囚われの踊り手は闇に舞う

徒然

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 はぁっ、とレイが甘く息を吐く。ぐるぐると頭を巡るのは、陵辱された日々。痛めつけられ、虐げられてなお、媚薬を口実に快楽に溺れて何度も精を受けながら達して。
「私は……、これが、望みだったんだろうか」
 出番だと言われ、犯される支度をするのも。気が進まない、慣れないと言いながら身体を拓かれるのも。
 混乱し始めたレイの髪を、神崎が優しく撫でて引き寄せる。胸元に引き寄せ、額に口付けた。耳に感じる神崎の力強い鼓動に、レイが少し落ち着きを見せたことに、神崎はひっそりと息を吐いた。
「考えたこともなかったんだな」
 レイに掛けられた声は優しく甘く、憐れむのではなく労るような温かさがあった。
 ――確かに、考えたこともないかも知れない。
 ヤヒロの調教は厳しく、徹底していた。そんな日々に、自分の希望など思う余裕はなかった。
「もし、身体が大丈夫なら……、お前のことを教えてくれないか」
 媚薬に煽られていた熱は、レイの混乱により気にならない程度になっている。治まったのではなく、それどころではなくなっただけだ。レイが落ち着いたら、ぶり返しがおこるだろう。
 そう予測を立てたレイは、温かな胸元に頬を擦り寄せた。
「聞いてもつまらないと思うよ?……他の男に、抱かれた話しになるだろうし」
 嫌な思いをさせたくないのだと示せば、神崎はクッと喉で笑う。
「構わないさ。……今日、どう抱けばお前を悦ばせられるかを知りたいだけだ」
 するりとレイの顎の下を撫で、触れるだけの口付けを落とす。頬を赤らめたレイに微笑み、壁に背を預ける形でベッドに座り、レイを招く。レイはおずおずと足の間に座って神崎に背を預けると、ゆるりと胸の中に抱き締められた。
「頭の中が纏まらなくて。とりとめもない昔話になるけど、いい?」
 戸惑いながら神崎を見上げるレイに、神崎は笑って頷いた。

「レイ、というのは、ここで与えられた名前なんだよ」
 そう前置きをして、レイはゆったりと目を閉じて神崎に身体を預ける。これから話すのは、自分の寒々しい過去。楽しかった記憶など一切ない、つまらない話だ。
 ――それでも私は、他でもない貴方の願いならば……叶えたいと、思うのか。
 ちらりと神崎を盗み見ると、神崎は思いのほか穏やかな表情でレイに微笑みかけた。
 それに励まされるように、レイは一つ息を付いて、「レイ」としての始まりを辿る。

 ◇◆◇◆◇

 まだ子供の頃、レイは身代金目当ての人攫いにあった。保護者を問われたレイは、身を寄せていた孤児院の名前を上げた。人攫いは金にならないことに腹を立て、レイを罵倒した。牢屋に縛り付けられ、人攫いが鞭を振りかざした時、頭領と呼ばれていた男が制止した。
「傷を付けるな。こいつはそれだけで金になる」
 それからは牢屋に閉じ込められ、最低限の食事を与えられていた。
 ある日、頭領が連れてきたのがヤヒロだった。ヤヒロはレイを見るなり目を見開き、頭領と即座に話をつけたようだ。

 ヤヒロに連れてこられたのが此処だった。綺麗に身体を清められ、髪を整えたレイに、レイという名を与えたのもヤヒロだ。そこで何年か、踊り手の訓練を受けた。
 少年と青年の間くらいの年齢になったある夜、レイは夜中に起こされた。逃げられないように全裸にされ、後ろ手に縛られた状態で和室に連れていかれた。周りを見ると、同じ年頃の男性の踊り手が同じ格好で集められていた。
 その部屋の中心に、全身を縛られた男性が吊るされていた。ヤヒロは男性に猿轡を施して犯し、抵抗のできない身体を鞭打った。苦しげに顔を歪める男性が、目の前でヤヒロに陵辱される姿から目が離せなかった。
 身体が熱くなったレイのペニスが痛いほど張り詰めた。それは、初めて感じる性的な興奮。
 ペニスを勃たせていたのはレイともう一人、弥生という踊り手だけだった。他の人たちは多分、このおかしな状況に恐怖していたのだと思う。
 ヤヒロは、レイと弥生を部屋に残して後は追い出した。
 ヤヒロはまず、レイを呼んだ。その手に鞭を握らせ、吊るされて無惨な姿を晒す男性を打ち据えろと命令した。手加減するなよと送られて、レイは男性の目の前に立たされる。
 怯えた視線が、懇願するような視線がレイにまとわりつく。彼にレイが鞭を降り下ろせたのは三回ほど。ヤヒロから合格は貰えなかった。
 弥生は逆に、鞭を手にした瞬間、嬉しそうに微笑んだ。手を縛り直されたレイの前を通る時、「いっそお前を打ちたいよ」と囁かれ、レイの息が乱れた。
 弥生の鞭さばきは思い切りが良く、振り抜いた後には赤い筋がはっきりと出ていた。猿轡を外して、悲鳴をあげさせた。そうして何度も何度も、彼が泣き叫んで止めてくれと懇願すれば再び猿轡で黙らせて。ヤヒロが弥生を止めに入るまで、弥生は男性を滅多打ちにしながら……ペニスを雄々しく滾らせていた。
 恐らく、そこで衣装が決まったのだろう。レイに与えられたのは、被虐の印である、首輪と手枷と足枷。弥生は加虐の印の、革のチューブトップのような上衣と、同じ革のホットパンツで、どちらも身体のラインに沿った、ぴっちりした衣装だった。

 ◇◆◇◆◇

 レイはそこまで話すと、大きく息を吐いた。神崎は目を細めてレイを撫でる。
「なるほどね。枷は分かった。それで、コレは?」
 するり、とレイの腰布を跳ね除けると現れる、レイのペニス。それをつつきながら竿を撫で上げると、レイの肩が震えて溜息が洩れた。
「教えてくれたらあとは、俺に任せてくれたらいい。だからあと少しだけ、愛し方を探させて?」
 耳元に囁かれ、レイの眦に涙が浮かぶ。それを神崎が舌で舐め取り、ほら、と促した。
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