劣等魔術師“口なし”の英雄譚

河内 祐

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準備ののちに討伐

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「おーこれは派手にやったな」

ヴァンさんは嬉しそうにさっきの爆発でボコボコになっているネッコーノヒトを見た。

「初めての依頼だし大した攻撃手段を持ってないかと思っていたが、存外にやるもんだな」
「……はい」

そんな中、僕はへろへろになりながら呟くように返事をした。

「今回の新人さんはどうやらすごく元気いっぱいらしいですな」

農家のおじさんはそういうけどモヒカンさんとアイはともかく僕は結構身も心もへとへとですよ⁉︎

『マスター!私もへとへとなんですけど⁉︎』
「嘘つけ」

ギュウウウ!とアイの頬を全力でつねる。

『いたぁああい⁉︎』
「たてたてよこよこ」
『マスター⁉︎おやめください⁉︎』
「丸かいて」
『マスター‼︎』
「ちょんちょん」
『いったぁああい!』

僕は多少スッキリし、ヘトヘトだった心の部分は少し回復した。

『マスターはドSというかDVに目覚めてもおかしくないのでは?』

アイが横でボソボソ言ってたけどスルーする。

「しかし、油断すんなよ」

そんな中、後ろからエルガ(モヒカン男)さんが話しかけてきた。

『油断?へへーん残念ながら私たちの勝ちは揺るぎませんよ!』

競ってもいないのに堂々とアイは変なフラグを立てた。

「ネッコーノヒトはあと10体はいる」
『……はい?』
「ほらそこ」

そう言って指を指している方向をみるとネッコーノヒトがすごい形相でこちらを睨んでいた。

「おそらく仲間がやられたことに怒りを感じたんだな」
「我等ノ眠リヲ妨ゲルノハ貴様カァ……」

違うらしいですね。

「ネッコーノヒトは仲間意識なんてないぞ」

ヴァンさんはそう言いながらまた僕たちの方を指さした。やばい凄い嫌な予感がする‼︎

「お前らを起こしたのはこの嬢ちゃんと坊ちゃんだぞー」
『さよなら!マスター!』
「あっ⁉︎」

アイは凄い勢いで走り出した。
いや早いな!走り出した勢いで周りの地面少し抉れてないか?

「「「貴様達カァアア‼︎」」」
「あぁああ!今度は違うと言いづらいぃ!」

その後、僕はアイを囮にしては石を投げて爆破、石を投げては爆破を繰り返して五体を片す。

「オノレ……」
『「シャァアアア‼︎あと半分‼︎』」

5体を片す頃にはアイも僕も変なテンションになっていた。

『かかってこいやオラァアアア‼︎』
「もういないぞ」
『「あれ?」』

ヴァンさんに言われて周りを見てみると確かにもうそこにはいなかった。

「お前達の形相にヤバさを感じて奥の山や森に逃げていった」

そう言って指を差した方向をみると確かに山や森に向かって足跡が残っている。

「ネッコーノヒトはぶっちゃっけあまり強くないが、小さい子どもたちには十分な脅威になり得る」
「じゃあ早く追わないと!」

僕たちのせいで周りの人達が危険な目にあうことを想像し血の気が引く。

「けど問題はない、残りは明日だ」
『しかし!』
「この時期に子どもは山や森に入らないようによく大人達に言われているし、見回りの兵もいるから大丈夫だ。それに陽が落ちれば暗い森や山を歩くことになるそれは避けろ」

確かに日はだいぶ傾いている。

「夜にここにネッコーノヒトが来ても大丈夫だ。このおっさんネッコーノヒトくらいなら3秒もあれば倒せる」

何者だよ⁉︎いや魔獣がいる畑で働いてる時点でまぁ普通の人じゃないよな。

「お前達が今現在どれくらいの強さなのかも理解できた。明日はしっかりとネッコーノヒトを片せば問題ない。次からはギルドが適切な仕事を渡すぞ」

そう言って歩き出す。

「今日の依頼は成功も不成功でもないな。もっと落ちついてやれ」
「『はい‼︎』」
「良い返事だ」

そう言うとぐしゃぐしゃと僕とアイの頭を撫でた。

「エルガ、街までの定期便ってあと何分だ?」
「5分くらいじゃね?」
「……」

実は畑と先程の馬車の停留所はそこそこ離れていてそれこそ5分から10分くらいの距離だ。

「よし!お前ら急げ!」

そう言うとヴァンさんは全力疾走で停留所の方へ向かった。

「あっ!兄貴!お前達も速く行くぞ!」

エルガさんもそう言うと慌てて走り出した。

「おじいさん明日必ず依頼を達成します!」
『絶対ネッコーノヒトを倒します!』
「ほっほっ、期待してるよ」

僕たちは慌ててヴァンさん達の後を追おうとしたけど、おじいさんにしっかりと挨拶してから走ることにした。

『マスター私があなたを担いだ方が速くないですか?』
「やめて⁉︎」

結局、馬車には間に合ったけどゼーゼー言う僕の前でアイは涼しい顔をしていた。

「この嬢ちゃんの方が体力あるんだな」

やめて!





「お帰り」

ヘロヘロになりながらおばさんが経営している宿屋に着いた。

「依頼はどうなった?」

おばさんはにこやかに話しかけてくる。

「達成出来ませんでした。あしたまた依頼をします。先輩の冒険者さん達がギルドに報告に行ってくれました」

ヴァンさん曰く「新人は速く帰って明日に向けて準備をしろ」とのことだった。

「宿屋代は持ってますので」

僕はそう言って550ペルーをおばさんに渡す、速くベットにいやまずは準備をしないと。

「いやいらないよ」
「えっ⁉︎」
「さっきドロン坊主がお前たちの代わりに5500ペルーこっちに渡してきてね。「これでガキどもを休ませてくれ」だって」

そう言っておばさんは笑顔になる。
いや!ドロンさん凄い優しい!面倒見がすごい!

「お礼言わないと」
『そうですね」
「ドロン坊主があそこまでやるんだきっと良い冒険者になるんだよ」
「『はい』」

そう力強く返事をする。
その瞬間だった。

クキュゥウウウウ……

僕のお腹の音が小さくなった。

「寝る前に飯と風呂だねぇ」
「は……はい」

僕はすごく顔を赤くしてしまった。








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