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口なし
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『世の中、魔法が全て』
そう言われている程、僕が生まれた世界は魔法で出来ていた。
魔法で動く乗り物、魔法で動く機械、この世にある動力源の殆どが魔法だった。
『魔法は神が与えた全人類の希望です!皆様の平穏な日々が続きますように!』
今朝に見た、巨大な建物に映って王都を歩く人々に祈りを捧げている司祭の映像を思い出す。
「……はぁあ~」
心の底からため息が漏れる。
「“全人類の希望”ねぇ……」
そんな美しい言葉で飾られるほど魔法は素晴らしいものではないと僕は考えている。
なぜなら……
ーギャギャギャ!
ーギィーギィー!
ーグルルルルル!
「!!」
魔獣の声を聞いた瞬間、僕は走り出した。
ここはダンジョンの奥深く、魔獣達が殺しあい喰らいい合う、魔法使いの試練の場。
そんな絶望の淵に僕がいるのは全て魔法の所為だからだ。
ーギィー!
魔獣の爪が僕の横をとおる。
死と隣り合わせ。
こうなったの三日前からだ。
僕は裏切られた。
ーーー
アーク・ミリアム 十五歳
田舎にある村“ソーン”で産まれた。
現在は王都の学校で寮暮らし。
僕は自分で言うのはなんだが魔力の量が結構ある。
……いや結構どころではない。
それこそ、魔法使いの平均の魔力量の五十倍はあった。
魔力とは魔法を扱うためのガソリンだと思って欲しい。
僕は小さい頃から簡単な魔法をいくつも使えて周りの人達を驚かせたのを覚えている。
「よう“口なし”」
「……」
しかし、それは子供が使える魔法の範囲での話、皆んなが成長すれば全員それ以上の魔法を覚えていく。
僕も初めは誰よりも頭一つ飛び抜けていい成績を出していた。
周りが褒めてくれてとても嬉しかった。
そして、僕は王都の学校に招待された。
そこには村では見れない様な物が沢山あってとても楽しい所だった。
魔法の成績も良く僕はとても幸せだった。
「あいつまた来てるぜ」
「無能なのにね」
だけど、突然だった。
突然、魔法が使えなくなったのだ。
簡単な魔法も使えなくなってしまい僕は泣いた。
当時、それは医者を呼ぶほどの大事になった。
しかし、どんな名医を訪ねても魔法が使えなくなった原因がわかる事はなかった。
「“口なし”だ」
「“口なし”が来たぞ」
そして、ついたあだ名は“口なし”。
これは魔法使いが魔法を使うのに必要な詠唱が出来ない魔法使いを蔑む言葉だ。
魔法が使えなくなってからは皆んなが僕をそう蔑む様になった。
「えーこの問題を……そうだな“口なし”解いてみろ」
そして、それは学校の先生にまで及んだ。
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス。
周りからの嘲笑がクラス中に響く。
友達だと思っていた生徒、優しいと思っていた先生が僕を蔑む。
「チッ……“正解”だ」
僕は黒板に問題の正解を書くが、周りはそれを面白く思わない。
先生だってそうだ、生徒たちも面白く思っていないだろう。
「“口なし”風情が」
昼の休憩時間にもなれば、周りは僕に嫌がらせをする為にあらゆる手段を使う。
そうされない為にも僕は急いで誰もいない学校の敷地内にある古い小屋に行く。
ここは随分古く誰もここを知らない。
「大丈夫?」
いや……一人だけいる。
「またからかわれたの?」
そこには、綺麗な赤い髪が肩まで伸びている女子生徒がいる。
彼女の名前は“アリス・ホワイト”成績優秀、容姿端麗で性格は優しいと完璧な人格でこの学校一番の人気者で美人。
僕と同じ村出身の幼馴染だ。
「言われた」
僕は壁にもたれかかりながら学食の握り飯を食べる。
「……そうなんだ。あのさ……」
彼女はポケットからある紙を取り出す。
「この相手決まった?」
そこに書いてあったのは迷宮探索組記入欄。
来週、生徒全員が近くの国管理ダンジョン“始まりの試練”に挑戦する。
その為に二人一組を組んでメンバーの名前を書いて学校に提出しないといけない。
