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道具の製作
しおりを挟む僕は早速、手元に飛んで来た本を読む。
本自体はさっきと違い大分薄い。
書いてあった内容はこうだった。
[まずはじめに
魔術は魔法とは違い人を選ぶ。この場合、選ばれるのは何も魔力が高い人間と言うわけではない。それならば、すでに魔力が乏しい私は魔術を使用する事が出来ない。私の様な肉体的問題点から魔術の使用が可能になる。
魔力が体から出ない、その原因は私は分からない。
もし、遺伝子だとするのであれば私が産まれた時点で魔法は使えない。
しかし、私は子どもの頃、魔法の使用は可能だった。
その事から原因は遺伝子ではないと考えている。
残念ながら原因は分からないままになるかも知れない。
これを読む人の時代には解決して差別のない世界である事を私は祈る。
1:魔術の区分
魔術を研究するにあったて私は、魔術に単純な三つの区分を設ける事にした。
それの三つは。
攻撃系統、防御系統、支援系統の三つだ。
1ー1、攻撃系統とは
攻撃系統とは、単純に言えば他者に害する効果を与える魔術の事だ。
肉体の欠損に繋がる物。精神に与える物をこの系統に分けた。
攻撃系統について記した研究書も製作予定なので、細かくはそこに書く。
1ー2、防御系統とは
防御系統は攻撃系統とは逆に、相手の攻撃から身を守る効果を持つ魔術の事だ。
物理で攻撃を防ぐ他に、精神への攻撃を防ぐ物をこの系統に分けた。
防御系統についても記した研究書を製作予定、細かくはそこに書く。
1ー3、支援系統とは
支援系統は二つの系統とは違い、対象の動きを補佐する効果、又は対象の行動を阻害する効果を持つ魔術の事だ。
対象がダメージを受けたら回復をする魔術、対象の力を上げる魔術、対象の体に何らかの異常性を発揮する魔術をこれに区分した。
これも、以下略である。
2、魔術の使用について、
魔術を使用するには媒介となる道具が必要になってくる。
体内にある魔力を外に放出する為だ。
道具を製作するには二つの方法がある。
それは“文字効果”と“魔術回路製作”である。
2ー1、“文字効果”とは
“文字効果”これは魔術を使用するにあたって多少の技術が必要になる。
しかし、その技術は魔術師の基本的技術として必要になってくるので、初心者は試験官の先生、若しくは自分より実力のある者に立ち合ってもらい、その技術を磨いて欲しい。
その技術とは、自身の魔力を操作するという技術である。
魔術を使う者は、魔力を外に出す事は出来ない。
しかし、体内であれば魔力を自在に操れる。
その為、指先などに魔力を集めれる様にし、使う道具にその効果を唱えれば、魔力が道具に吸い付く。
この時に大切なのがイメージ力、効果の細部をイメージ出来れば出来るほど効果は安定し、高い効果を発揮する。
効果についての細かいことは、後の研究書に記すので見てほしい。
2ー2“魔術回路製作”とは
“文字効果”とは違い、“魔術回路製作”にはある道具が必要になる。
道具名は“錬成盤”、黒と白の二枚の板からなる物だ。
使いたい道具を黒の錬成盤の上に乗せて、魔力を特定のボタンに流し込む。
その後、白の錬成盤にどの様な効果を作りたいかを板に特殊なペンで描く。
此処で描くのは文字では無く線。
枝分かれした様な線で魔術の効果を発揮する事が出来る。
この方法はイメージ力は必要ないが、書く回路に対する知識が必要になってくる。
しかし、錬成盤で出来た道具は安定した効果と、短期で大量に製作するのが可能なので、技術としてこちらも抑えて貰いたい。
回路についての細かいことは、後の研究書に載せるので見てほしい。
5、最後に……
私の知識を得る為に努力する者よ。
