劣等魔術師“口なし”の英雄譚

河内 祐

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準備ののちに討伐(後)

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『うぐ……ひぐ……』

温泉から出てしばらく待っているとアイが手で目を覆いながら外に出てきた。

『なんかもう……色々と失いました』
「そうなんだ」

僕はなんて声を掛けていいか……とりあえず変なあいづを打ってしまった。

『ブゥウウウン!』
「うわ汚っね!」

あまりにグズグズしているのものだから、なんとか励まそうとしたら僕のシャツで鼻をかみやがったよ!こいつ!まぁ体液とか出す機能つけてないか特に汚れてはいないがまぁまぁ嫌だ。

「速く戻るぞ飯の時間だ」

そう言うとドロンさんはベルさんの首根っこを掴んでズルズルと宿屋の方に向かった。

「お帰り!飯はもう出来てるよ!」
『わぁ……!』

宿屋に戻り席に着くとおばさんは料理をおいていた。
料理はビーフシチューでアイはそれを見て目をキラキラと輝かせていた。

『マスター!速く!速く食べましょ!』
「そうだね」
「『いただきます!』」

僕たちはバチん!と手を合わせると勢いよく食べ始めた。

「『美味しい!』」

ビーフシチューは熱々だったが、その熱さのおかげで少し湯冷めしてしまった体にはありがたく、全身を温め直した。シチューに入っている肉も柔らかくバクバクと食べれる。

「デザートもあるよ!」
「『食べます‼︎」』

ビーフシチューを食べた後に「『ふぅ』」と少し息を吐いていると、おばさんが待ってましたとばかりに声を張り上げて僕たちもそれに元気よく返事した。
デザートはフルーツの盛り合わせだった。
小さい器にリンゴや柑橘系が盛り付けされた中にバニラがあった。

『マスターやばいです!美味いですよ!』

アイはそう言いながら、バニラを食べ切った。

「わかるわぁ~」

アイの言葉にベルさんが反応をしスプーンでアイスを掬いながら食べていた。僕もスプーンで果物を切り、アイスと一緒に食べる。
アイスとフルーツは甘さと酸っぱさが混じりあっていてとても美味しかった。やっぱりアイスはバニラが1番かもしれない。

「それじゃあ俺らはギルドに戻るわ」

食事を終えたドロンさんはそう言って、ベルさんを掴み宿から出ていった。

「相部屋はこっちだよ」

おばさんは束になってる鍵をプラプラと指で遊びながら、僕たちを案内した。
そうだった!相部屋だったよ!

「それじゃあ、初仕事で疲れてるからないと思うけど」

部屋を案内した後、おばさんは神妙な顔持ちなった。

「“昨日はお楽しみでしたね”って念の為に言っておくよ」
「大丈夫です!しませんので!」

僕は慌てておばさんから鍵を受け取ると、おばさんを追い出すようにしてぐいぐいと押しながら部屋の扉閉めてしまった。

『マスター……』

ガチャリと部屋の鍵を閉めるとアイが静かに声を漏らした。

「……何?」

僕は恐る恐る後ろを見る。
あーやはり異性同士の相部屋だとこうなってしまうのかと。そんなことを思いながら振り返ると……。

『お祖母様から貰った物気になりません?』

すごいニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
わかってた!この人わかってやってたって絶対!
けど

「確かに僕も気になる」

この街に来る前に貰ったこれには一体何が入っていたのだろうか?
シュルシュルと袋の紐を緩めて中を確認すると、

「わっ!」
『綺麗……』

そこにはいくつかの希少アイテムや宝石なんかが入っていた。

「すごいな……魔獣の牙や皮、希少な鉱石がたくさん入ってる」
『あっ手紙も入っていますね』
「ほんとだ」

袋の中の雰囲気に呑まれていたが、雰囲気がこれまでと違った紙が無造作に置かれていた。
そこそこの距離の移動で中身や紙が無造作に入っていたら破けそうだけど、紙はまるで新品同然だった。
紙には[金が無ければ売るのもいい、自由に使え]と書いてあった。