「私と一緒に組を組まない?」
「いいの!?」
あまりの発言に僕は驚く。
魔法を使えない僕ははっきり言って戦力外だ。
この活動にも参加しない予定だったし。
「絶対損をするよ!?それに君の評価にも傷が付く!撤回するなら今の内だ!」
「大丈夫だよ!」
アリス・ホワイトは頷く。
「ダンジョンだと危険が多いからさ!アーク君魔法使えないし私といた方が他の人より安全じゃない!?」
「確かにそうだけど」
女子生徒に守ってもらう不甲斐ない自分を想像してしまった。
「決まり!」
そう言って彼女は紙に自分の名前と僕の名前を書いた。
「じゃあ先生に提出してくるからー!」
彼女はそう言って小屋から出て行った。
「僕もそろそろ教室にもどろうかな」
ーーー
翌日、『天才女子生徒が“口なし”と組になった』と生徒と先生が騒いだ。
周りから『組を解散しろ』という圧力を感じたが僕と彼女は結局、解散する事は無かった。
ーーー
そしてダンジョン探索の日、当日になった。
「諸君らの活躍を期待する!それでは始め!」
先生の合図で皆がダンジョンに潜る。
ダンジョンは土で出来た洞窟といった感じで所々に明かりである松明があった。
ダンジョンは不思議とそう言った光源なのが存在する。原因はまだわかっていない。
「“アイスボール”!」
「“ストーン”!」
「“風波”!」
ダンジョンに入ったばかりだけどあちこちで魔法の詠唱が飛び交っている。
「“ライトソード”!」
アリス・ホワイトも魔法を使って魔獣を討伐していた。
「うわ」
僕も一応護身用にとナイフ持ってきたがはっきり言って意味が無いだろう。
「アーク君!もっと奥に行ってみよう!」
そう言って彼女が奥に行くので慌てて僕も付いていく。
「よう“口なし”役立たずな癖にダンジョン探索とは余裕があるようだな」
彼女につられて奥に奥に行っている途中にある男に出会った。
そこに居たのはローグ・キャスパー。
成績は第一位で、僕を一番蔑んでいる男でもある。
「あっ!ローグ君も奥に来たんだね!」
アリスはローグを見て近づいて行った。
「やあ、アリス・ホワイトさん」
彼は僕にしていた嫌そうな顔を消して笑顔で彼女に接する。
「一番魔獣を討伐してやろうと思って奥に来たんだ。仲間達とは一旦別行動をとってね」
「そうなんだ~」
「これを見てくれ」
そう言って彼は床を指差した。
そこには魔法陣が描かれていた。
「これは?」
彼女が不思議そうに床の魔法陣を見る。
「これは罠魔法陣だよ」
彼は得意そうに解説する。
「ダンジョンには、魔法使いを苦戦させる罠があちこちにあるって言われているだろう?」
「へーこれが」
「本来は始まる前に視察に来た先生が魔法陣を破壊していくんだけど、見落としてしまったそうだね」
「アーク君見て見て!面白い物があるよ!」
そう言って彼女は僕を呼んだ。
呼ばれあ僕は彼女に近づいた。
「これが罠魔法陣だよ!」
「これが……」
僕は興味津々にそれを見た。
「“口なし”に教えるなんて無意味だ」
ローグがそれを見て悪態を吐くが、それ以上は何もしなかった。
「多分これは転移の魔法陣かな」
「そうだね。この魔法陣は転移の種類だと思うよ」
罠魔法陣にはいくつか種類がある。
一つ目は“物理攻撃型”、炎や矢が対処に攻撃する罠だ。
二つ目は“異常状態型”、眠りや麻痺毒など対処の健康状態に影響を及ぼす罠。
そして、三つ目は“戦力分散型”これは団体で来た戦力を分断する罠だ。
「何か目印を作っておこう。誰かが踏んだら危ないし」
僕はそう言って近くに何か目印に向いているものが無いか探す。
「大丈夫だよ」
彼女が言う。
「何かあるの?良さそうな物は無かったけど」
僕は周りを見ても何も良いものが見当たらなかった為に首を傾げる。
「罠魔法陣って確か一回発動すると消えるんだよ」
「へー」
それは知らなかったなぁ。
「だから……」
そう言って彼女は近づいてきて
「えい!」
「えっ?」
僕を魔法陣の中に押した。
ブォン!
入ってきた僕に魔法陣が反応して光りだす。
「ひぃ!」
僕は慌てて魔法陣から出ようとするが……
バチン!
