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しおりを挟むこれでもう騒ぐことはないだろう。
ちゃんと仕事をお手伝いできた筈だ。
「ほら、もう大丈夫!」
アルの方向を向いて、ユイは様子を見る。
「とてもそうは見えないが……」
「なら聞いてみれば?」
ユイはアルに促す。
疑り深い性格なのはありがたい。
全てが上手くいくなんて、面白くもなんともないから。
「……おい、大丈夫か?」
「はい。私は大丈夫です」
男は覇気のない声で答える。
よかった。
久しぶりだったけど上手くいっている。
「アル君の質問に答えてくれるかも聞いてみれば?」
「……俺の聞くこと全てに答えろ」
「はい」
男の状態を確認したアルはユイの方を向く。
「お前、本当になんなんだ?」
「アル君、ほら! 彼に好きなこと聞きなよ」
「誤魔化すな! 答えろ!」
あーあ、肩が震えてるよ。
アルの表情をみて、ユイは心から思う。
……可哀想に、と。
「そんなこと今はどうでもいいじゃん!」
「よくない……!」
絶対に《言葉》は聞こえていなかったはずだけど、あまりに状況がおかしくなりすぎてしまったか。
さすがにやりすぎてしまったらしい。
これも間違いということなのだろうか。
今日は本当に学びが多い。
「おい! 黙ってないで――」
「名前で呼んで」
「……は?」
なら、親近感を持ってもらおう。
呼び方一つで印象もだいぶ変わると、あの人も言っていた。
「私のこと、ユイって呼んでよ」
「お前、何を言って……」
「私のことをユイって呼んでくれたら、教えてあげなくもなーい!」
ユイは人差し指を頬に当て、首を傾げた。
その仕草に、アルはは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……断る」
「えー、いいトレードだと思うけどなー」
「は? どこが?」
「それだけで乙女の秘密を知れるなんて、若干お得まである!」
「……黙れ」
「恥ずかしがらずに、ほらほら!」
ユイが催促をするとアルは黙り込む。
少し悩んでいたようだったが、
「……ユイ」
最終的には欲が勝ったようだった。
心底嫌そうにユイ、とアルは名前を呼ぶ。
そういう顔が好きだ。
「いいね! じゃあ『約束』だよ。アル君、まずは仕事をしようか!」
「おい、話が違う……」
アルは今すぐにユイが何かを話すと思ったみたいだ。
何か勘違いをしているみたい。
「私は考えるって言っただけだよ。どうするか決めるのは、アル君の仕事っぷりを見てからだね」
「……クソが」
よし、これでいい。
沈んでいた気分も上がってきた。
とりあえずは、目の前にいる男から情報を聞き出すところからだよね。
既にアルはユイから目線を外していて、男を見据えていた。
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