劣等魔術師“口なし”の英雄譚

河内 祐

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授業も開始

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『前マスターが言っていた通り、魔術には媒介が必要です。マスターが魔術を習得するにあたって、魔力の認識と体内にある魔力を出す道具を作っていくのは必要事項です』

そう言ってアイは階段を降りる。
僕がいるこの家には地下室があってそこに向かう途中だ。地下に通じる階段があったのは家の裏だ。

「でも、何で地下に……」

家の横にでも作れば移動も楽でいいのに……。

『前マスターは道具の制作に失敗した時に、何が起こるか解らず、被害を最小限にする為にも地下室を作りました』
「なるほど」

リスク管理もしっかりと行っていたのか。

『此処です』

そう言ったアイの目の前には木の扉があった。

「じゃあ失礼するよ……」

僕はそう言って扉を開けた。

「⁉︎」

扉を開けた瞬間、僕は息を呑んだ。
そこはまるで巨体な図書館だった。
扉を開けて直ぐに高さ十メートルはあるような巨体な本棚が数多くある。
その本棚には、隙間を余すことなく本が入っていた。

「何が書いてあるんだろう?」

僕は近くにあった青色の一冊の本を取る。
タイトルは『実験結果50~69:風の魔術に適した媒介』と書かれていた。
内容はこう。

[風の魔術には適した媒介は刀の形をした物が良いというのが実験結果40~49のでわかった。では今度は形では無く素材の観点から見てみようと思う。

(中略)

鉄が今の所、素材として申し分ない安定した効果を発揮するが、ムラのある効果で考えると、琥珀で作られた物の方が効果は高い。安定した効果が得れないかより調べる必要がある]

この後も沢山、実験結果についての考察の方法が書かれていた。

「アイ……もしかしてこの地下にある本全部が……」
『はい。前マスターが行った実験結果と、その考察、またその実験方法が書かれた物です』
「すごっ‼︎」

その言葉しか出てこない。
此処にある本全てにどれだけの時間を費やしたんだろう……。
何がそこまで、この人を突き立てたのか。
僕にはそれを、とても羨ましいと感じた。
此処にある全ての本が、前マスターの熱意を表している。
僕にはきっと出来ないだろう。

『マスター、先に進んで下さい』
「うん」

僕は本を元の場所に戻して更に奥に進む。
途中何度か、横切る通路があってそこを覗けば、更に本棚があった。

『此処です』

アイに言われて来た場所には、かなり広い空間があった。
そこには、今までなかった機械が数多く見られる。

『マスター、真ん中の機械に触ってみてください』
「うん」

その空間の真ん中には、円盤の形をした機械あって僕はそれに触ってみる。

ブォン

すると機械には光が灯り、光が文字になっていく。
書かれている文字は全部で四行。

1、魔術師育成計画。
2、属性魔術の実験と考察。
3、特殊魔術の実験と考察。
4、この異次元空間の地図。
5、本の検索。


そう書かれていた。

『マスター、魔術師育成計画の文字を触って下さい』

そう言われて触ってみた。

ブォン

するとまた音が鳴って、文字が変わっていく。
今度は更に項目が増えていた。

1、魔術について。
2、攻撃系統の魔術とは。
3、防御系統の魔術とは。
                   ・
                   ・
                   ・

その他にも五十以上の項目があった。
一番下には“前に戻る”の項目もあった。

『それではマスター、一番上の項目に触って下さい』

僕は1の“魔術について”に触った。

スイー

すると不思議な音がする。
音がする方向を見ると、一冊の白い本が僕の所に飛んできた。

「アイ……この機械は……」

僕は飛んできた本を手に取って、今までの不思議な現象を起こす、この機械について聞く。

『説明しましょう。この機械は言わばこの地下室の“司書”です』
「“司書”?」
『はい』

僕は学校の近くにあった、図書室の司書さんを思い出す。
少し曇った眼鏡をしたおじいさんで、優しい顔をしていた。

『この機械は検索した。本を検索した人の手元に運んできます』
「凄い……」

そんな言葉しか出ない。
前にも思ったけど、この空間を作ったアイの前マスターは一体何者なんだろう?
人間が出来る範囲を超えている気がする。

『マスターもいずれは、この様な事が出来るようになります』
「ほんとに?」

思わず疑ってしまう。

『はい。時間はたっぷりありますから。ではマスター、魔術をより深く教えましょう』
「はいお願いします‼︎」







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