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ありきたりな始まりで
6.5話
しおりを挟む最近、夢見が変だ。
毎回なにかと話している夢。そう、まるで相手が現実にいるかの様な夢だった。
その時だけ、心の内を曝け出せてるような気がして気分は少し良くなる。
だが、その夢が現実味を帯び過ぎているせいか、精神的疲労が取れにくくなっている。今日もまたその夢を見て、日が昇りはじめた頃に目を覚ます。
今日は休暇であると伝えられていた。なんでも明日からは《星の剣》正規構成員としての訓練を始めるらしいのだ。おそらくは今まで以上に厳しい訓練なのだろう。だから明日までに体調は万全にしておかねばならない。
だと言うのに、ゼノビアは何が何でも城下町に出ろと言う。
命令なので従うが、あまり乗り気ではなかった。出来ることなら誰とも会うことなくこの部屋で閉じこもっていたかったのだ。
睡眠で凝り固まった体を伸ばす。バキバキと小気味良い音が鳴り、心地いい。
支給された少し上等な街人の服を着て、腰巾着とその下にわかりにくい様にククリをつけた。
ゼノビア直伝の隠蔽技術だ。蓮兎のものはゼノビアからも褒められたレベルだ。
準備が出来たところで、扉を開ける。
「待ってた。アセビ」
と、そこには《星の剣》の構成員の服を着た人物がいた。フードでよく顔はみえないが、青い瞳がこちらに向いているのはわかる。
「何か用ですか?」
「これを渡すように言われて来た」
そいつは袋とバッジを渡して来た。受け取って中身を確認すると、硬貨が入っているのがわかった。
バッジに関しては《星の剣》の構成員が全員つけているものだ。おそらく身分証明証の代わりなのだろう。
「じゃあ、確かに渡したから」
そういうと、そいつはさっさとその場を後にした。
「……ま、貰えるものは貰っておこう」
袋とバッジを腰巾着に入れて、街へと向けて俺、馬酔木 蓮兎は歩き出した。
◆
ふと、背後に誰かが現れたに気づいた。心装真理を展開して一気に警戒を強める。
「おや、最近の子は物騒だなぁ。このハーブティーでも飲んで落ち着いたらどうだい?」
美味しいよと、勝手に部屋のカップを使って優雅なティータイムと洒落込んでいるローブの女。周囲のエーテルを見ればそいつが魔術師であることがわかる。
そして俺はこの魔術師に心当たりがある。
「アレイスター……?」
「正解だ。君の言う通り、私はアレイスターを担わせてもらっている」
フードの下で薄らと笑う。
「勇王国の魔術師が帝国に何の用だ」
「いや、帝国には用はないよ。用があるのは君にだけさ」
「俺に?」
正直胡散臭い。何か裏があるのは確実だ。それを見透かしているのかアレイスターは笑みを貼り付けたまま目的を話し始める。
「いやね、君の耳にも入ってるだろうけど。僕らの国の幹部の一人が独断で勇者召喚を行ったんだ。その結果、四人の勇者と二十余の眷属がこの世界に訪れた。今は軍事学園都市で戦う術を学んでるよ。そこまではいいね?」
「……ああ、それは聞き及んでいる。それで?」
「うん、君が良ければ勇者たちに会わないかい?」
はたと、思考が停止する。それを指に爪を食い込ませて痛みで再起動する。
「な、にが目的だ?」
「んー? いや、君と勇者を合わせれば何か新しい展開が生まれるかもしれないと思ってさ。このままじゃ人は魔族に負ける。だから新しい可能性が必要なのさ。その為の場を設けようって話」
今までの経験則から嘘は言っていないように感じた。だけど、本音も言ってない気がした。
しかしそれ以上に薄々感じていた『人の敗北』を明確に宣告された事にショックを受けていた。他ならぬ人族最高の魔術師に。
だからこそ、乗るしか無い。それ以外を選べば未来は閉ざされる可能性が高い。
だからこそ、俺はその誘いに乗ることにした。
他の誰でも無い帝国第二王子コル・レグルスとして。
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