これは高い山に登るための基本でしかない。
基本を疎かにした者は、途中まで登れても何処かで止まる。
基本を疎かにしてはならない。]
「読み終わったよ」
僕はアイにそう報告する。
『内容は理解出来ましたか?』
「うん」
攻撃系統、錬成盤、文字効果、色んなのがわかった。
でもそれ以上に分かったのが、アイの前マスターの凄さだ。
読んでみるとこの人は魔術を作るのに基本となる技術を、全くの手探りから始めた事になる。
細かな手がかりも見失わずに、この技術を作り上げたのだ。
此処までくるのに一体どれだけの年数を重ねて来たんだろう。
きっと、何十年では足りない時間を此処で過ごしたのだろう。
「すごいなぁ……」
僕は手元にある、白い本をそっと撫でる。
本の表紙は滑らかで、年季を感じさせない。
しかし、ページにある傷やシワが長い時間が経ったのを伺える。
『ではマスター道具を製作してみましょう』
「えっ⁉︎もう⁉︎」
僕は本から目を離して、アイを見る。
こういうのって、初心者にやらして大丈夫なの⁉︎
せめて自分の魔力の認識をもう少し上手くできる様になってからじゃない⁉︎
『マスターの魔力の認識訓練は大分早くに終了する可能性が出てきました。合理的に行う為にも道具製作訓練と同時にやって貰います。基本の技術なのでどちらも完璧になるまで』
「はっはい、わかりました」
ズイッと近づくアイに僕は思わず敬語を使う。
『ではマスター、素材を森から拾って来ましょう』
「うん」
道具を作るために僕達は早速、森に向かった。
森は日差しが全く入らない訳では無く。
ところどころから太陽の光が筋の様に入っていて、スポットライトみたいになっているのが外から見ただけでもわかる。
「幻想的だなぁ」
僕はそう呟き、森の中に入ろうとするが、
『ストップです。マスター』
アイに止められてしまった。
『マスターは初めて道具製作を行います。森の中に入れば入るほど扱い憎い素材が多くなります。その為、先ずは近くの木から採取した物を使って下さい』
「なるほど確かにそうだ」
アイの言っている事は最もだ。
しっかりと段階を踏んでやらないと。
「これが良いかな?」
僕は少し、周囲を見渡して近くに落ちてあった木の枝を拾った。
『それは柏の枝ですね、素材としても申し分ないかと』
「じゃあ地下室でやってみようかな」
『それが良いと思います』
そう言って僕は枝を後、何本か拾い地下室に戻った。
『それでは……マスター開始して下さい』
「うん」
地下室に戻った僕は枝に向かって指を添える。
先ずは“文字効果”からだ。
僕が“文字効果”に選んだ言葉は“浮遊”。
書いた物をちょっとだけ浮かせる魔術だ。
「“浮遊”」
そう唱えながら僕は指に魔力を集中させる。
そして、物が浮かぶイメージもしっかりとする。
(これはきついな……)
魔力を操作しながらイメージを持ち続ける。
この動作自体にかなりの集中力が必要だった。
枝は魔力をどんどん吸っていく。指に吸い付く様な感じだ。
『マスター、それぐらいの魔力で充分です』
「えっ?そうなの?」
アイにストップをかけられた。
「疲れたー」
アイにストップをかけられて時、疲れがドッと出てきた。
『集中が長く続いていましたね。魔力操作やイメージ力をもっと身につければ、より早く道具を完成する事が出来ます』
「わかった……」
これはしっかりと身につけるのめっちゃ大変だ。
まだまだ、僕は魔術師を名乗るのは早いようだ。
『マスター、枝に魔力を込めてみてください』
「そうだね」
どれくらいの効果を発揮するのか気になりもしていたので僕は枝に魔力を込める。
ーーー
『“浮遊”は対象をちょっとだけ浮かせる魔術です。この場合だとその枝が浮きます』
「枝が操作する訳では無いんだね」
『それは“物体操作”の付与ですね』