強い電気のような衝撃を受けて後ろに仰け反る。
「フッ……フフフ」
「アハハハハハ」
ローグ・キャスパーとアリス・ホワイトはそんな僕を見て笑った。
「アリス!?何で!!」
「『何で?』おかしな事を聞くのね?」
そう答えるアリスの顔はもう僕が知っているアリスの顔じゃ無かった。
「私はね……貴方が大っ嫌いだったの!!」
すごく凶悪な顔だった。
人の恨みを全て凝縮した様な表情だった。
「“口なし”と言われいる貴方と同じ村出身なんて、人生最大の汚点!いつか殺してやろうと思っていた!そして、今日がそのチャンス!ダンジョンだと証拠も残らない!魔獣に喰われて死んじまえ!」
「そんな……」
僕はショックで崩れ落ちる。
ブォン!
魔法陣が強く光って……僕はダンジョンの奥深くに消えていった。
ーーー
「ここは?」
転移した瞬間、僕はあたり見回した。
せめて……誰かが近くにいて欲しかった。
だけど……そこには誰もいなかった。
「早く上に行かないと」
“始まりの試練”は五階層ここがどこだかわからないけれど上の階に行けば誰かとは合流できるはずだ。
「松明の光があったのが幸いだった」
明かりも無いとなれば正に絶望だった。
少なくとも魔獣の事を視認できる。
「魔獣出ませんように……」
僕はそう祈りながら、歩き始めた。
だけど……。
ーキキキキキ!
「!!」
ほんの数歩、たった数歩でその祈りは意味のないものとなった。
目の前に現れたのは猿のような魔獣で長い爪を持っていた。
「キィ!!」
「!!」
猿が腕を振りかぶっているのを見た瞬間、僕は慌てて横に飛んだ。
ーザシュン!
僕のいた所場所に爪の跡が残る。
「!!」
僕は急いで後ろに逃げた。
「早く逃げないと!!」
殺される!!
ーーー
そして僕は今、何度も魔獣に食われそうになっていた。何度も牙に爪に切り裂かれそうになった。
何度も息を潜めて岩陰に隠れた。
三日目と言う体内時計で考えているからもしかしたら違うかも知れない。
(お腹……空いたな……)
それに喉も渇いた。
僕は未だに上への階段を見つけれずにいる。
このままでは衰弱死してしまうだろう。
(早く……移動しないと……)
僕は隠れていた岩陰から身を乗り出す。
「クキュルルル!」
「ギィイイイ!」
(!!)
だけど、魔獣二匹が近くに居たから直ぐにまた岩陰に隠れた。
それなのに……
ギュルル……
僕のお腹が鳴ってしまった。
「クキュ!」
「ギィ!」
二匹の魔獣は僕の元に向かって来る。
「!ちくしょう!」
僕はやけくそになって走った。
『ダンジョンだからきっと上の階に行く階段がきっとある!』
僕はただそれだけを希望に逃げ回った。
なのに……
「そん……な……」
僕は目の前の現実に絶望する。
「階段が……」
崩れていた。
上に登る階段が大きな穴を開けて崩れていた。
ービィィィ!
ーキシャキシャ!
ーキキキキキ!
後ろから魔獣達の鳴き声が聞こえる。
「……」
後ろを振り返るとそこには沢山の魔獣が僕を狙っていた。
左は崖、右は壁、後ろは崩れた階段、そして正面は僕を殺そうとジリジリ寄ってくる魔獣。
「なんで……僕が……?」
思わず言ってしまう。
「一体何をしたって言うんだよ!!」
僕は魔獣達にそう叫び、近くにある石を投げる!
「来るな!!来るな!!」
しかし、魔獣に意味は無く。
「グワァ!!」
とうとう一匹の魔獣が僕に飛び掛って来た。
魔獣の前足が僕を抑えつける。
「ぐわ!」
魔獣が僕を食べようと口を開くが!
