく飲み込んでいく。そして彼女が悶絶するあそこをカリリとやられて仕舞えば彼女は呆気なく絶頂してしまう。そんなふうに躾けられてしまった。いつもは数度愛でてくれるのに、今は慰めてくれることなくあっけなくその指が引き抜かれてしまう。

 切なさに顔を歪めた彼女が見上げたその先、そこには見たことのない青年が立っていた。


 白い肌に加え、瞳の中は角膜や虹彩も全て白い。暗闇の中一筋の光を灯すような白髪を腰高に散らした男はまるで色そのものをごっそりと奪われてしまったような風貌をしていた。今となっては彼を彩るものは纏った黒衣と、まるで血を一滴垂らしたかのようなワインレッド色に染まった瞳孔のみだった。
彼の周囲にはぼんやりと蒼い霧のようなものが立ち上がっていた。

 悩ましげな顔をする、彼は。


——まるで神に遣わされた使者のようだ。

 そんなことを思いながらその美しさにアンリセラは身をすくませる。彼女の反応に気がついた男は、眉間に皺を寄せてひどく苦しそうな笑みを浮かべた。



「すまない、あまりこの姿は見られたくないんだ」
 優しく囁いた彼は、彼女の双眼の上に掌をかぶせ、また瞬きを一つ。視界が上質な薄絹のような感触に包まれ、柔らかく覆われる。おとぎ話に出てくる魔法使いのように神々しく、美麗な男は消え去り、暗闇が広がる。最後に彼女が目にしたその眼差しは、塔の主が時折浮かべるものと瓜二つであった。掌から伝わったささやかな冷たさと、瞼に残るあの眼差しだけが彼がセテンスであることを伝えてくれていた。







「う、っく……、ぁ、は……っ♡」

 薄暗い塔の寝室には、以前のような水音が響いていた。寝台の上には睦み合う男女。しかし、その様相は、明らかに以前とは異なっていた。

 以前は着衣での行為が常であった。しかし、男の愛撫に翻弄される娘は一糸纏わぬ生まれたままの姿を曝け出していた。そして、その娘に絶え間ない快楽を施す男は怜悧な表情を浮かべていた。

「許せない。こんなに、他の男の匂いをさせて」

 そんなことを呟きながら、娘の身体に舌を落とす。顔から首筋に降り立った舌は男の唾液を残しながら、胸、腹、そして恥部にまで至った。以前は何度も欲を解放する瞬間を与えられていた。しかし、今回は始めに一度だけ——それも、ほぼ強制的に——解放させられただけ。快感を高めるだけ高められたまま、お預けをされたままなのだ。たくさんの快楽を注ぎ込まれ、しかしいつまで経っても決定打は与えられない。アンリセラはまるで気が狂いそうになりながら、必死でその時を待った。

 舌によって施される愛撫とは別に、彼女のナカを好き勝手する指の本数が増やされる。異物感と圧迫感と、それと同等の快楽と。もどかしい思いは、何かに迫られているような焦りへと変わり、耐えきれなくなったアンリセラはついに声を上げた。

「おねが、……っ、も、う……!」

  何を求めているかなんて、分かりきっていた。

 義兄を前にして、硬直したはずの身体は、彼の前になるとこんなにも浅ましく欲を求めるのだ。自らの腰を押し当てるようにして、彼女は懇願した。

 彼からの返答はない。その代わり、息を呑むような音が聞こえる。間をおかずにアンリセラのトロトロに溶かされた秘部に、熱くて硬い何かを擦り付けられる。

 やっと、……!

 待ち侘びたその感覚はアンリセラを歓喜の渦に叩き込む。
 数度擦り付けられたそれに身をくねらせながらアンリセラはその時を待った。

 にゅくぅ♡
「リセ、挿れるよ」

 ぬぢぢぢ♡ ぬゅりゅりゅりゅ♡
 「~ッ、……!」

 彼の確認に、言葉を返す暇もなく腰をすすめられる。急に訪れた強い圧迫感に思わずアンリセラは息を詰めた。眉を寄せる彼女の上でセテンスは、そっとような気がした。

「リセ、苦しい?」

 しわがれた声で気遣いの言葉が落とされる。

 あぁ、いつものセテンス様だ。

 なれない異物感と圧迫感に翻弄され涙を滲ませながらも、聞き慣れた声に安堵する。アンリセラは口角を緩め、本心からの言葉を告げる。

 「ぅ……へ、き、です。こ、の、っ……まま、せて、すさま、がほし、……っ!いぁあっ」

 彼女の言葉が届くか届かないかというその瞬間、一気に腰を押し進められ、思わずアンリセラは悲鳴を上げた。

「痛いのも、苦しいのも。全部、全部、私のせいだからね。リセ、私が、悪いんだ」

 ぎうぅ、と抱きしめられ、更に奥まで圧迫される。決して逃さないというように深く打ち込まれた楔は、ひどく熱く、そして信じられないほどの質量を有していた。まるで彼の執着心を表しているようで。入念に解されたはずのそこは、あっという間に自らの許容量を超え悲鳴を上げるように引き攣れる。襲いくる痛みと苦しさに、眉間に皺を寄せたアンリセラは思わず悲鳴を漏らす。

「ひ、ぁ、あ」
「リセ、私を責めて。こうやって、君に無体なことをする、私を許さないで」


「すまない、すまない、リセ」
「……っ、ぅ、」

「残念だが、私は、……もう、君を手放すことなど、出来ない……リセ、諦めてくれ」


 切ない声音がアンリセラの身体全体に染み渡る。
 歓喜と苦しさと。
 戸惑いと切なさと。
 取り止めのない感情に支配されたアンリセラはふと、視界を遮る前のセテンスの表情を思い出す。

 わずかに顔を歪めた彼は、悲しげな顔をしていた。それはまるで彼女が彼を拒むことを恐れているかのように映って。

「……っ、~~~!」

 すぐにでも途絶えてしまいそうな自らの意識を何とか繋いだアンリセラは、覚悟を決めた。強張った下半身など、どうでも良い。彼の身体を抱きしめ、なんとか手繰り寄せた大きな掌にその顔を擦り付けるようにして。

 彼女は、表現できる限りのを伝える。


「嫌、で……、す……!」
「っ、」

——やはり私など、認めてもらえ、ない?

