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荒く息を吐くレイの背中を、神崎があやすように撫でる。少し落ち着いた頃、神崎がレイを抱き締めて耳元に口を添えた。
「頑張ったレイに、ご褒美をやりたいんだが」
神崎はレイの耳朶に舌を這わせ、息を吹き込みながら、腰をレイに押し付ける。
「恋人として優しく抱かれるのと、踊り手として身動きが取れないほど拘束されたまま犯されるの。最初はどちらがいい?」
ぞくり、とレイの背筋に快感が走る。
「最初……?」
振り仰ぎ、神崎の言葉尻を捉える声は欲に塗れた期待を多分に含んでいて、神崎はにやりと笑みを浮かべた。
「ああ。どうせ何度も抱くし、恋人を選んでも最終的にはきっと、拘束もするし、レイが嫌がっても犯すよ。飾り棚の道具も使ってやりたいし。でも、最初だけはご褒美に選ばせてやる」
神崎の、支配的な瞳が煌めく。その強い眼差しに、レイの心まで縛られそうになる。
「恋人がいい?踊り手で居たい?」
神崎は、探るようにレイの目を見つめている。レイがどちらを選ぶかは賭けだ。
――仮初の恋人を選んで欲しいなど……。
思わぬ提案に迷うレイに、神崎はそっと口付ける。髪を撫で、頬にも口付けを落としながら。
「俺のオススメは、恋人として甘く甘く蕩かされる方なんだけど?」
犯すより愛させて、と耳に吹き込む。話から、態度から、レイが真面目であることは想像が付く。選んで欲しい方を示さなければ、こんな立場なのだから、などと言って、男娼であろうとするだろう。
――恋人……?この、私が?
自分がどう扱われるかを自分に委ねられたことなどないレイは、その言葉の真偽を確かめようと神崎を見つめる。目を細めて見つめ返す神崎の目は甘く、ともすれば愛しさすら見えてきそうで。
――それを選んでも、いいのか?私は……っ。
こんな衣装で踊るレイは、手酷く抱かれることに慣れていた。性急に、身勝手に抱かれ、鞭も蝋燭も使って責め立てられる。首絞めなどの危険な行為もたまにあるが、そもそも普段は別の、プレイ用の部屋に案内している。そこはきちんと監視されていて、相手がレイに何らかの危害を加えようとすると、ヤヒロが助けに来るようにできていた。
客を取らせる男娼や娼婦が一日一人しかいないのは、監視とスタッフの休息のため。誰が客を取っていても、無闇に心身を傷付けられないようヤヒロ自身が護る。調教や仕事内容自体でスタッフに負担をかけている自覚があるヤヒロなりの、ギリギリの線引きだった。
だがこの部屋は私的な空間のため、それが期待できない。レイ自身が、ヤヒロの監視はいらないとはねつけた。つまり、レイはここで、神崎に何をどうされても、仮に殺されかけても、逃げられないし助けは来ない。
「ケン、私は……」
――ケンは、初めから他の客とは何かが違うと思っていた。男相手が初めてとは思えないほど順応していることが不安ではあるけれど。
レイは内心そう呟き、神崎を見つめる。甘く欲を灯した目とは裏腹に、手は労わるように優しくレイを撫でている。その手つきの甘やかさに、一夜限りの恋人だという言葉を思い出した。それに縋りたくなってしまった。
「もし許されるなら、最初と最後は……、優しくしてくれる?」
――恋人などと、こんな私が言うべきではないのは分かっているけど。
葛藤の末出された答えに、神崎が安堵の息を吐く。褒めるように撫で、口付けると、神崎が綺麗に笑んだ。
「嬉しいよ、レイ」
レイは迷いのある儚げな笑みを浮かべ、神崎に向き直る。手でそっと、神崎の頬を撫でてみる。精悍な顔立ちに、丸みの少ない頬。雄々しいという言葉が似合う、凛々しい顔。
「恋人のように抱いてくれたら……あとはどんな行為も喜んで受け入れる。それに」
レイが、ふわりと神崎に抱きつく。首筋に擦り寄り甘えながら、逞しい首筋に口付けた。
神崎は驚きつつ、甘えてきたレイを撫でる。頭頂部に口付けを落としながら、レイの言葉を待った。
「初めて優しくされるなら、ケン、貴方がいい」
ぽつりと、呟きよりも小さく告げた言葉に、神崎はレイを掻き抱く。
――同情でもいい。後でどれだけ虚しくなってもいいから……。
レイは抱きついた腕に力を込める。辛そうに顔を歪める神崎を見つめながら、レイはふわりと笑った。
「この場限りの言葉でいい。今夜だけ、嘘でもいいから……好きだと言いながら抱いて欲しい」
その言葉と微笑みが痛ましい。普通に暮らしていれば極当たり前な、控え目な願いに神崎の心が震える。
レイがありったけの勇気を絞り出し、男娼の立場を捨てた。そのことが、心のどこかにあった、歪な経験しか知らないレイを抱くことに対しての、躊躇いを消した。
不安に揺れる目に微笑みかけ、レイの唇に触れるだけの口付けを贈った。
――溺れるほど、甘やかしてやりたい。
そう思った神崎の目は、欲の中に別の色を宿した。
「分かった。じゃあ、衣装を脱いで。枷も外すから、一緒に風呂に入ろう」
目を丸くするレイに、神崎は優しく微笑んでみせる。
「恋人、だろう?初めて抱くのに余分なものはいらない。それとも、俺に全裸は晒せない?」
甘い甘い囁きは毒。レイの心にそれが染み込み、血液と共に駆け巡る。
「好きだよ、レイ。さあ脱いで」
耳にそう吹き込まれただけで、レイのペニスからとろりと、精液が涙のように零れ落ちた。
「頑張ったレイに、ご褒美をやりたいんだが」
神崎はレイの耳朶に舌を這わせ、息を吹き込みながら、腰をレイに押し付ける。
「恋人として優しく抱かれるのと、踊り手として身動きが取れないほど拘束されたまま犯されるの。最初はどちらがいい?」
ぞくり、とレイの背筋に快感が走る。
「最初……?」
振り仰ぎ、神崎の言葉尻を捉える声は欲に塗れた期待を多分に含んでいて、神崎はにやりと笑みを浮かべた。
「ああ。どうせ何度も抱くし、恋人を選んでも最終的にはきっと、拘束もするし、レイが嫌がっても犯すよ。飾り棚の道具も使ってやりたいし。でも、最初だけはご褒美に選ばせてやる」
神崎の、支配的な瞳が煌めく。その強い眼差しに、レイの心まで縛られそうになる。
「恋人がいい?踊り手で居たい?」
神崎は、探るようにレイの目を見つめている。レイがどちらを選ぶかは賭けだ。
――仮初の恋人を選んで欲しいなど……。
思わぬ提案に迷うレイに、神崎はそっと口付ける。髪を撫で、頬にも口付けを落としながら。
「俺のオススメは、恋人として甘く甘く蕩かされる方なんだけど?」
犯すより愛させて、と耳に吹き込む。話から、態度から、レイが真面目であることは想像が付く。選んで欲しい方を示さなければ、こんな立場なのだから、などと言って、男娼であろうとするだろう。
――恋人……?この、私が?
