囚われの踊り手は闇に舞う

徒然

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 こんなに甘やかに触れられたことなどあっただろうか。
 ――ただ一夜、この身体を明け渡す相手でしかないことに、違いはないのに。
 部屋に入れば即座に媚薬の回った身体を相手の好き放題され、朝になれば体液に汚れた身体を捨て置かれる。そこに日常会話は必要ない、はずだった。
「聞かせて、レイ。そしてお前を早く抱かせて」
 ふと耳に届いた、神崎の懇願。腰に感じる熱は衰えず、耳を掠める吐息は甘い。
 するり、と、戒められたペニスに神崎の指が這う。ぎり、と締め付けられる痛みに甘く喘ぎ、それが媚薬の存在を思い出させた。

 ◇◆◇◆◇

 男娼になる直前の踊り手の頃。弥生と二人、吊るされた男性を鞭打ったあの夜。与えられた衣装は薄手であっても、透けるものでは無かった。ただ、真っ白だったそれは汗で濡れると若干透けるぞ、と弥生にからかわれていた。
 その日も鎖を布のようにさばきながら踊っていた。その頃の枷に付けられていたのはもう少し細い鎖で、銀色のそれがきらきらしていて、動くたびにしゃらりと鳴って、踊ることが純粋に好きだった。それが、欲を煽るための淫らな踊りだとしても。
 衣装の腰布まわりは今と同じ作りで、鎖に下がる腰布と、鎖の先にある錘代わりの宝石風の飾り。引っ張らない限りは弛みにくいこれは、その日の気分で振り付けを変えられて好きだった。

 ヤヒロは、舞台の上で性器をわざと露出するのを嫌がったし、レイもそうだった。
『お前は身振と踊りだけで男を落とせ。それがお前の価値を高める』
 そうヤヒロに言われたレイは、鏡の前で様々な動きを試し、衣装の揺れ方を含めて研究した。

 それが起きたのは、衣装を新調した日だった。いつものように全裸に衣装だけを纏い、手足に枷を付ける。鎖を鳴らし、身体をくねらせて踊る。媚薬と擦れる布に刺激され、踊りながらペニスを勃起させてしまうのもいつものことだった。
 ペニスが腰布を押し上げた分だけ、腰布を下ろす振りをしてペニスが出ないように布の位置を調節する。ただ、それを踊りの振り付けとして行うと、勢いもつくし、力加減が上手くできない。鎖の錘が引っかかることで、どうにか制御していたのだ。

 でも、その日は衣装の確認をする時間がないまま舞台に上がった。媚薬もいつもより効きが早い気がした。

 踊るうち、ペニスが熱を持ち始めた。先端が擦られる感覚に、布を引き出し、いつものようにペニスの竿に沿って撫でるように纏わせて隠すことにした。
 鎖に指をかけて布を下げる。竿の途中で布が止まり、そのまま布の上から先端を包み、手を離す。いつもの振り付けが、その日はうまく行かなかった。
 新調された衣装の鎖が、いつもより長かったから。
 竿の部分で指が止まらず、鎖がざりざりと、ペニスを撫でながら滑っていく。あ、と思った時には遅かった。鎖は竿を通り過ぎ、固く勃起した先端まで剥き出しになる。そして、細い鎖に撫でられ、掌で激しく擦られたペニスは……あっけなく、吐精してしまった。

 ◇◆◇◆◇

「その日の舞台は、失敗に終わった。失態を犯した私はその日から数日、客を取ることを許されず、再教育の部屋に閉じ込められて、ヤヒロの命令のもと、弥生に滅多打ちにされた。他の、加虐の役割を与えられた踊り手たちも、私に思い思いに仕置をしていったよ。そして、ペニスを晒しただけでなく、射精までしてしまった私の衣装に、勃起と射精を封じる貞操帯が加わったんだ」
 レイはふっと笑い、後孔に埋まるものに意識を向ける。今も、疼く場所を押し開いたままのもの。
「それから私は、男娼教育としてこの部屋に連れてこられ、まずアナルの開発をされた。慣れない貞操帯の痛みを紛らわせるために、徹底的に快感を教えこまれた私の身体は、踊る時までコレで快楽を得られるように変えられた」
 レイは自嘲を浮かべ、飾り棚を見つめる。ヤヒロの当初の予定よりも淫乱に、深い被虐を求めるようになったのも、再教育がきっかけだ。
「この部屋にある道具や器具は一通り使われたことがある。面白がったヤヒロが、この際だから全身を性感帯にするのだと張り切ってね。たとえば」
 レイは振り返り、唖然とする神崎の手を取り、指先に口付けた。視線を絡ませたまま、指の腹に舌を這わせて舐め上げる。息を飲む神崎のペニスを咥えるように、指先を口に含んだ。
 目を溶かし、息を乱して指を抜き差しする。神崎が爪で舌を擽ると、レイがびくりと跳ねた。
 じゅぶ、と音を立てながら、指がレイの口蓋を擦り、舌の付け根で撫でられる。
「レイ……、待て。これ以上は苦しいだろう?」
 不安げに見つめる神崎に微笑み、レイは躊躇いなく指を突き込む。口蓋垂の更に奥、ざらつく粘膜で指先を愛撫しながら、体積を増した神崎のペニスを腰に感じる。
 ずるりと引き抜かれた指には、粘ついた唾液が糸を垂らした。
「ここも、私の性感帯だから平気、というか、気持ちいいんだ。口もアナルも、……ペニスの穴でさえもね」
 気遣わしげに見つめられ、レイは苦笑を浮かべる。そして思い当たったように一つ頷く。
「どうやら自覚はなかったけど、……私は、縄で吊るされる彼が羨ましかったんだと思うよ」
 白い肌に食い込む赤い縄。口を乱暴に封じる猿轡。膝は大きく割開かれ、折り畳まれて釣り上げられて。
 抵抗も許されず、生殺与奪を相手に握られる。いくら泣き叫ぼうと相手が満足するまでうち据えられて、道具のように男性の欲を向けられて汚される。
 それは、今のレイには、酷く甘美なものに思えた。
「だからこの部屋は、私の……望むもの、なんだろう」
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