 思いがけず彼女に拒絶されたセテンスは、弾かれたように身体を引きかける。幼少期に感じていた孤独感が深い闇を伴い彼に襲いかかってくるような錯覚に陥る。何にも縋れなかった子どもは恐怖のあまり後退しかけ、……、しかし、背に絡みついた細腕にそれは許されなかった。

「諦める、んじゃなくて……!
 わたしが、あなたと一緒に、歩みたいんです……!」

 彼の戸惑いを、怯む心を、固まる身体さえも。
 アンリセラは小さな全身を全て使って抱きしめる。

「わたしが、自分の意思で、セテンス様と、生きたいと思ったんです!」

 キラキラと光るその瞳には、戸惑いも不安も、恐れなんていちミリも存在しない。これから待ち受けるのはまるで希望のみだと言わんばかりの自信を宿していた。

「セテンス様、好きです。大好き」
「私を救ってくれたあなたが好き」
「私を見つけてくれたあなたが好き」
「自信がなくて、不器用なセテンス様が好きです」

「それ、は……、とても熱烈な告白だな」

 不意に、しわがれた声が耳を打ち、目隠し代わりの薄衣が消え去った。顔を上げるとそこには見慣れた風態のセテンスがいた。ライラックグレーのうねった髪も、色素の薄い双眼も。アンリセラの汚いところも全て、理解し、受け入れてくれる存在。へにょりと下がった眉は、いつものように自信なさげに八の字を描いていて。やっと顔を見せた男にアンリセラは視線を合わせもう一度だけ告げた。

「セテンス様、好きです。心の底からお慕いしております」

色素の薄い目がじわりと潤みはじめる。今にも泣き出しそうな男に、アンリセラも涙を堪え、震える声で笑いかけた。

「覚悟、してくださいね」







「……っ、望むところ、だ」

 全身で愛を表現したアンリセラは、間髪入れずにもどかしい快楽の波に押し戻される。

「君という人は……!」
 にちち、ぐちぃ♡ ぬぢぅ♡
「ぁぁっ! ……っぅ、あ……、は」


 ゆるゆると抜け出た剛直を、一息で突き入れられる。脳天を撃ち抜かれたような刺激に幾度も気をやりそうになった。しかし今この場で気絶するわけにはいかないのだ。アンリセラを翻弄してやまない彼に、アンリセラができることと言ったら、

「セテ、ンス様ぁっ、セテンス様ぁぁ♡」

——その熟れた唇で、ひたすら彼の名前を繰り返すのみだった。

 時折落とされる冷たい唇も。彼女の中を優しく掻き回してくれる、燃え滾るような欲望も。その全てが愛しくて、彼女はほろほろと涙をこぼした。

 強い愛情は痛みさえ凌駕した。段々と、下腹部に妖しい感覚が育ち始める。以前は指で愛でてもらっていたその場所。比べ物にならない質量を持った剛直に擦り上げられたらどうなるか。深い慈愛に溢れていた瞳は段々と欲に濡れ始め、何かに耐えるような声音も甘い響きへと変化し始める。

「ぁ、はぁ♡ きたぁ♡ っ……もっとぉ……いっぱい♡ リセの中、たくさんたくさん、いっぱいにして?」
「お望み通りに」

 ぬぢぢぢ♡ ぬこぉ♡ ぬこぉ♡ ぬこぉ♡

「ぁ、そこやぁ、♡ ……そこぉ、…ぁっ♡ あっ♡ ぁっ♡♡♡ ぁー♡♡♡」

 身体から力が抜け、完全に身を預けるような形になったアンリセラを眺め、セテンスの繰り出す声も自然と柔らかいものに変わる。

「リセ、気持ち良くて、たくさんお漏らししそうな時は、イくって言って教えて?」

「は、っ♡ ィきますぅうぅ♡♡ ィっ、イく♡ イく♡ ィく♡♡♡ ひぁあぁーーーっ♡♡♡!!」

 勢いよく訪れた未知の感覚は、アンリセラの身体の芯を甘く切なく染め上げた。まるでセテンスへの愛が全身に広がっていくような感覚だった。信じられないほどの多幸感に、ぎぅ、と唇を噛み締めた彼女は時折体を震わせながら、長いオーガズムに身を任せた。








 あれから数日経ち、なんら変わらない日常が戻ってきた。セテンスは王に命じられるまま古代書物を訳したし、アンリセラは甲斐甲斐しく生活のサポートを行った。

 少しだけ変化した点といえば、セテンスがエスターとアンリセラの間に結ばれていた雇用主契約を切ったことだった。ワケ知り顔でニヤつくエスターを無愛想に追い出したセテンスは状況を飲み込めずにキョトンとしたアンリセラの前に新たな契約書を差し出した。そこに記されていた雇用主の名前は——


「私の世話を頼むのだから、私が雇用するべきだろう」

 そう告げた新しい雇用主、兼は少しだけ耳を染めている。契約書をそっと胸に抱き込んだアンリセラは、じんわりと微笑んだ。


「はい、これからもずっと。よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 小さく握手を交わした二人を天窓から差し込んだ穏やかな陽の光が照らしていた。


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