「キィキィ!」
別の魔獣がそいつを突き飛ばす。
どうやら魔獣達は誰が一番最初に僕を食べるかで揉め出したようだ。
「ッ!」
僕は逃げようとするが周りに逃げ場は無い。
「グルルル!」
「キィキィキィ!」
「ガルル!」
魔獣達は僕が逃げ出したのを見てまた襲って来ようとする。
「!!」
僕は意を決して崖から落ちた。
そう言われている程、僕が生まれた世界は魔法で出来ていた。
魔法で動く乗り物、魔法で動く機械、この世にある動力源の殆どが魔法だった。
『魔法は神が与えた全人類の希望です!皆様の平穏な日々が続きますように!』
今朝に見た、巨大な建物に映って王都を歩く人々に祈りを捧げている司祭の映像を思い出す。
「……はぁあ~」
心の底からため息が漏れる。
「“全人類の希望”ねぇ……」
そんな美しい言葉で飾られるほど魔法は素晴らしいものではないと僕は考えている。
なぜなら……
ーギャギャギャ!
ーギィーギィー!
ーグルルルルル!
「!!」
魔獣の声を聞いた瞬間、僕は走り出した。
ここはダンジョンの奥深く、魔獣達が殺しあい喰らいい合う、魔法使いの試練の場。
そんな絶望の淵に僕がいるのは全て魔法の所為だからだ。
ーギィー!
魔獣の爪が僕の横をとおる。
死と隣り合わせ。
こうなったの三日前からだ。
僕は裏切られた。
ーーー
アーク・ミリアム 十五歳
田舎にある村“ソーン”で産まれた。
現在は王都の学校で寮暮らし。
僕は自分で言うのはなんだが魔力の量が結構ある。
……いや結構どころではない。
それこそ、魔法使いの平均の魔力量の五十倍はあった。
魔力とは魔法を扱うためのガソリンだと思って欲しい。
僕は小さい頃から簡単な魔法をいくつも使えて周りの人達を驚かせたのを覚えている。
「よう“口なし”」
「……」
しかし、それは子供が使える魔法の範囲での話、皆んなが成長すれば全員それ以上の魔法を覚えていく。
僕も初めは誰よりも頭一つ飛び抜けていい成績を出していた。
周りが褒めてくれてとても嬉しかった。
そして、僕は王都の学校に招待された。
そこには村では見れない様な物が沢山あってとても楽しい所だった。
魔法の成績も良く僕はとても幸せだった。
「あいつまた来てるぜ」
「無能なのにね」
だけど、突然だった。
突然、魔法が使えなくなったのだ。
簡単な魔法も使えなくなってしまい僕は泣いた。
当時、それは医者を呼ぶほどの大事になった。
しかし、どんな名医を訪ねても魔法が使えなくなった原因がわかる事はなかった。
「“口なし”だ」
「“口なし”が来たぞ」
そして、ついたあだ名は“口なし”。
これは魔法使いが魔法を使うのに必要な詠唱が出来ない魔法使いを蔑む言葉だ。
魔法が使えなくなってからは皆んなが僕をそう蔑む様になった。
「えーこの問題を……そうだな“口なし”解いてみろ」
そして、それは学校の先生にまで及んだ。
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス。
周りからの嘲笑がクラス中に響く。
友達だと思っていた生徒、優しいと思っていた先生が僕を蔑む。
「チッ……“正解”だ」
僕は黒板に問題の正解を書くが、周りはそれを面白く思わない。
先生だってそうだ、生徒たちも面白く思っていないだろう。
「“口なし”風情が」
昼の休憩時間にもなれば、周りは僕に嫌がらせをする為にあらゆる手段を使う。
そうされない為にも僕は急いで誰もいない学校の敷地内にある古い小屋に行く。
ここは随分古く誰もここを知らない。
「大丈夫?」
いや……一人だけいる。
「またからかわれたの?」
そこには、綺麗な赤い髪が肩まで伸びている女子生徒がいる。
彼女の名前は“アリス・ホワイト”成績優秀、容姿端麗で性格は優しいと完璧な人格でこの学校一番の人気者で美人。
僕と同じ村出身の幼馴染だ。
「言われた」
僕は壁にもたれかかりながら学食の握り飯を食べる。
「……そうなんだ。あのさ……」
彼女はポケットからある紙を取り出す。
「この相手決まった?」
そこに書いてあったのは迷宮探索組記入欄。
