劣等魔術師“口なし”の英雄譚

河内 祐

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魔術

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『とは言え、先ずはマスターの健康状態回復の為にも料理ですね』

アイはそう言い、机の上に飛んだ。

『マスター椅子に座って下さい』
「えっ?うん……ってあれ?」

僕は言われたままに席に着く。
その瞬間、凄いことが起きた。

「料理がある!」

僕の目の前に、まるでさっきまであったかの様に料理が置いてあった。

『これは前マスターが作った机で、座っている人の健康状態から、最も必要な料理を作る事が可能です』
「凄い‼︎」

こんなの魔法でも再現が出来ない!
アイの前マスターは一体どれだけの人だったんだろう?

くぅうう……

僕のお腹が鳴った。
……そう言えば三日間何も食べていなかった。

「いただきます!」

お腹の音で急に空腹を感じた僕はまずスープを飲んだ。

「!!」

飲んだ瞬間、冷えていた体の奥底から暖かさが広がって、冷たさが溶けていくように感じた。
そして、スープに入っている具もとても甘い。
幾らでも食べたくなる。


『それは“オニオンスープ”ですね。疲労回復の効果があります』
「オニオンって切ったら涙が出るあの?」
『その通りです』

小さい頃、家の料理を手伝おうとして涙を流した事がある。

「あの辛い野菜がこんなに甘くなるなんて」
『それは時期が悪かったのです。オニオンは春の時期に甘みが増します』
「そうなんだ」

僕はあっとういう間にスープを飲み干した。
次に出たのはお粥だった。
これには、お米には出汁が効いていてとても食べやすいうえに、とても美味しかった。

『マスターの健康状態を見るに何日か、食事をとっていない事がわかりました。その為に疲労回復の効果があるオニオンスープと、消化のしやすいお粥で栄養を摂取して貰いました』
「うん、とても美味しかった」

どれもとても美味しかった。
空腹が更にご飯を美味しくされていた。
こんなに美味い物を食べたのは久しぶりだった。

『ではマスター』
「うん。話を聞くよ」

食事を終えた、僕はアイの方を向く。
これからアイの前のマスターである人の口からこの次の計画の事を聞くために。

『しかし、まずは前提として置いておいて欲しい情報が一つあります』
「なに?」
『まずこれは過去の映像です。その為に前マスターとコミュニケーションを取る事は出来ません』
「なるほど」
『その事を念頭において話を聞いてください』
「うんわかった」
『では映像を開始します』

そう言ったアイは少し僕から離れた。
その瞬間……

ブォン……

アイから四角い光が現れて壁を照らし出す。

『やぁ』

そこから現れたのは、黒い髪をした男の人にも女の人にも見える姿格好をした人物だった。
背景は……多分……足元に花が咲いているから……あの丘だろう。

『この映像を見ているという事は君は今、“別次元”でという事になるかな?ここはどうだい?』

写っている人は僕に向かって話し続ける。

『ここは綺麗な景色に美味しい料理がある。娯楽が何もない所に目を瞑るのであれば老後はここで暮らしたくなるほど見事な場所だろう?』

自慢気にこの景色を映像いっぱいに見せる。

『念の為に一般人が来ない様にする為に魔獣が沢山いる道中があるが君には関係ない。此処に来るには転移の魔法陣が乗っている者が、条件を満たさないと此処にこれるようになっているからだ』

きっと僕が転移した場所の事だ。
僕はあそこで三日間逃げていた。
絶対に関係あるだろ。

『そんな君の事を一つ当ててみよう』

そう言って指を指す。

『君は魔法が使えないだろう?』
「⁉︎」

あまりの事に座っている椅子から転げ落ちそうになった。

『若しくは魔法が突然、使えなくなったか』

僕の事を的確に当てている!
なんなんだこの人は?

『この魔法が絶対条件にでもある様な世界でそれはとても哀れだ。同情するよ』

そう言って、その人は哀れみの目を僕に向けた。

『しかし!君はめげる必要はない!何故かって?私が作ったこの力が!君を助けるからだ!ここの空間は私と同様にそんな君を探していた!この力を受け継ぐに相応しく!私を超えたいける君を!』

そう言ってその人は映像の中で、いつの間に用意していたのか、カカシを指差す。

『まずはこれを見てほしい』

そう言って、その人は赤く錆びた様な色をしたナイフを取り出した。

『私が作ったこのナイフでこれから見せる力は、言わば氷山の一角、端っこでしかない』

ナイフをカカシに向ける。

『そしてそれは!魔法と似て非なる力!』
「‼︎」

その人がナイフを向けた瞬間、その人の周りを蒼く柔らかい風の様な物が流れ始めるのを僕は見た。

『魔法と乖離した君はその力を持ってして私の力を引き継いでもらおう!見ておけ!これが君に託す力の一端!』

ナイフが赤く光り始める。

『“魔術”だ‼︎』

チュドン!

