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美人局(つつもたせ)1

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「許さん!」

「父さん落ち着いてよ。」

と村田和治はなだめるが、父の昭治は聞く耳をもたない。

「まあ、まあ。父さんも落ち着いてよ。」姉の明子が父をなだめようとする。

「そうですよ。あなた。何も結婚するわけじゃありませんよ。ただ付き合ってるって話でしょ?」と母の明江が取りなそうとする。

「いや、違う。」和治が言った。

「父さんも母さんもよく聞いてくれ。僕は同じ病院に勤める荒井章子さんと結婚するつもりだ。」

「絶対許さん!お前はちょっと頭を冷やした方がいい。地方の病院にいけ。来週から。俺が手を回しとく。いいな!」

昭治はバタンと扉を閉めてリビングを出ていった。

「ちょっと、和治ー。何も今言わなくても良かったじゃん。もう少し待てないの?その彼女は?」

「待てないね。彼女妊娠している。」

「気をつけてなかったの?」と姉は言うが気をつけていた上でそうなったのだからなんとも言えない。

「気はつけてたけど、結果がこれだからね。」

「お父さんもさー、うちの病院ってこの街で代々続く総合病院だし、跡取り息子には期待してるのよ。幸いあんたは頭よくてストレートで医学部受かり父さんの自慢の息子だもん。その息子の相手がさ、普通の事務の女の子じゃ納得いかないんじゃないの?」

と姉がのたまう。

「そうかもしれないけど、もうできたものはどうしようもないさ。僕は責任をとる。」

「和治、その方は荒井章子さんとおっしゃる方はうちの病院に勤めてるのよね?」

と明江が息子に尋ねる。

「はい。そうです。」

「なら、事務長に聞いたら履歴書とか出てくるわね。まずはそちらを見させてもらってから話はしましょう。」


~~~~~~~~~~~


「はあ。」

部屋に帰ってため息をつく和治。

もう少し色々根回ししてから話せば良かったのかなあ。
でも悠長にしてるほどの時間もないんじゃないか。

今週、水曜日の夜に彼女と食事に行った。

そのときに告げられた妊娠。

「まさか」と思ったけど、確かに覚えがあった。その日は近藤さんを忘れていてホテルにおいてあるものをつかった。

俗説だが、やはり自分で用意してあるもののほうが安全な気がする。

「そっか……。わかった。じゃあ結婚しよう。」

そう章子には言ったが、親に言うだけでこんなことになるなんて。
彼女が知ったらなんというか……。
やっぱり坊っちゃんだからって言われるんだろうか。

でもできたものはしっかり責任とらなきゃならん。

ブブブブ……




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