来週、生徒全員が近くの国管理ダンジョン“始まりの試練”に挑戦する。
その為に二人一組を組んでメンバーの名前を書いて学校に提出しないといけない。
「私と一緒に組を組まない?」
「いいの!?」
あまりの発言に僕は驚く。
魔法を使えない僕ははっきり言って戦力外だ。
この活動にも参加しない予定だったし。
「絶対損をするよ!?それに君の評価にも傷が付く!撤回するなら今の内だ!」
「大丈夫だよ!」
アリス・ホワイトは頷く。
「ダンジョンだと危険が多いからさ!アーク君魔法使えないし私といた方が他の人より安全じゃない!?」
「確かにそうだけど」
女子生徒に守ってもらう不甲斐ない自分を想像してしまった。
「決まり!」
そう言って彼女は紙に自分の名前と僕の名前を書いた。
「じゃあ先生に提出してくるからー!」
彼女はそう言って小屋から出て行った。
「僕もそろそろ教室にもどろうかな」
ーーー
翌日、『天才女子生徒が“口なし”と組になった』と生徒と先生が騒いだ。
周りから『組を解散しろ』という圧力を感じたが僕と彼女は結局、解散する事は無かった。
ーーー
そしてダンジョン探索の日、当日になった。
「諸君らの活躍を期待する!それでは始め!」
先生の合図で皆がダンジョンに潜る。
ダンジョンは土で出来た洞窟といった感じで所々に明かりである松明があった。
ダンジョンは不思議とそう言った光源なのが存在する。原因はまだわかっていない。
「“アイスボール”!」
「“ストーン”!」
「“風波”!」
ダンジョンに入ったばかりだけどあちこちで魔法の詠唱が飛び交っている。
「“ライトソード”!」
アリス・ホワイトも魔法を使って魔獣を討伐していた。
「うわ」
僕も一応護身用にとナイフ持ってきたがはっきり言って意味が無いだろう。
「アーク君!もっと奥に行ってみよう!」
そう言って彼女が奥に行くので慌てて僕も付いていく。
「よう“口なし”役立たずな癖にダンジョン探索とは余裕があるようだな」
彼女につられて奥に奥に行っている途中にある男に出会った。
そこに居たのはローグ・キャスパー。
成績は第一位で、僕を一番蔑んでいる男でもある。
「あっ!ローグ君も奥に来たんだね!」
アリスはローグを見て近づいて行った。
「やあ、アリス・ホワイトさん」
彼は僕にしていた嫌そうな顔を消して笑顔で彼女に接する。
「一番魔獣を討伐してやろうと思って奥に来たんだ。仲間達とは一旦別行動をとってね」
「そうなんだ~」
「これを見てくれ」
そう言って彼は床を指差した。
そこには魔法陣が描かれていた。
「これは?」
彼女が不思議そうに床の魔法陣を見る。
「これは罠魔法陣だよ」
彼は得意そうに解説する。
「ダンジョンには、魔法使いを苦戦させる罠があちこちにあるって言われているだろう?」
「へーこれが」
「本来は始まる前に視察に来た先生が魔法陣を破壊していくんだけど、見落としてしまったそうだね」
「アーク君見て見て!面白い物があるよ!」
そう言って彼女は僕を呼んだ。
呼ばれあ僕は彼女に近づいた。
「これが罠魔法陣だよ!」
「これが……」
僕は興味津々にそれを見た。
「“口なし”に教えるなんて無意味だ」
ローグがそれを見て悪態を吐くが、それ以上は何もしなかった。
「多分これは転移の魔法陣かな」
「そうだね。この魔法陣は転移の種類だと思うよ」
罠魔法陣にはいくつか種類がある。
一つ目は“物理攻撃型”、炎や矢が対処に攻撃する罠だ。
二つ目は“異常状態型”、眠りや麻痺毒など対処の健康状態に影響を及ぼす罠。
そして、三つ目は“戦力分散型”これは団体で来た戦力を分断する罠だ。
「何か目印を作っておこう。誰かが踏んだら危ないし」
僕はそう言って近くに何か目印に向いているものが無いか探す。
「大丈夫だよ」
彼女が言う。
「何かあるの?良さそうな物は無かったけど」
僕は周りを見ても何も良いものが見当たらなかった為に首を傾げる。
「罠魔法陣って確か一回発動すると消えるんだよ」
「へー」
それは知らなかったなぁ。
「だから……」
そう言って彼女は近づいてきて
「えい!」
「えっ?」
僕を魔法陣の中に押した。
ブォン!