大きな音がしたかと思うとカカシがあった場所は地面が抉られられる様にカカシと共に消滅した。

『見たか‼︎』

その人は、まるで玩具を買って貰った子どもみたいに目をキラキラさせている。

『これが“魔術”!私が作った魔法に似て非なるもう一つの法則!その魔術についてだが』

そして魔術の説明が始まろうとした瞬間。

『マスター残りの電力が十パーセント。支給魔力補給が必要です』

映像の中からアイの声が聞こえた。
なるほど……この時からアイはいたのか。

『しまった‼︎とりあえず説明は別の日にしよう!』

その人が、そう言った瞬間映像が暗くなった。

「あれ?お終い?」

画面が暗くなり、そこから何も始まらず。
僕は終わったのかと思った。

『違います……残りの映像を再生します。暫しお待ち下さい』
「あっうんわかった」

勘違いした僕にそう言った、今のアイは別の映像を再生をする。 

『やぁ映像を続けられなくて悪かったね』

そこに現れたのもの、さっき見た人だった。
しかし、場所は変わっていてこの家のリビングにいた。

『早速、魔術の説明をしようか』

そう言って、その人は後ろに黒板を用意する。

『先ずは魔法の説明だ。魔術の説明をする為にも魔法の説明はとても大事だ。よく聞いて欲しい』

そう言ってチョークを持つ。

『先ず、魔法の始まりは歌だった。人は気付かずに自分の魔力を歌声に乗せて、赤子には眠りを。戦士には力を授けて来た』

そう言って彼は音符を黒板に書いた。

『そしてある日、一人の天才が現れた。歌に備わる力の存在に気付き、それを魔力と名付けた』

これは学校の授業でも聞いた事がある。
魔法が生まれてきた歴史は、どの学校でも絶対にやる大切な授業だ。

『天才は魔力で何が出来るかを一つ一つ解明していった。それが魔法となった。魔法は言葉の力、言霊と魔力によって起きる現象となった』

そう言って、黒板に音符の隣に星の形を書いた。

『天才からの知識を受け繋いで行った人達は、魔法をいくつかの効果に分類した。それは三つ、攻撃効果、回復効果、支援効果だ。更に細かく分類できるが、そうするときりがなくなるのでここでは割愛させてもらおう。そして魔法は、全世界に広がり、私たちの生活の基盤となっていく。これが魔法の簡単な説明だ』

そう言いながら、黒板に書いた物を消していく。

『そして、“魔術”についてだ』

『魔術を使う者を私は“魔術師”と呼んでいる。魔術師は魔法使いよりだいぶ異形だ。これを見て欲しい』

そう言って、黒板に人の絵を簡単に書く。

『魔法使いが持つ魔力は』

そう言って、チョークで人の絵の周りに煙の様な線を書く。

『人を包まれる様に出来ている。魔力は体内で生成され、そこから熱の様に外に放出されるのだ。そして魔法を行使する時』

人の絵に吹き出しを書き、魔力の部分を雷の様な絵に変える。

『言霊の力で魔力は魔法に変わる。一方、魔術師は……』

そう言って、一度黒板の絵を消して、また人の絵を書く。
しかし、今度は魔力を書かなかった。

『魔力を体外に放出する事が出来ない。これにより魔法を使える事が実質、不可能になってしまった』
「‼︎」

その言葉に僕はまた驚いた。
僕はもう魔法を使えなくなったのか……。

『魔法が突然使えなくなってしまう原因はまだわかっていない。そして君が此処に来た時代もまだ原因はわかっていないだろう』

その通りだ。

『そして、君が死ぬまでに解明される事もきっとない。魔法使いになりたいのであれば』

そう言って……一度手を止めた。

『諦めろ。私からはそれしか言えない』

その顔はとても辛そうだった。
一体、この人に何があったんだろうか?

『話を戻すが。魔術についてだ。体内にある魔力を使う方法は現時点で一つ。道具を使う事だ』
「道具?」
『これは“媒介”とでも言うか……魔法に似た現象を起こすには、魔力を通し、魔力を出す道具が必要になる。魔法は“言霊”、魔術は“道具”が必要になる。これが魔法との大きな違いの一つ』
「一つ?」

まだ違いがあるのか……。

『これが一番大きな違いだ。魔術は魔法より出来る事が数多く存在する!』

そう言い、黒板を強く叩く。

『魔法は遠くに転移する事が出来ない。しかし魔術は、それこそ国から国への転移が可能‼︎これが不可能を可能にし君が習得する魔術だ‼︎』

そう言って、その人は手を伸ばす。

『君が習得する気になったらアイにそう言ってくれ。少なくとも此処から出る為には魔術を習得する他ないが。ゆっくり知っていってほしい。“別次元”には時の概念が無いから年も取らずに時代に取り残される事が無いから安心して欲しい。家族や友人達との死別は基本無いと思ってくれ』
「‼︎」

最後にさらりと凄いことを言ったなこの人!

『じゃあゆっくり休んでくれ』

そう言って映像は終了した。

『如何でした?』

映像を終了したアイが聞いてくる。

「質問を良い?」
『どうぞ』
「此処を出るには?」
『“魔術”の習得が絶対です』
「時の概念が無いとは?」
『先程、映像のとおりです。マスターは時に取り残されず。老いる事もありません』

別次元……奥が深いなぁ……。

「なるほど……最後に一つ」
『はい』
「僕は第六階層から此処に来たんだけど、どうして真っ直ぐ此処に来れなかったの?」

正直、一番気になったのは此処だ。
どうして僕は死にかけながら此処に来たのか?
映像の人は随分すんなり行ける感じに話していたのに。

『……原因はわかりません。恐らく前マスターの魔法陣には欠陥があったとのが一番の確率でしょう』
「そうかぁ……」

今度はちゃんと作っていて欲しいなぁ……!

『マスター……前マスターの“魔術”の話はどうされますか?』
「まぁ……此処から出る為にも習得はするよ?」
『……了解しました。念のため、言っておきます。マスター』
「?」
『習得には恐らく数百年はかかります』
「……ゆっくりやっていこう」

これは随分と大変なことになりそうだ。





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