劣等魔術師“口なし”の英雄譚

河内 祐

文字の大きさ
24 / 28

準備ののちに討伐(中)

しおりを挟む
「はぁ~……」

チャポン……と天井から落ちくてくる雫が波紋を作る。

「これが……温泉」

宿屋の近くには温泉があり、そこを風呂にしていた。
シャワーしか浴びない文化の僕にとってはそれはとても新鮮な物だった。

「いい……これは……いい」

つま先から疲れが取れるようですごく良い……少し熱いのが難点かもしれないが入り始めるとそれも良い点に思える。

「よぉ良い顔してんな、のぼせるぞ」
「あっ!ドロンさん!」

僕が温泉の気持ちよさでうとうとしていると、ドロンさんに声をかけられた。

「ドロンさんもここを使ってるんですね」
「あぁ」

ドロンさんはそう言うと肩にお湯をかけながらふぅ~と声を漏らす。

「宿屋の宿泊費ありがとうございます」

そう言って僕は水面ギリギリまで頭を下げる。
湯気が顔に当たってこれも気持ちいいかもしれない。

「問題ない。俺も昔、新人の時に先輩冒険者によくしてもらっていた」
「そうなんですね」
「お前達が強くなった時にまたこうして新人にやってやれ」
「はい!」

くそ~かっこいいと言うか人が出来ている。
僕も将来こうなっているんだろうか?

「初めての依頼はどうだった」
「……失敗しました」

依頼の話を思い出して、僕の表情は少し暗くなる。
ヴァンさんはああ言っていたけど、経験も準備も足りない僕たちはネッコーノヒトを山や森に逃した、もしそれがもっと危険な魔物だったらと思うと……改めてここの仕事が危険で重要なのがわかる。

「そうか、それは何よりだ」
「えっ?」

ドロンさんの言葉に耳を疑う。こう言うのはあまり褒める物ではないのだろうけど?

「お前達の表情が変わらなかったら俺らの方から注意しないといけなかったがな」
「……」
「『成功するとどうなるのか』これを考える冒険者は結構いる富や名声を集める自分を想像する。だが『失敗するとどうなるのか』これを考える奴はあまりいない」
「……」
「依頼主の危機、魔獣、危険団体の暴走、今後の信頼関係……etc etc、それらを考えれる冒険者は自ずと失敗を恐れて失敗しないように準備と研鑽を怠らない。今日、お前達はその出発地点に立ったんだ。頑張れよ」

そう言ってドロンさんは立ち上がる。

「宿屋の婆さんもそろそろ飯を作り終えるだろう、あの嬢ちゃんも連れて飯食いに行くぞ」

その時だった。

『きゃぁ!』
「おっいい感触だね!」
『ちょっとベルさん!どこ触ってるですか!』
「やだなぁ気軽にランちゃんって呼んでくださいよ。私とアイさんの仲でしょう?それにしても中々の物を……」
『そこまでは!そこまでは許されない仲です!それとベルさんの方が大き……』
「ランちゃんと呼べぇええ」
『いやぁああ!マスタァアアア!』

すごい悲鳴が聞こえてきた。










しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...