「ありがとうばぁちゃん」

僕はそう言うと、自分のバックから板を出した。

『おっとうとうですか?』

アイもそれを見てすごい笑顔だった。

「そうだね」

僕はニヤニヤしながらペンを取る。

『いやぁ~全く魔術らしいことしてないのでとうとう飽きたのかと思いましたよ』
「やめて~」

耳が痛い。
文字効果もやってたけど即興だったしね。

「これより“魔術回路制作”を始めます」
『よっ!待ってました!』

材料がたくさん手に入った。僕らが今着ている冒険者のスターターセットにこの贈り物。
ばぁちゃん自由に使わせてもらいます!
因みに回路を巡らす音でおばさんが勘違いしたらしく朝ニヤニヤしながら僕たちの顔を見た。

ーーー

「あれ!装備めっちゃ……変わっ……てる?」

翌朝、ギルドの前で待っていたアイと僕たちの格好を見てモヒカンさんは驚いていた。
僕たちは手袋に宝石を入れて混ぜて少し毛色の変わった装備になっている。ゴーグルにももちろん少し細工をした。

「ほぉ……」

ヴァンさんはそれを見て少し驚いた顔をしながらも嬉しそうにウンウンと頷くと

「昨日よりマシになったか?」
『はい!楽しみに待ってください!』

と問いかけてアイがそれに即答する。

「そうか楽しみだ」

そう言って目的地の馬車に乗った。
今回はちゃんと僕たちの分まで出してくれたのを確認して降りた。馬車のおっちゃんも「あっ気づいた?」みたいな顔をしてた。

「それじゃあやってみろ」

ネッコノーヒトが逃げていった森や山の入り口に立つ。

「因みにネッコノーヒトはまだここにいるぞよっぽどあの畑が気に入ってたんだな」
『やっちゃえマスター!』

アイが僕から少し離れた後ろからおうえんしてくれた。

「あれアイさんは参加しねぇのか?」
『私は撃ち漏らし専門です』

モヒカンさんの質問にアイはフフンと胸を張って答えた。

『もっとも』

(集中しろ)

僕はゴーグルをかけ目を閉じて全身の魔力を感じる。
その魔力の流れを意識してゴーグルに流していく。

(見えた!)

本来、瞼の裏で真っ暗になった僕の景色はまるで鷹のうように高く景色を見る。
山から森に流れて行ってる川の流れやそこを泳いでる魚、そしてネッコノーヒトがバラバラに離れていてもどこにいるかわかる。

『今のマスターに』

そして、それらの風景を消さないように更に手袋の方にも魔力を込める。

「「!!」」

ヴァンさんとモヒカンさんがガタリと動いた気がしたが僕は全く気にせずに続ける。

『撃ち漏らしなどあり得ません』
「行け」

ドドドド!

僕の声に応えるかのように手袋は動く、いや正確には手袋の効果によって生まれた。魔力の塊、魔力は形のない霧に感じるがそれは術者のちからによって形を変える。
今の魔力は敵を貫く矢となった。

ドン!

一発の矢が落ちる。

ドドドド!

その後、他の矢も一斉に落ちてまるで雨のようだ。

「アイ!」
『撃ち漏らし無しです!』

アイもゴーグルをかけて索敵をする。

「いいなこれ」

僕はそう言ってゴーグルと手袋を見る。
そこに描かれた魔術回路は“索敵”“放射”を意味する回路だった。 

『やりましたマスター!英雄譚の第一歩を踏み出しましたね!』
「そうだね!」
『大虐殺譚第一章“草むしり”』
「ださい!」
『そんなことを言うなら何なんですか?』
「超すごすごアークの英雄譚第1章“バラン討伐」
『もっとダサい!』

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