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雛鳥の章
第八話 亡霊
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色彩はより、不明瞭なものに。
纏う空気はより、粘りのある不快のものになっていた。
味気のない毎日に、苛立ちばかりが募る。
「兄上!」
日中は常に吉丸に追い回されていた。
最初は適当にあしらっていたが、それでもしつこく纏わりつくので今は無視している状態だ。
何をするにも僕の真似をしようとするので、鬱陶しい事この上なかった。
聚楽第の屋敷自体は、束の間の平穏な時間が流れていた。
秀吉の姿が消えたのだ。
側室の淀君の懐妊の報せが流れ、その日のうちに秀吉は淀城へとすっ飛んでいった。
――秀吉に、実子はいない。
現在秀吉の子とされる者たちは、全てが連れ子か養子だった。
なので初めての己の血を継ぐ子が生まれると知り、何もかもを放って飛び出したのだ。
自分が小田原攻めの話も出しているというのに、呑気なものだ。
秀吉という憎む相手が居ないことは喜ばしかったが、別の悩みができていた。それも二つ――
◆
日課の素振りの稽古をしようと庭に出た時だ。
庭内の真中に、一人の影があった。
木刀をぶら下げている立ち姿。
――まさか、忠政?
昼下がりの刻限、庭での待ち合わせと言えば、忠政しか居ない。
嬉しくなり駆け出したが、近づくにつれ違和感が首をもたげ、足を止める頃には落胆と共に怒りを覚えていた。
あの場所。
忠政との約束の場所に立っていたのは、吉丸だった。
身丈に合わない長い木刀を二振り持って、僕に気が付いて頭を下げた。
「兄上、一手稽古をつけていただけませぬか」
高い、子供の声だ。
「兄上がいつもここで素振りをしているのを見ておりました。母からは危ないからと止められましたが……兄上が、あまりにも恰好よくて」
照れたように告げる吉丸に、その無邪気さに、内から怒りが湧き上がるのを感じた。
「……いいだろう、稽古をつけてやる。ただし、そこには二度と立つな。お前は端に立て」
「は、はい!」
嬉しそうに笑みを浮かべる吉丸。
歳は僕の二つ下だという。頭一つ分は低いこの子供に、言葉にならない程の怒りで頭が焼かれるようだった。
僕に木刀を一振り渡し、言いつけの通りの場所に立ち、構える。
あまり鍛えてないのだろう。ふらふらと剣が揺れ、切っ先が下がる。
――だが、構うものか。
「では、始め!」
開始の合図と共に、渾身の力を込めて打ち込んだ。
呆けた表情の吉丸に迫る。
◆
『惨いことをするのう。年端もいかぬわっぱ相手に、あれほどやるとは』
「うるさい、僕も童だ」
月明りが眩しい夜。
布団に寝転ぶ僕の傍らに、黒い影が立っていた。
僕の二つの悩み。一つは吉丸――もう一つは、この黒い影だ。
『八つ当たりか、くだらぬ』
「黙れ、亡霊」
元服を迎えたあの日の夜から、この影が現れた。
突然の事だったので大きな声で騒いでしまい、聞きつけた家内の者たちに酷く心配され、影を指差し説明するも誰にも聞き入れてもらえなかった。
終いには、僕に狐が憑いたなどど言い出す始末。
そんな風に騒がれしまうと気分が悪くなってきたもので、怖い夢を見たと言って誤魔化し、場を収めたのだった。
しかし、それからも夜毎この黒い影は現れ、僕をからかうような言葉を掛けて不快な笑い声を上げるのだ。
いい加減鬱陶しくもなってきて、屋敷にあった符など拝借して部屋に貼ったりしたものの、一向に効果は現れない。
影は僕を見下ろし、部屋の中を好きに動き回って悪態ばかり吐く。
微睡むまでそんな調子なので、寝覚めも悪くなるというものだ。
『あれでは、しばらくは歩けぬだろうのう。男の面があのザマでは、な』
「僕の前に現れなくなるなら、それでいい」
影の言う通り、今日は怒りに任せ徹底的に打ちのめしてしまった。
吉丸は僕と比べるとひと回り以上小さい。