「なるほど、確かに“文字効果”をする前に聞いた話と同じだ」
話を聞いた限りだとあまり危険な効果でも無い。
初心者にぴったりな効果だろう。
「だけど……アイ……これは」
『はい。コレは……』
僕達は目の前で起きている物を見る。
「『物体操作』」
そこでは、枝だけでは無く、本も一緒に浮遊していた。
本棚から落ちていた本に至っては屋根に向かって飛んでいる。
「しかも、枝は既に屋根に激突している」
“文字効果”を付与した枝は既に屋根に達していた。
『効果が切れた時に本が頭に落ちたら危険です。一度、地下室から出ましょう』
「うん、そうだね」
僕は今も屋根に向かっていく本を尻目に、地下室から出た。
「何でこんなに強力な効果になったんだろう?」
話に聞いていた“浮遊”は、そこまでの効果じゃなかったのに。
『マスターの“文字効果”は多量の魔力が原因だと考えられます』
「魔力が?」
『はい。マスターは魔力が多い為に他者が持つ10%の魔力とマスターが持つ10%の魔力だと量も密度も違います。言ってしまえば、バケツの水とコップの水、水の量が同じ10%な訳がないのです』
「なるほど」
例えで一気にわかりやすくなった。
「じゃあ僕は“魔術回路”の方が安定するのかな?」
『それはまだわかりません。マスターが魔力操作をより完璧にすれば“文字効果”の方が良い物になるかも知れませんし』
あっそうか。
『“浮遊”の効果が無くなったら“魔術回路製作”もやってみましょう』
「はーい」
『それまでは魔力の操作訓練です』
「はい」
そう言って、僕は魔力操作の訓練を始めた。
“浮遊”の効果が切れたのは、それからおよそ三日後の出来事だった。
ーーー
『それでは“魔術回路製作”訓練に移ります』
「はい!」
“浮遊”の効果が切れた日から僕は訓練を再開した。
訓練場所は家の外、此処から何も浮かす物が無いからだ。
『マスターの“浮遊”に大分遅れを取りましたが、頑張っていきましょう』
あそこまで長持ちするとは僕も思わなかった。
『ではマスター、二枚の“錬成盤”を用意して下さい』
「はい」
僕は白と黒の板を持ってくる。
『ではマスター黒の方に枝を、白の方に回路を書いてください』
「はい」
そう言い僕は枝を黒の板に置いた後、白の板に回路を書いた。
白の方には既にペンが用意されていた。
ペンは僕の魔力を吸って回路を白の板に描く。
黒い方はそれに連動して枝に回路を書いていった。
「終わったー」
そして五分くらいかけて完成した。
枝には細い線で描かれた回路が幾つにも枝分かれして描かれていた。
『“魔術回路製作”は安定した効果を発揮する事が可能です。試しに魔力を流してみて下さい』
「はい」
僕はこの前と同じ様にならないように、と祈りながら魔力を枝に込める。
魔力は回路を通って枝全体に広がっていく。
そして……その“浮遊”の効果は……。
「……」
『……』
「……アイ」
『……はい』
「上がったね」
『上がっていきましたね』
枝は凄まじい勢いで天にまで登っていた。
もう見えない。
「効果が安定するんじゃ?」
『マスターは例外らしいですね』
「コレからどうしよう?」
『先ずは魔力制御では?』
とうとう操作とも言わなくなってしまった⁉︎
「わかった……」
そう返事して、僕は魔力制御の訓練を始めた。
しかし、それからも魔術の効果は弱まらず。
「出来た‼︎」
『おめでとうございます‼︎』
「アイ‼︎ようやく出来たよ‼︎」
『私も嬉しく思います‼︎』
「出来るまでどれくらい経った⁉︎」
『ざっと100年ですね』
「マジで⁉︎」
簡単な魔術を使うのに100年の時間をかけた。
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