入ってきた僕に魔法陣が反応して光りだす。
「ひぃ!」
僕は慌てて魔法陣から出ようとするが……
バチン!
強い電気のような衝撃を受けて後ろに仰け反る。
「フッ……フフフ」
「アハハハハハ」
ローグ・キャスパーとアリス・ホワイトはそんな僕を見て笑った。
「アリス!?何で!!」
「『何で?』おかしな事を聞くのね?」
そう答えるアリスの顔はもう僕が知っているアリスの顔じゃ無かった。
「私はね……貴方が大っ嫌いだったの!!」
すごく凶悪な顔だった。
人の恨みを全て凝縮した様な表情だった。
「“口なし”と言われいる貴方と同じ村出身なんて、人生最大の汚点!いつか殺してやろうと思っていた!そして、今日がそのチャンス!ダンジョンだと証拠も残らない!魔獣に喰われて死んじまえ!」
「そんな……」
僕はショックで崩れ落ちる。
ブォン!
魔法陣が強く光って……僕はダンジョンの奥深くに消えていった。
ーーー
「ここは?」
転移した瞬間、僕はあたり見回した。
せめて……誰かが近くにいて欲しかった。
だけど……そこには誰もいなかった。
「早く上に行かないと」
“始まりの試練”は五階層ここがどこだかわからないけれど上の階に行けば誰かとは合流できるはずだ。
「松明の光があったのが幸いだった」
明かりも無いとなれば正に絶望だった。
少なくとも魔獣の事を視認できる。
「魔獣出ませんように……」
僕はそう祈りながら、歩き始めた。
だけど……。
ーキキキキキ!
「!!」
ほんの数歩、たった数歩でその祈りは意味のないものとなった。
目の前に現れたのは猿のような魔獣で長い爪を持っていた。
「キィ!!」
「!!」
猿が腕を振りかぶっているのを見た瞬間、僕は慌てて横に飛んだ。
ーザシュン!
僕のいた所場所に爪の跡が残る。
「!!」
僕は急いで後ろに逃げた。
「早く逃げないと!!」
殺される!!
ーーー
そして僕は今、何度も魔獣に食われそうになっていた。何度も牙に爪に切り裂かれそうになった。
何度も息を潜めて岩陰に隠れた。
三日目と言う体内時計で考えているからもしかしたら違うかも知れない。
(お腹……空いたな……)
それに喉も渇いた。
僕は未だに上への階段を見つけれずにいる。
このままでは衰弱死してしまうだろう。
(早く……移動しないと……)
僕は隠れていた岩陰から身を乗り出す。
「クキュルルル!」
「ギィイイイ!」
(!!)
だけど、魔獣二匹が近くに居たから直ぐにまた岩陰に隠れた。
それなのに……
ギュルル……
僕のお腹が鳴ってしまった。
「クキュ!」
「ギィ!」
二匹の魔獣は僕の元に向かって来る。
「!ちくしょう!」
僕はやけくそになって走った。
『ダンジョンだからきっと上の階に行く階段がきっとある!』
僕はただそれだけを希望に逃げ回った。
なのに……
「そん……な……」
僕は目の前の現実に絶望する。
「階段が……」
崩れていた。
上に登る階段が大きな穴を開けて崩れていた。
ービィィィ!
ーキシャキシャ!
ーキキキキキ!
後ろから魔獣達の鳴き声が聞こえる。
「……」
後ろを振り返るとそこには沢山の魔獣が僕を狙っていた。
左は崖、右は壁、後ろは崩れた階段、そして正面は僕を殺そうとジリジリ寄ってくる魔獣。
「なんで……僕が……?」
思わず言ってしまう。
「一体何をしたって言うんだよ!!」
僕は魔獣達にそう叫び、近くにある石を投げる!
「来るな!!来るな!!」
しかし、魔獣に意味は無く。
「グワァ!!」
とうとう一匹の魔獣が僕に飛び掛って来た。
魔獣の前足が僕を抑えつける。
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魔獣が僕を食べようと口を開くが!
「キィキィ!」
別の魔獣がそいつを突き飛ばす。
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僕は逃げようとするが周りに逃げ場は無い。
「グルルル!」
「キィキィキィ!」
「ガルル!」
魔獣達は僕が逃げ出したのを見てまた襲って来ようとする。
「!!」
僕は意を決して崖から落ちた。
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そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
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【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
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