本気になった僕に太刀打ちなどできるわけもなく、最初に面を打って鼻と眉間を割った後は、亀のように縮こまっているのを滅多打ちにした。
騒ぎを聞きつけた母親が、鬼の形相で僕を引き剝がして止まったが、あの小さな体は恐らく、全身青痰だらけだろう。
僕はと言えば、その母親に平手で打たれて叱られはしたものの、知らぬ女の言葉など全く頭に入ってこなかった。
少々やり過ぎたとは思っているが、これで僕を怖がればもう纏わりつくまい。
それ以前に、あの女が止めるはずだ。
だから、これで良かったのだ。僕に弟など要らない。
元々存在などしていなかったのだ。
『そう言って、心の裡ですら誤魔化すのだな。お前は』
影の言葉に、喉が締め付けれられたような気になった。
「人の心まで読むな、亡霊」
『ふ、威勢のよいことだ』
のらりくらりと躱される感覚は、秀吉と話している時に近いものだった。
言葉遣いはずっと粗野だが、雰囲気がどことなく似ている。
こちらを推し量るような物言いが、せっかく消えた秀吉を彷彿とさせるもので苛立たしい。
『織田三郎秀信……この意味、お前も分かっておろう?』
「名前、か。意味なんかないよ、そんなの」
『本来ならば”信秀”とするべきだ。だが、”秀信”とした。藤吉郎は余程、織田を屈服させた象徴としてうぬを使いたいらしいな』
そんなもの、分かりきっている話だった。
わざわざ自分の養子達に渡している『秀』の文字に、織田の象徴たる通り名の『信』を組み合わせた。しかも順番は『秀』が上。
「織田はもうほとんど終わってるのに、それでも残したいんだな。あの男は」
当時は理解できなかったが、僕が転々と移されていた時期に信雄叔父が徳川と組み、秀吉に反旗を翻したらしい。
しかし結局、信雄叔父は講和し、その時に織田の名は秀吉に降った。
一時期は信雄叔父が織田家当主になったらしいが、知らない間に移されまた僕へと戻されたようだ。
あの叔父は改易されてどこぞに居るかも聞いていない。
『考えずとも分からぬか、うつけ。織田に臣従していた家臣は多い。藤吉郎が関白位を得ようが、心の内の主君はおいそれと変わらぬものよ。かつて己と同列だった藤吉郎風情に、素直に従えぬものだ』
「詳しいな、亡霊。お前は誰なんだ?」
『ただの亡霊だ。死ねば名など意味がない。お前の言うようにな』
「僕は三法師と呼べ」
『秀信の名が気に食わなくなったか』
低い笑い声を上げる亡霊に、図星を突かれて苛立ちが募る。
「なぜ、僕にまとわりつく」
『それこそ知らぬ。気づけばここに居た。歩けはする、話せはする。だがお前からは離れられぬ。話もお前以外にはできぬ。それだけだ』
「くそ、さっさと成仏しろ」
『坊主でも呼んで来い。さっさと地獄の見物にでも行きたいところだ』
何か都合を付けて呼んでやろうか。それでもこの亡霊は消えない気がするが。
妙に人間臭く、それでいて偉そうだ。
御伽話に聞く亡霊とは、ひどくかけ離れている。
「もう寝る。黙っていろ亡霊」
『なら一つ、我のひとり言でも聞いていけ。あの童はお前と同じだ。鏡に映る己は、好ましいか? それとも醜いか? よう考えてみろ』
「黙れ」
虫の声が聞こえる。
それきり、亡霊の声は止んだ。
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高い、子供の声だ。
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照れたように告げる吉丸に、その無邪気さに、内から怒りが湧き上がるのを感じた。
「……いいだろう、稽古をつけてやる。ただし、そこには二度と立つな。お前は端に立て」
「は、はい!」
嬉しそうに笑みを浮かべる吉丸。
歳は僕の二つ下だという。頭一つ分は低いこの子供に、言葉にならない程の怒りで頭が焼かれるようだった。
僕に木刀を一振り渡し、言いつけの通りの場所に立ち、構える。
あまり鍛えてないのだろう。ふらふらと剣が揺れ、切っ先が下がる。
――だが、構うものか。
「では、始め!」
開始の合図と共に、渾身の力を込めて打ち込んだ。
