劣等魔術師“口なし”の英雄譚

河内 祐

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ダンジョンの底

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ヒュオオオオオオ!

頰の横を風が吹いていく。

(ああ!やっちゃった!どうしよう!底の方に深い湖なんてあるか分からないのに!!)

「“飛翔フライ”!」

僕は出来もしない飛行の魔法を唱える。
もちろん結果は何も起きなかった。

(死ぬ!絶対に死んじゃう!)

「“飛翔フライ”!“飛翔フライ”“飛翔フライ”“飛翔フライ”!」

それからも僕は落ちている間、ずっと飛行魔法を唱えていた。
結果は同じで僕はずっと勢いが収まる事のない落下運動に身を任せていた。

「底が見えてきた!」

下を見ると地面が迫っていた。

「フライ!」

最後に希望を持って魔法を唱える。
だけど……何も起きなかった。

「く……そぉぉおおお!!」

僕は地面に激突する前に力強く怨嗟の声を上げた。
地面と僕の顔が残り一メートルに差し迫った。
ぶつかるまであと一秒!
だけど

『“クソ”とはあまり褒められた言葉ではありませんね』
「えっ!?」
『貴方には生きてもらいます。の意思を継いでもらいます!」

僕の耳に女性の声が聞こえる。

ドプン!

僕が地面に激突して絶命する事は無かった。

「どうなっているんだ!?」

僕は地面をすり抜けていた。

「ここはどこだ!?」

僕は辺りを見回す。ここはただ白い空間が広がっている。
今、僕は自分がどこで、どうなっているのかもわからない。

「ここが死後の世界?」

あり得ない体験から僕はそう推察する。

『違います。アーク・ミリアム様』
「!?」

また女性の声が聞こえた。
しかし、今回は耳元じゃない前からだ。

「だれ!?」

僕は声がした場所を見る。
そこにいたのは……

「なにこれ?」

複数の青い光の粒から出来た正八面体の形をした物が浮いていた。

『ハローマスター』
「うわ!喋った!!」

正八面体は突然、僕の周りを回りながら先程と同じ声で喋ってきた。

『私は魔術自己知能“アイ”かつての前マスターが私を作りました。分からない事は何でも聞いてください。マスター』
「??」

僕は突然の事に頭が追いつかなかった。

『質問無しであれば。このまま次の計画に進みます』
「待って待って!」

危なかった。
あのまま、何も分からずに次に進むところだった。

「まずマスターって?」
『解。前マスターは“次に此処に来た者に私は仕える”。これを前マスターによって決められました。貴方は此処に前マスターの次に来ました。よって貴方に私は仕える事になりました。マスターとは私を仕えている者につける言葉です』


うーん。
これはまぁ予想通り……超高性能ゴーレムも自分の御主人を『マスター』と呼ぶし、それと同じと言うことだろう。

「なるほど。では二つ目、此処はどこ?」

此処は一体どういう空間でどこに存在するのか僕にはさっぱりわからない。

『解』

しかし、この“アイ”というものは知っているようだった。

『此処は“始まりの試練”第七階層』
「第七階層!?」

おかしい!

「“始まりの試練”は第五階層までしかないはずなのに!?」
『解。此処は“魔術師によって別次元に作られた階層”です』
「魔術師?別次元?」

知らない単語が出てきた。
魔術師も別次元も僕は一度も聞いた事がない。

『“魔術師”解答拒否、後の計画時に説明』

そこで初めて“アイ”は解答を拒否した。
どうやら次の計画とやらで知れるようだった。

『“別次元”解。貴方が住む世界とは別の世界が存在します。“パラレルワールド”と言えば分かりやすいでしょうか?そこでは“魔法が無い世界”も存在します』
「そんな世界が!!」

僕はその真実に驚く。
これはとても凄いことを知ってしまったのでは無いだろうか!?

『その別世界と別世界との間には隙間が存在します。それを“別次元”と前マスターは呼んでいました。此処に入る術を持っていたのは前マスターだけです』
「そうなんだ」

あまりのスケールの大きさからそれだけしか言えなかった。

『その前マスターってどんな人なの?名前は?』

そんな事を知っているのは一体どんな人なんだろう?
僕はつい気になって聞いてしまった。

『解答不可。記録保管から前マスターに関する情報のほとんどがロックしております』
「そうなんだ」

要するに調べられないと。
解答不可が解答拒否以上に困難なのがわかる。

『他に質問は?』
「いやもう無いよ」

僕が考えられる質問を終える。

『かしこまりました。それでは“次の計画”です』

アイがそう言った瞬間。

「うぉおおおお!?」

僕は目の前の光景驚いた。

ピシッ!

僕達の足元にヒビが入った。

『転送準備開始。データ入力転送準備完了。転送まで三秒前。二秒前。一秒前。ゼロ』

その瞬間、僕達は足元のヒビに吸い込まれた。

「!?」

僕は思わず目を瞑った。

『マスター……目の開示を求めます』
「えっ終わったの?」
『その通りです』

アイの声を聞いて僕は目を開ける。

「うわぁ……」

目を開けた瞬間、僕は言葉を失った。
そこにあったのは、咲き乱れる花がまるでカーペットのようになっている丘。
木が生い茂って光を遮る森。
頂上は高くて見えない山があった。

「なんて綺麗だ……」
『マスター』

 アイが後ろから声をかける。
アイの後ろには白い石で作られた風車の近くには小さな家があった。

『家に入ってください』
「わかった」

僕は扉を開けて家の中に入る。
扉は全部で四つ。

「ここは?」

僕は扉を開ける。
そこには正方形切り取られた石で出来たタイルが敷き詰められて、奥には奇怪なオブジェがあった。

『解。ここはトイレです』
「トイレ!?」

こんなトイレ見たことないぞ。
蓋が二枚あるしその内、中にある蓋は馬の蹄に嵌める、蹄鉄の様な形をしている。

『使い方は後で教えます』
「う……うん」

使いこなせるかどうか心配だ。

『ここはバスルームです』
「ほんとだ。お風呂がある。結構広いね」
『解。前マスターは快適空間に命をかけていました』
「そうなんだ」

結構お茶目な人だったんだろうか?

『ここは寝室です』
「ベッドがある」

しかも、サイズがダブルベッドくらいの大きさだ。

『そしてここの先がリビングです』
「この奥が……」

そこには、少し豪華そうな彫刻がされている扉がある。

「良し行くよ!」

僕は扉を開ける。
リビングが一番部屋の中で大きく。
机、椅子があって。
机の上にはお皿があった。

「あれ?案外普通?」

てっきり凄い物が出ると思っていた。

『マスター』
「なに?」

アイに言われて振り向く。

『ご協力感謝します。マスターの状態をドアノブから検知。前マスターの計画を今から説明します。から』
「えっ?」





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