世界の黄昏を君と共に

東雲兎

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ありきたりな始まりで

6話

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 もはや習慣となりつつあったゼノビアとの戦闘訓練。だが今回は今までと少し様子が違うようだった。

 木の人形が二体、いつもの修練場の中心に置かれており。そこから少し離れた場所で蓮兎がゼノビアと向き合っていた。

「基礎は叩き込んだ。今回から、特技を使った戦闘訓練をしてもらう。特技とは何か答えろ!」
「は! 特技とは、人族、亜人族に宿る事がある魔法とは異なる特殊能力で、心装真理と呼ばれる兵装を顕現させることで使用できます! この世界では五人に一人の確率で宿り、同じものが複数存在するものを《プラネット》、同じものが存在しないものを《スタァール》といいます!」

 背筋をピンと伸ばし顎を引いて、昨日習った特技についての説明を復唱する蓮兎。その説明に頷いたゼノビアはさらに補足をした。

「《スタァール》の特技は特権階級の人間であるほど発現しやすい、そして勇者又は眷属には必ず宿る。お前もあの水晶の柱で自身の特技を認識しているはずだから、これよりその扱いを叩き込む」
「は!」

 この世界に来てから今日まで叩き込まれ続けた胸に握りこぶしを当てる敬礼をし、了解の意を示す蓮兎。ゼノビアに痛みと共に叩き込まれたので、ここまでくるともはや反射とも言える。

 叩き込んだ当のゼノビアはというと、彼女の心装真理である棍を一回転させてから構えた。

「まず、特技は感覚で言う第七感であり、第六感を具現化した心装真理で制御する。第六感はわかる?」
「はい! あらゆる経験の積み重ねによる感覚です!」

 ゼノビアは首肯し、一度目を閉じた。

「よろしい、これまでの訓練は五感をより鋭敏にし、その先にある第六感を鍛えるためのものだった。事実、お前は私の動きを目で終えるようになってきた。
 そして第七感は無意識の領域。己の無意識下に宿っているものを鍛えた第六感で知覚し、心装真理で制御しろ」

 なんと言う強引で無茶を言ってるのだと蓮兎は顔をひきつらせる。だが、ゼノビアはそんなのは序の口だとばかりに目を開けて続ける。

「付け焼き刃に近いが、お前にはその基礎を叩き込んである。己を客観的に見ろ。そうすれば———」

 ゼノビアはその場にて蓮兎の知覚できるギリギリの速度で木の人形へと棍を振るう。

 怪訝な顔をする蓮兎。






 その刹那、木の人形は弾け飛ぶ。

「っ!」
「特技は自ずと手に入る」

 先ほどまであったはずの人形は既に跡形もなく。名残として細かい木片が散らばるのみだった。ふつうに砕くのならばわかる。だがどうやったらそこまで粉々に出来るのかわからなかった。
 つまり蓮兎には何が起こったのかさっぱりで、これがゼノビアの特技なのだと理解するまで数秒の時を要した。
 驚く蓮兎の反応にゼノビアは口の端を釣り上げて指示をする。


「さぁ、やってみせて」
「っ……!」

 蓮兎は出来るのかと自分に問う。蓮兎にとって、これまでの訓練は今まで生きてきた延長上だったが、ここから先は本当に未知の領域だ。

「特技の習得はまず心装真理を顕現させることから始まる、そしてそれは感覚に近い。だから魔法を扱うよりも簡単だよ」
「簡単……」

 いや明らかに五十歩百歩だ。と蓮兎は内心白目を剥く。しかし悲しきかな命令には従わなくてはいけないわけで。

 蓮兎はもう一つの人形に向き直る。

「……ふぅ」

 息を吐き、無意識のうちに手を向ける。徒手空拳の状態での戦闘をみっちり叩き込まれた結果だ。

 蓮兎は心装真理を顕現させる為にその形を思い出す。

「俺の心装真理……ガントレットだったな」

 今まで第六感蓄積された経験からイメージを形にする。僅かだがノイズが走ったような気がして、そのノイズによってイメージが少し崩れる。

 具現化したのは深い紫色の、蓮兎たちのいた元の世界で至極色と呼ばれる色が染み込んだガントレット。指先から手首までを保護しており、お互いに打ちあわせると甲高い音が鳴り、かなりの硬さであるのがわかった。だというのに、指を動かした時にある疑惑が生まれた。

 疑惑は一通りの格闘術をこなしてみて確信に。確信は蓮兎に与えられた武器であるククリを抜きはなち、指先の細やかな動き、そして手首を使った技を使ってみて、真実へと変わる。

「動きが全然遮られない?」

 ゼノビアに目を向けると、彼女は簡単な質問をしてきた。

「お前は物に触れた感覚を肌に遮られることはある?」
「?」

 質問の意味、それどころか質問そのものもあまり理解できないかったが、蓮兎は取り敢えずそんな摩訶不思議な現象に陥ったことはないと首を横に振った。

「だろうね。五感の触覚にとっての肌。味覚にとっての舌。聴覚にとっての耳。嗅覚にとっての鼻。そして視覚にとっての瞳。それぞれ身体の一部がそれぞれの感覚に対応している。

