劣等魔術師“口なし”の英雄譚

河内 祐

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『ではマスター、これから魔術習得の為の計画を説明します。準備はよろしいですか?』
「うん!」

アイの問い掛けに僕は元気良く答える。
あの後、僕はアイの助言もあり睡眠をとる事にした。
その為、この空間ではもう一日が経っている。

『前マスターは昨日、“魔術とは何か?”をマスターに教えました。これからは私が“魔術を使用する為には”と言う事を教えていきます』
「あれ?映像とかではないんだね?」

てっきり、前マスターの人の過去の映像から使い方を教えてくれる物かと思っていた。

『解。教育とは映像ばかりでは教える事は出来ません。言いたい事を言った後に生徒に実践させては出来ない生徒にアドバイスをする事が出来ません、教育とは現場でしか起きないのです』
「なるほど」

確かにアイの言う通りだ。
過去の映像だけでは個々にアドバイスをするのは難しいだろう。

『なので、私がマスターに教育をするのが良いのです』

そう言ってアイは僕の周りをグルグル回った。

『さぁマスター……先ずは己の中にある魔力を認識する必要があります。目を閉じて下さい』
「うん」

アイに言われて僕は素直に目を閉じる。

『そしたら、自分の右手に意識を集中させて下さい』
「うん」
『此処からはイメージが必要です。先ずは右手を温かい空気が覆っていると考えて下さい』

温かい空気……


『そしたら熱が少しずつ、自分の体に伝わるようにイメージして下さい』

全身に……

『……そして全身に熱が広がったイメージが出来たら』

出来たら……

『今度は広がった熱を身体の一点、心臓に向けて動かすようにして下さい』

心臓に……
僕はゆっくりと心臓に熱が行くようにイメージしていく。
その時だ。

ドクン!

「うわぁ!」

心臓の音が大きく体内に響く。
僕はそれに驚き、イメージが途切れた。

「なんだったんだ?今のは?」
『おめでとうございますマスター』
「アイ⁉︎今のは何⁉︎凄く大きな鼓動音がしたんだけど⁉︎」

今まであんなに大きな鼓動の音を聞いた事がない。
耳の近くに心臓があったみたいだ。

『それが魔力を認識する第一歩になります。マスターは全身に広がった熱のエネルギーを心臓に集中させる様にイメージしました。その時にマスターの体内にある魔力もまた、心臓に向かって進んでいくのです。マスターが聞いた鼓動の音も魔力が反応したから出来た事です』
「そうなんだ」

魔力がそこまでイメージに影響されるなんて思いもしなかった。

『この調子なら魔力の認識には時間はかかりませんでしょう』
「そうなの⁉︎」
『はい』
「よ~し!やるぞ!」

アイの言葉にやる気を出した、僕はさっきと同じイメージを始める。
先ずは意識を右手に集中させる、その後は右手に温かい空気が覆っている様にイメージして、今度はそれが全身に広がる様にイメージする。
そして最後に……熱が心臓に向かうイメージをする。

ドクン‼︎

心臓が強く脈を打つ。

「……」

僕はそれに動じずに熱を集中させる。

ドクン‼︎ドクン‼︎

脈を打つ力が強くなっていく。
更に熱を集中させていく。

ドクンドクン‼︎ドクンドクン‼︎

脈を打つスピードが上がってきた。
僕はイメージを続ける。

ドクンドクンドクン‼︎ドクンドクンドクン‼︎

速さも音も大きくなっていく。そして鼓動の音は突然、

パリン‼︎

まるでガラスでも割れるかの様な音に変わった。

(‼︎)

その時、僕の頭の中には変なイメージが広がっていった。
空気が冷たく新鮮な野原で僕は横たわっている。
そこから見える大空は雲一つない快晴だった。
なのに……

ドーーッ!!

っと、細い雨が降ってくる。

「⁉︎」

僕の体に雨が染み込んで、自分の存在を叫んでくる。
「俺は此処だ‼︎感じろ‼︎俺はいる‼︎」そう言っている様に感じた。

『マスター!』

アイの声で、僕はハッと目が覚めた。

「アイ……僕は今、凄いのを感じた」
『何かあったのですか?』

僕はさっき見た光景や衝撃をアイに伝える。

『なるほど……マスター』

アイは僕の周りをグルグルと回る。

『全身に意識を集中させて見て下さい』
「わかった」

僕は目を閉じて、全身に意識を集中させる。
その瞬間、

「ぉおおお⁉︎」

僕の体の中に強いエネルギーがあるのを感じた。
それはとても力強く岩をも砕く滝の様に感じる。

『それが魔力です。マスター』
「これが……」

アイの聞いた僕は、魔力をもう一度感じてみた。
やはり力強い、とんでもないエネルギーを認識する。

『マスターは魔力が他者よりもあるので魔力が力強いのかも知れません。前マスターは音の様に感じ、体内で衝撃の強さを感じたそうです』
「へー」

人によって個人差があるのか……。

『魔術師は魔力をしっかりと認識していないと道具に魔力を流せません。その為に常時、魔力を認識し続けれる様にしていきましょう』
「うん!」

僕はアイの言葉に強く頷く。

「だけどどうして魔力を二度目で認識出来たんだろう?」

もっと時間がかかる物かと思った。

『マスターは魔力の量がとても多い。その為にマスターの体内には魔力が余す事なくギチギチに詰まっています。そのおかげで認識がしやすかったのでしょう』
「なるほど」
『何はともあれマスター、魔力の認識おめでとうございます。次の訓練も始めますか?』
「うん!始めよう‼︎」

僕は新しい第一歩を踏み出した感じに、興奮して次の訓練に直ぐにでも進みたいと思っていた。

『わかりました』

アイも承諾する。

『では地下にいきましょう』

えっ?地下なんてあるの?


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