自分がどう扱われるかを自分に委ねられたことなどないレイは、その言葉の真偽を確かめようと神崎を見つめる。目を細めて見つめ返す神崎の目は甘く、ともすれば愛しさすら見えてきそうで。
――それを選んでも、いいのか?私は……っ。
こんな衣装で踊るレイは、手酷く抱かれることに慣れていた。性急に、身勝手に抱かれ、鞭も蝋燭も使って責め立てられる。首絞めなどの危険な行為もたまにあるが、そもそも普段は別の、プレイ用の部屋に案内している。そこはきちんと監視されていて、相手がレイに何らかの危害を加えようとすると、ヤヒロが助けに来るようにできていた。
客を取らせる男娼や娼婦が一日一人しかいないのは、監視とスタッフの休息のため。誰が客を取っていても、無闇に心身を傷付けられないようヤヒロ自身が護る。調教や仕事内容自体でスタッフに負担をかけている自覚があるヤヒロなりの、ギリギリの線引きだった。
だがこの部屋は私的な空間のため、それが期待できない。レイ自身が、ヤヒロの監視はいらないとはねつけた。つまり、レイはここで、神崎に何をどうされても、仮に殺されかけても、逃げられないし助けは来ない。
「ケン、私は……」
――ケンは、初めから他の客とは何かが違うと思っていた。男相手が初めてとは思えないほど順応していることが不安ではあるけれど。
レイは内心そう呟き、神崎を見つめる。甘く欲を灯した目とは裏腹に、手は労わるように優しくレイを撫でている。その手つきの甘やかさに、一夜限りの恋人だという言葉を思い出した。それに縋りたくなってしまった。
「もし許されるなら、最初と最後は……、優しくしてくれる?」
――恋人などと、こんな私が言うべきではないのは分かっているけど。
葛藤の末出された答えに、神崎が安堵の息を吐く。褒めるように撫で、口付けると、神崎が綺麗に笑んだ。
「嬉しいよ、レイ」
レイは迷いのある儚げな笑みを浮かべ、神崎に向き直る。手でそっと、神崎の頬を撫でてみる。精悍な顔立ちに、丸みの少ない頬。雄々しいという言葉が似合う、凛々しい顔。
「恋人のように抱いてくれたら……あとはどんな行為も喜んで受け入れる。それに」
レイが、ふわりと神崎に抱きつく。首筋に擦り寄り甘えながら、逞しい首筋に口付けた。
神崎は驚きつつ、甘えてきたレイを撫でる。頭頂部に口付けを落としながら、レイの言葉を待った。
「初めて優しくされるなら、ケン、貴方がいい」
ぽつりと、呟きよりも小さく告げた言葉に、神崎はレイを掻き抱く。
――同情でもいい。後でどれだけ虚しくなってもいいから……。
レイは抱きついた腕に力を込める。辛そうに顔を歪める神崎を見つめながら、レイはふわりと笑った。
「この場限りの言葉でいい。今夜だけ、嘘でもいいから……好きだと言いながら抱いて欲しい」
その言葉と微笑みが痛ましい。普通に暮らしていれば極当たり前な、控え目な願いに神崎の心が震える。
レイがありったけの勇気を絞り出し、男娼の立場を捨てた。そのことが、心のどこかにあった、歪な経験しか知らないレイを抱くことに対しての、躊躇いを消した。
不安に揺れる目に微笑みかけ、レイの唇に触れるだけの口付けを贈った。
――溺れるほど、甘やかしてやりたい。
そう思った神崎の目は、欲の中に別の色を宿した。
「分かった。じゃあ、衣装を脱いで。枷も外すから、一緒に風呂に入ろう」
目を丸くするレイに、神崎は優しく微笑んでみせる。
「恋人、だろう?初めて抱くのに余分なものはいらない。それとも、俺に全裸は晒せない?」
甘い甘い囁きは毒。レイの心にそれが染み込み、血液と共に駆け巡る。
「好きだよ、レイ。さあ脱いで」
耳にそう吹き込まれただけで、レイのペニスからとろりと、精液が涙のように零れ落ちた。
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