それと同じ様に第六感は心装真理という体の一部に対応している。わかりやすく言えば第六感のために増設された新しい体ということだ」

 そういうとゼノビアは腕を前に伸ばし、棍から手を離す……が、棍は手から落ちることなくそのまま吸い付く様に離れることはない。

「つまり心装真理は思うがままに動かすことができる。なお心装真理を手とするなら、特技は道具だ。ほら、次は特技の番だ。心装真理なら掴めるはずだ」

 ゼノビアに促されて、人形に向けて手を広げる。

「俺の特技は否定……否定?」

 名前を思い出し、よくよく考えたら意味がわからないことに気づく。

「いやいや、否定ってなんだ? どんな力なの? そもそも力なのか? 行動じゃないのか?」
「何やっとるか馬鹿者」
「あいたぁっ!」

 首を傾げながら混乱していると棍で頭を殴りつけられた。蹲る蓮兎に溜息をつくゼノビア。

「まぁ、お前のやつはスタァールでも少し特殊だろうな。なら先に魔法の練習をするか?」
「へ?」

 まさかの提案に蓮兎は目を丸くした。なにせ「問題を先送りにするのはゼノビア先生らしくない」と思ったからだ。
 そんな考えを見抜いたのか、ゼノビアは心外そうに腰に手をやった。

「考える間に魔法を練習するのもいいだろう。コツをつかめるかもしれない」

 そうしてゼノビアが腰から取り出したのは……明らかにこの世界には似合わないものだった。
 黒光りするそれを蓮兎は創作物の中でしか見たことはなかったが、それでも判別できた。それほどポピュラーなのだ。

「それって……ハンドガンですか?」
「違う、お前たちの世界にもあるらしいが、これは魔導拳銃。魔族の武器を鹵獲したものだ。まずこれを防ぐ魔法から覚えてもらう。魔法の種類は覚えているな?」

 蓮兎には何がどう違うのかはよくわからなかったが、背筋を伸ばしたのちにゼノビアの問いかけに答える。

「はい。えっとまずは大気にあるエーテルをそのまま利用する無属性。その無属性は使用者の体で通すことでそれぞれ属性を帯び、その属性の種類は火、土、風、水の四つ。人族を通した魔法は基本的に火の属性を帯びます」
「よろしい。今回覚えるのは無属性の魔法盾というものだ。無属性であるから基礎中の基礎だ。死ぬ気で覚えろ」

 そう言いながらゼノビアは蓮兎に向かって魔導拳銃を構え、容赦なく撃ち放った。

 蓮兎は持ち前の危機察知能力が警鐘を鳴らしたがゆえに、咄嗟にその場から跳び退いて、銃弾を躱した。なんとなくそうなるだろうなと考えていたからこその回避だった。

「危な……!」

 更に蓮兎に向けて放たれる銃弾。それに蓮兎は反応できていた。

 このゼノビアの動きに慣れつつあるおかげである。

 ふと、魔導拳銃を持ったゼノビアへ向かって何かが流れるのを蓮兎は感じ取った。

「なんだ……?」

 まるでゼノビアが周りから何かを取り込んでいるかのようで、蓮兎はハッとした。

「これがエーテル?」
「そうだ。大雑把にやったが、正解だったようだな」

 どうやらゼノビアはわざと蓮兎が感じ取りやすいようにしてくれたようで、お陰で蓮兎はなんとなく感覚が掴んだ。

「魔法盾の作り方は流れ込んでくるエーテルを固めて展開するだけだ。最初は雑でいい。やってみろ」
「んな無茶な……」

 しかし言われた以上やらねばならず、銃弾を避けながら、蓮兎は宙のエーテルを手のひらに集める。イメージは紙パックを押しつぶすような感じ……つまりは圧縮である。

 蓮兎が着地したところへ銃弾が襲いくる。

「固めて……展開!」

 瞬間、半球状の膜のようなものが展開される。

 金属がぶつかり合う音とは少し違う甲高い音で、銃弾が弾かれる。

 どうやら成功したようだった。

 蓮兎が呆然と魔法盾を維持し続けていると、ゼノビアは近づいてきてノックするように強度を確かめる。

「ふむ、無駄にエーテルを使ったからか硬いな。それにかなりムラがある。もっと質を向上させろ、あともっと瞬時に展開できるように。今のままでは実戦では使えん」
「は、はい」
「今日はここまでだ。あとは自主練でもしておけ。明日はエーテルを体内で魔力に変える方法を教える……以上、解散」
「は! ありがとうございました先生!」

 魔法盾の維持をやめて敬礼する蓮兎。魔法盾は維持をやめると途端に宙へと消えていった。

 それを確認したゼノビアは魔導拳銃にセーフティーをかけてからその場を後にする。

 蓮兎は緊張が解け、つい尻餅をついた。

 年季の入った天井を見上げて、目を細める。

「……紅葉なら、もっと上手くできるんだろうな……」

 ゼノビアの言葉通り、あれでは実戦には使えない。その事実を確認して、自分の幼馴染ならばもっとこうしただろう、ああしただろうと考え始める。

 その思考はとめどなく、蓮兎を責め立てる。けれどそんな事を考えるたびに心の中を何かが触れてくる。


 それは少しずつ蓮兎に忍び寄っていく。それを誰も気づくことはない。

 ただ一人、蓮兎を除いて……
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