囚われの踊り手は闇に舞う

徒然

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「本日の特別なペット踊り手はこちらでございます。さ、お客様にご挨拶なさい」
 ヤヒロがリードを外すと、じゃらり、と鎖の擦れる音が響く。纏ったガウンの上から鎖をかけられた男性が、その場に跪く。そして神崎の目を真っ直ぐ見つめながら、口を開いた。
「レイと申します。今宵の舞を貴方様に捧げたいと思います。どうか、鍵を開けてくださいませんか」
 膝だけで舞台の際まで進んできたレイに、神崎が歩み寄る。癖のある長い金髪。透き通る空色の瞳と、淡く色づく唇。そして何より、壮絶なまでの色気を纏っていて、神崎は思わず生唾を呑み込んだ。
 ――これはまた、綺麗な男だな。
 レイを戒める鎖は、胸元の南京錠で留められている。薄らと汗をかいているようだし、舞台は暑いのだろう。鍵束の中から鍵を選んで差し込むこと何度目かで、カチリと解錠の音が響いた。
 神崎がヤヒロの方を見ると、一つ頷いた。神崎は指を南京錠に掛け、鎖から抜き取った。
 じゃらり、じゃらり。重力に従ってガウンから滑り落ちた鎖が、とぐろを巻くように折り重なった。
 解放されたはずのレイは、頬を染めて唇を噛み締めながら俯いている。不思議に思った神崎は、ヤヒロに助けを求めた。
「ありがとうございます。恐れ入りますが、ガウンもお願いできますでしょうか」
 レイは震えながら頭を下げる。じゃらり、と、外したはずの鎖の音が響く。
「お客様、どうぞお願い致します」
 震える声と共に、指が差し出される。そのまま床に三指を付き、レイは深く頭を下げた。
「分かりました。頭を上げてください。……少し、触れますよ」
 神崎が一言声を掛けると、肩が跳ねた。ゆっくり上げられた顔は羞恥に赤く染まり、空気に飲まれた神崎まで頬が染る。
 ガウンを脱がせるために両手を首筋に差し込む。
「……っ」
 指先に届いたのは、肌ではない感触。その正体を知りたくて、神崎は首筋から肩口へと、慎重にガウンを払っていく。
 顕になった首には黒く無骨な首輪。開いた袷から見える、肌が透けて見える淫らな衣装。無駄な肉のない、鍛えられた美しい身体。
 肩からガウンを滑り落として現れたレイの両腕には、黒く重そうな手枷と長い鎖。そして。脚の間のペニスが、薄らと透けて見えている。
「粗相は致しません。ご安心ください」
 そこを凝視した神崎に、レイが薄い布を払って見せた。
「こ、れは……」
 ペニスの根元を幅広の輪で戒め、下に垂れた形のままで、ペニスの形に沿うように巡らされたワイヤー。竿に二箇所、括れに一箇所、輪が通してある。そしてその先端には。
「舞台の上で射精でき粗相をしないよう、堰き止めております。これらの鍵も貴方様のお手元に」
 尿道に刺さる棒が抜けないよう、先端まで巡るワイヤー。よく見ると、睾丸も金具が回してある。
「これ、は。外したほうが、良いですか」
 どうすれば良いか分からない。混乱しつつレイに問うと、レイは淡く微笑んで首を降った。
「舞い終わりますまで、どうかこのままで。その後は――」
 レイは目をふせ、艶やかに笑む。
「もしも今宵の舞がお気に召しましたら、一夜のお情けを賜れますと幸いです」
 レイは股間の薄衣を掛け直す。やはりそういう事か、と曖昧に頷いた神崎を見て、嬉しそうに頬を緩ませた。
「お待たせ致しました。今宵のペット踊り手の芸を、どうぞご覧ください」

 神崎は呆然としながら、手近な椅子に腰を落とす。ヤヒロの言葉を合図に、レイがすっと立ち上がった。
『あぁ……』
 ざわめき、どよめきがこの場を支配する。胸元が隠れる丈の薄衣は、後身頃が長い。胸元に淡く透けて見えるのは乳首だろう。ウエストに巻き付けられた細い何条かの鎖の一つから、股間を隠す小さな布が下がっている。両腰から太ももの内側へと、筒状に下がる薄衣はズボンの代わりだろうか。どれも淡い水色で、その透け感から、身体の線を隠す気がないどころか、レイの身体をより淫らに飾り立てている。
 じゃら、と鎖が鳴る。両足首にも黒い枷があり、長い鎖で繋がっている。
 ――彫刻のように美しい……だが、これでは……彼がまるで囚人のようではないか。
 神崎の感想は、ある意味では合っていた。そんな神崎の哀れみの視線に気付いたレイは、苦々しい気持ちを押し殺しながら、ヤヒロに何か口パクで伝えた。
 ――たとえこの人が私の姿を哀れんだだけだとしても……、それでも私は、私を人として気遣ってくれたこの人に、誘うためではない舞を見せたい。
 滅多にないレイの要望を意外に感じつつ、ヤヒロがしっかりと頷く。仕事とはいえ、ヤヒロはレイに散々なことをしている。本当は普段の淫らな舞よりも、今から見せるであろう舞の方を好むことも。それを知りながら、淫らに舞って男性を誘うことを強要していることも。
 ――すまん。
 絶対に告げられない謝罪を込めて、ヤヒロはもう一度頷いてみせる。レイは微笑み、一礼をして、前を向いたまま檻へと向かう。そして、檻から鞘に包まれた刀を取り出して神崎の元へと戻ると、その鞘に口付けた。
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