呆けた表情の吉丸に迫る。
◆
『惨いことをするのう。年端もいかぬわっぱ相手に、あれほどやるとは』
「うるさい、僕も童だ」
月明りが眩しい夜。
布団に寝転ぶ僕の傍らに、黒い影が立っていた。
僕の二つの悩み。一つは吉丸――もう一つは、この黒い影だ。
『八つ当たりか、くだらぬ』
「黙れ、亡霊」
元服を迎えたあの日の夜から、この影が現れた。
突然の事だったので大きな声で騒いでしまい、聞きつけた家内の者たちに酷く心配され、影を指差し説明するも誰にも聞き入れてもらえなかった。
終いには、僕に狐が憑いたなどど言い出す始末。
そんな風に騒がれしまうと気分が悪くなってきたもので、怖い夢を見たと言って誤魔化し、場を収めたのだった。
しかし、それからも夜毎この黒い影は現れ、僕をからかうような言葉を掛けて不快な笑い声を上げるのだ。
いい加減鬱陶しくもなってきて、屋敷にあった符など拝借して部屋に貼ったりしたものの、一向に効果は現れない。
影は僕を見下ろし、部屋の中を好きに動き回って悪態ばかり吐く。
微睡むまでそんな調子なので、寝覚めも悪くなるというものだ。
『あれでは、しばらくは歩けぬだろうのう。男の面があのザマでは、な』
「僕の前に現れなくなるなら、それでいい」
影の言う通り、今日は怒りに任せ徹底的に打ちのめしてしまった。
吉丸は僕と比べるとひと回り以上小さい。
本気になった僕に太刀打ちなどできるわけもなく、最初に面を打って鼻と眉間を割った後は、亀のように縮こまっているのを滅多打ちにした。
騒ぎを聞きつけた母親が、鬼の形相で僕を引き剝がして止まったが、あの小さな体は恐らく、全身青痰だらけだろう。
僕はと言えば、その母親に平手で打たれて叱られはしたものの、知らぬ女の言葉など全く頭に入ってこなかった。
少々やり過ぎたとは思っているが、これで僕を怖がればもう纏わりつくまい。
それ以前に、あの女が止めるはずだ。
だから、これで良かったのだ。僕に弟など要らない。
元々存在などしていなかったのだ。
『そう言って、心の裡ですら誤魔化すのだな。お前は』
影の言葉に、喉が締め付けれられたような気になった。
「人の心まで読むな、亡霊」
『ふ、威勢のよいことだ』
のらりくらりと躱される感覚は、秀吉と話している時に近いものだった。
言葉遣いはずっと粗野だが、雰囲気がどことなく似ている。
こちらを推し量るような物言いが、せっかく消えた秀吉を彷彿とさせるもので苛立たしい。
『織田三郎秀信……この意味、お前も分かっておろう?』
「名前、か。意味なんかないよ、そんなの」
『本来ならば”信秀”とするべきだ。だが、”秀信”とした。藤吉郎は余程、織田を屈服させた象徴としてうぬを使いたいらしいな』
そんなもの、分かりきっている話だった。
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「織田はもうほとんど終わってるのに、それでも残したいんだな。あの男は」
当時は理解できなかったが、僕が転々と移されていた時期に信雄叔父が徳川と組み、秀吉に反旗を翻したらしい。
しかし結局、信雄叔父は講和し、その時に織田の名は秀吉に降った。
一時期は信雄叔父が織田家当主になったらしいが、知らない間に移されまた僕へと戻されたようだ。
あの叔父は改易されてどこぞに居るかも聞いていない。
『考えずとも分からぬか、うつけ。織田に臣従していた家臣は多い。藤吉郎が関白位を得ようが、心の内の主君はおいそれと変わらぬものよ。かつて己と同列だった藤吉郎風情に、素直に従えぬものだ』
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「なぜ、僕にまとわりつく」
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妙に人間臭く、それでいて偉そうだ。
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